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長靴履いて行けば?と言われないようになる方法

「雨だから長靴履いて行ったら?」

””小さい頃の雨の日の思い出ベスト10””に必ず入っていそうなこの言葉だけど、ワタシは言われた覚えが1度しかない。

たった一つの「長靴履いて行ったら?」の思い出。


あの日の雨は、土砂降りまではいかないけど、雨が傘にたたきつけられる音で隣を歩いている人の言葉が聞こえにくいくらいの強さだった。

出発前、廊下に荷物を置き、靴を履いているときにいつもは黙って見守るだけの母から珍しく声をかけられた。

「雨強そうやし、長靴履いて行ったら?」

「うん、わかった」

今履きかけの靴をつま先でつっかけながら、下駄箱に方向転換して長靴を取り出す。

赤い長靴。

大きめの靴が好きなワタシだけど、この長靴を買ってもらったのは大分前だった。買ってもらってから一度も履いて出かけたことがない赤い長靴。履いてみると、少しつま先がキツイような気がする。

「ちょっとキツイんやけど」

「あー、もう遅れるで!行ってらっしゃい!」

被せ気味に文句を封印されつつ、廊下の荷物を押し付けるように手渡される。いつもそうだ。「産まれた時から反抗期」という肩書を付けられたワタシの意見は、大体最後まで聞いてもらえることはない。

ワタシからすれば、反抗期なんてとんでもないことで、すべてにおいてYes!と答えるよくできたお嬢さんなんだけどなぁ。


「いってきまーす」

腑に落ちないもやもやした気分を傘と一緒に両手で持ちながら、学校へ向かって出発する。


‐‐‐

「ただいまー」

「おかえりー。 って、ストップ!動くな!」

「?」

ランドセルを背負いながら玄関を上がったところで、廊下に出てきた母に強い口調で止められる。え?今日何か変な物持って帰ってきたっけ?

両手を確認してみるけど、手に荷物は何も持っていないし、何回かやらかしたことがある「傘をもったまま玄関を上がろう」ともしていない。

慌てて廊下の向こうに引き返した母は、ぞうきんを手に持ち光の速さで帰ってくる

「とりあえず、その場で靴下脱いでこのタオルの上に乗って!」

あぁ、靴下ね、はいはい。

ぐっしょぐしょの靴下はなかなか足先に進んで行かない。足を上に上げた時点で泥水がしたたり落ちる靴下は、脱ごうと握った部分からもぽたぽたと濁ったしずくが垂れ落ちる。靴下はまだ一つも脱げていないのに、足元には水たまりができている。

「あんた何してきたん?!」

後ろを振り返ると、長靴を持ち上げながら鬼のような形相の母が目に入る。

「まさか、行き道からこの状態とか言わんでな?」

玄関ドアを開け、外に長靴を突き出しながらひっくり返す母。

”じゃばばばー”

勢いよく長靴から水が放出される。

それもそのはず。長靴いっぱいの水を貯めながら帰ってきたワタシ。足を抜いたとしても、長靴のくるぶし当たりまで水が入っていただろう。

母の鬼の様な形相は、鬼に変わっていき、恐ろしいオーラが玄関を埋め尽くしていく。ヤバイ。このままではヤラレル…

「いや、行き道は靴下べちゃべちゃに濡れてるくらいやったで…?」

とりあえず素直に自己申告をすることで誠実さを出し、罪を軽くしてもらわなくては。嘘をつくととんでもないことになるのはよくわかっていたので、正直に話をすることにした。

「帰りに何したん?」

「水たまりの水を傘ですくって、長靴に入れて帰ってきた」

「・・・」


「風呂場までタオルに乗ったまま進んで、お風呂はいってき…」


急にトーンダウンした母の言葉通り、足の下にタオルを引きながら風呂場まで移動してお風呂に入る。さっぱりとした気分の後にカミナリが落ちた記憶がないので、その後、いつものように遠山の金さんを見ながらの平和なおやつタイムが訪れたと思う。


記憶が改ざんされていなければ。


そしてそれから「長靴」という言葉が母の口から出ることは無かった。




孫に対しても…(←


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