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イチゴの末路(最終日

リンゴにものすごい形相でかぶりつくイチゴを眺めながら、ぼくは近くにあった切り株にぼんやりと座っていた。

身の毛もよだつおぞましい断末魔を発していただろうと思われる、物言わぬ無残な姿になってしまったたリンゴ。そしてそれとは対照的に、すべてを支配するモノだけが放つであろうオーラを身にまとい、牙をむき出しにしてリンゴにかぶりつくイチゴ。そんな姿を見ているうちに、ぼくの全身は鳥肌がたちすぎて毛という毛が立ちあがり、まるでハリネズミのようになってしまった。

リンゴを芯までかじりつくしたイチゴは、ぼくの方に顔を上げるとニヤリと笑いながら

「トビーはハリーに進化おできになる?」

とよくわからないことを言い始めた。言っている内容もそうだけど、使っている言葉がなんだかおかしいし、それ以上に眼つきがヤバイ。もともとおかしいところはあったけど、リンゴを目にして豹変してからどこかの回線がぶっつりと切れてしまったのかもしれない。

そんなことを考えながら、ぼくは両手で毛を元の形に落ち着かせようとなで続けてみたけど、逆立つ毛が収まる気配はまったくしない。ぼくは、このまま「ハリー」になってしまうんだろうか。イチゴもさることながら、ぼく自身のこともとてつもなく心配になってきた。


何か言わなくては。この状況を変えるためにも…


「ちょ、、、イチゴ、、、大丈夫なの?」

ぼくに声をかけられたイチゴは「( ゚д゚)ハッ!」とした顔を一瞬浮かべた後、なんだか気まずそうな顔になって、おずおずとぼくにこう答えた。

「おっと失礼。わたくし少々記憶が混乱しておりますでして…。アナタに何か粗相いたしませんでしたでございましょうか?」

「い…いや。大丈夫だよ。ぼくの呼び方が『トビー』になったくらいしか変わったことはなかったかな…」

「おぉ、そうなんでござりまするね!トビー!いい呼び名ですぬ。これからワタクシも『トビー』と呼ばせてもらいまするぬ」

「あ… うん」

「で、トビー。ちょっとお伺いしたいぬですが、なんだか見た目が「ハリネズミ」みたいになっておらっしゃりまするけど、体調でもお悪いんでござりまするぬ?」

「い…いや。大丈夫だよ。たまにあるんだこういうこと。だから心配しないで。すぐに元通りになると思うから」

「そうでござりまするか。大変でいらっしゃりますぬ」

なんだか腑に落ちない顔のぼくと、なんだか心配そうな顔のイチゴ。


心配なのは、きみのアタマだ。イチゴ。

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「それはそうと、どうしてぼくはミミトビネズミになったんだろう?やっぱりきみの仕業かい?」

「なにをおっしゃってらっしゃってるんでござりまする?トビーは産まれた時からミミトビネズミなんじゃぁござりませぬるか?」

「いやいや、めちゃくちゃ教室のドアにキミをはさんだよね?」

「はて?」

「『そんなわけなかろう』って連呼したよね?!」

「『そんなわけなかろう』ですって?まさか。そんなわけなかろう

「ほらっ!それだよそれ!!」

「(はっ)いやいや、顔色が悪いでござりまするし、毛が全身逆立ってハリネズミみたいになっておらっしゃりますし、トビーさんどうかなさったぬですか?調子がお悪そうでござりますぬ?」

「そもそもイチゴ。キミはドアで挟んでもつぶれないし、ぼくごと杖でがけから”さかなつり” ができるくらいの筋力だし、湯気が出るほどの熱量を持ってもぐずぐずにならないし、それになにより「リンゴにかぶりつける」その顎力!本当にキミは「イチゴ」なのかい?」

言いはじめたら止まらなくなってしまい、ぼくはイチゴに思っていた疑問をすべてぶつけた。


「イチゴ とおっしゃいましたか?」


しばらく間を置いた後、今までの雰囲気とは打って変わった様子でイチゴはぼくに向かって言葉をかけ始めた。

「え?」

ぼくはやっともとの「トビー」に戻ったところだったのに、またしても「ハリー」に逆戻りさせられてしまう。

「ですから、 イチゴ とおっしゃいましたか?」

ゆっくりとしたバリトンボイス。


いい声だ。


なんてことを言っている余裕はぼくには無く、どうにかこうにか震える声で

「だって、今まで「イチゴ」って呼んできたじゃないか」

と答えるのが精いっぱいだった。

「ふふっ」と含み笑いをした後イチゴは

「なぁ~んだ、知ってたのかよぉ?かくしてんじゃねぇよ!このトビーごときがぁ!あぁん!?おぉっと、今は『ハリー』ってかぁあ?」

とぼくを下から上まで嘗め回すように見ながら威嚇しはじめた。

「いやいや、隠してないし。隠してるのそっちだし…」

「俺様になにかご意見でもあるんですかぁ~あ?おぉん?」

アー、コレ、カイワニナラナイヤツ。ドウシタモノカ…

「言いたいことがあるんだったらちゃんと く ち で言いなさいって習ってこなかったんですかぁ~あ?トビーちゃんよぉお?」

メンドクサ…

背筋が凍るほどコワかったはずなのに、だんだんといろんなことが面倒臭くなってきて怖さなんてこれっぽっちも感じなくなってきた。本気で面倒だし、もう聞きたいことだけ聞いて終わりにしよう。

そう決めたぼくは、イチゴに向かって最後の質問をした。

「じゃぁ、イチゴじゃなかったらキミは何なの?」


「何なのだってぇえ?w あ た ま を使って考えなさいって習ってこなかったんですかぁ~あ?w あ、のーみその容量が減っちゃったから残念なことになっているのかなぁ~?w」


うっざ

とっとと消えちゃえばいいのに


「え?!今なんて?!」

なんで心の声が聞こえてるんだよ。設定ガバガバかよ。うるさいなぁ。目障りだからとっとと消えちゃって

「あ!?今キミ、とてつもなくヒドイこと言っちゃったよね?そんなことココで言っちゃダメなんだよ?!」

ココでってことはここじゃないところがあるってことか。じゃぁ、なおさらとっとと消えてしまえ

「ぐ … ぐわぁぁぁぁぁぁぁあぁ」

ぼくが強く消えてしまえと頭の中で唱えると、イチゴは苦しそうな声を上げながら直径5mくらいまで膨らんだ後、ドロドロと融けはじめてしまった。


やっぱりなんだかよくわかんないや


何が何だかよくわからなくなったぼくがぼんやりとその場に突っ立っていると、融けたイチゴだったものが大きな流れとなりぼくの方へ押し寄せてきた。

うっぷ。。お…溺れる………


っていうかくっさ!!!!!


あまりの臭さにぼくはまたどこか遠くの世界へ運ばれようとしているようだ。薄れゆく意識の中でぼくは、次の世界では、ミミトビネズミではなく、ぼくはナニになって目覚めるのだろうと考える。願わくば イチゴ みたいなやつと一緒に冒険する世界だけは免れますように…


そんなぼくに遠くの方から小さな小さな声が聞こえてきた。



そんなわけなかろう



(@_@。 モウ ニドト メザメタクナイノデスガ

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はじまりはこちら

第2話

第3話






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