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郷土紙という超ローカル新聞(連載2) 郷土紙には何が書かれているのか

80センチの大根が新聞記事になる

郷土紙は、おもに発行エリアに関係する地元のニュースを報道しています。
どんな新聞なのか知りたい方は、全国郷土紙連合のサイトを参考にしてみるといいと思います。

たとえばある県の南部地域を対象にした新聞なら県南部の中心都市の市政動向(市の政策や予算、市議会の動き、選挙に関連すること)や地域経済の動き、その都市が企業城下町の場合、本体企業や関連する下請け企業の動向などがおもな記事です。

全国紙の1面トップが
「補正予算 週末に可決へ」
などといういかにも新聞らしい記事が載る中、同じ日の1面トップが
「南北バイパス開通、県北地区との経済交流活性化へ弾み」
ということもあります。
全国的なニュースは、その地区に関係あることが中心で、国の予算でも選挙区の国会議員が尽力して(アピールして)ぶんどってきた部分しか報じられません。

企業のニュースにしても地元の有力企業である○△精密工業が今期最高益とか▲▲建設が駅前に8階建てビルを計画しているなどという超ローカルなことばかり。
日立製作所が…とか三菱UFJが…というのはほぼ紙面に載ることはありません。
もしあるとしたら、三菱UFJ○■支店で振り込み詐欺を防いだ△▲さんが犯人逮捕に協力して表彰されたというようなネタです。

このほかに地元の祭礼や「○×地区農産物品評会」など地域のイベント行事の様子など地元のできごとニュースはたいてい載っています。
市町村で発行しているの広報紙と同じようなくらしに直結した情報、市民館や公民館で開かれる講座の情報や地域の当直医療機関の情報などは、郷土紙ならではのきめ細かさで書かれています。
特産品のメロンの出荷が始まり、地元の道の駅でも販売を始めたなどというニュースも伝えます。
また市東部地区の■○さんの畑で長さ80センチの大きな大根が取れましたというような絶対全国紙では載らないほほえましい…いやどうでもいい話が載っている日もあります。

お悔やみ記事が充実すぎる

よくネタにされるような超マニアックなお悔やみ記事も郷土紙の定番です。訃報広告を出してくれた人へのサービスでもあります。
今もそうかわかりませんが、長野県の某紙では、伝記のように詳しい記事が載ることもあるようです。
例えば故・大和太郎氏は、父・真太郎氏と母・花子さんの間に長男として生まれ、〇〇小学校に入学し(中略)△×高校卒業後は、○○電気工業に入社。3年後に妻・淑子さんと出会い、一男二女をもうけ… などと生まれてから亡くなるまで、故人の人生を写真付きで100行くらいの記事を書くところもあります。
訃報記事は、田舎にとって欠いてはならない義理かけのための必要な情報なのです。地元選出の国会議員もこの部分はどんなに忙しくても必ず目を通すといわれています。


郷土紙の存在意義といえば東日本大震災でも郷土紙が大活躍したことを覚えている人も多いと思います。
石巻日日新聞(いしのまきひびしんぶん)です。

輪転機が水没という紙面発行が困難の中、新聞のロール紙(印刷前の紙がロール巻きされているもの、とてつもなく大きい)に手書きで情報をまとめ、壁新聞版号外として震災直後から発行地域である石巻市の避難所に掲載していました。

必要な情報を必要な人に届けるというメディアの原点です。
郷土紙が持つ取材網だからこそできたことだと思います。
元同業としても尊敬します。

恥ずかしいことですが、この記事のために調べるまで同紙のことを「いしのまきにちにちしんぶん」とまちがって読んでいました。郷土紙の中には〇〇日日新聞という紙名もいくつかあり、その場合「日日」は「にちにち」が多数派だからです。

選挙は大人の戦争


新聞によって編集方針は違いますし、各紙の経営者、編集局長も個性があるので一律に「これが郷土紙だ」といえるような新聞の形態はありませんが、郷土紙が最も力を入れているのもののひとつは、選挙です。
おそらくこれが郷土紙の存在意義のいちばんではないかと思います。

選挙は、田舎では娯楽であり、同時に大人の戦争でもあります。
町を二分、三分する争いになることも少なくありません。
中には親子3代、4代にわたって対立を続けることもありますし、違う陣営同士では結婚すらできないような激しいいがみ合いをしている地域もあります。

その選挙の情報を正確に…、そしてときには発行している新聞の経営者や大スポンサーがついている側の陣営が有利になるような報道するのが郷土紙です。
平たくいうと偏向報道ですが、公正と言いつつ左翼陣営に肩入れしているよりはマシなのではと私は思っています。

ひとつの地域に2紙以上郷土紙があると、国政において、まるで自由がないのにリベラルとのたまう左翼陣営を応援する某紙の編集方針ですら公平にみえるくらい偏向報道が行われることもあります。
読者、そして住民もそれを承知で読んでいます。

※某紙の編集方針が悪いとは私は思いません。主張してこそ新聞です。好きか嫌いかでいえば嫌いですけど、TMANYSという並びはふつうの大人はわかっていますから。

郷土紙が報じる地域の事情は知れば知るほどおもしろいです。
次回からは、固有名詞や地域などの設定を若干変更しながら郷土紙を発行する新聞社についてご紹介します。


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