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赤いパンツのふうせんネズミ

空を飛びたいな

そう思ったことも人並みくらいはあるし、風船で大空をふわふわと散歩したい。そんな夢を見たことだってもちろん一度や二度のことじゃない。

ということで、今日も創作話です。


ーーー

あるところに大空にとてもあこがれを持っているネズミのチュー吉が住んでいました。

少しでも大空に近い場所に居たいチュー吉は、街から少し離れた小高い丘の上の一軒家に一人で暮らしていました。そんなチュー吉は、日がな一日大空の事を考えて過ごしています。

「空ってほんとうにスバラシイよね。うっとりしちゃう」

朝日が昇る白っぽくなった後の明るい空もステキだし、雲一つないスカッと晴れた日もステキ。雲のアクセントがある日だってもちろん、灰色の曇り空だって、雨の日の空だって。マジックタイムのピンクや紫の空は芸術的としか言いようがないくらいスゴイし、夜の暗闇だって空を眺めていたら怖いなんてこれっぽちも感じない。

「こんな空に囲まれて、ぼくはなんてシアワセモノなんだろう」


ある日、いつものように家の外にあるハンギングチェアに座りながら幸せな気持ちをじんわりと感じていた時。

「やぁ、チュー吉。今日も幸せそうだね」

チュー吉が思いをはせる大空から、チュー吉目指して一直線にトンビのトン子が舞い降りてきました。

「あっ、トン 」

ぱくっ

チュー吉はトン子に食べられてしまいましたとさ。

おしまい。



ではなくて。

「やぁトン子。元気?キミはいいよね。あんなにステキな大空を毎日気持ちよさそうに飛べるんだから」

トン子はチュー吉のキラキラした眼差しを受けるとなんだか照れ臭い気持ちになりました。

「チュー吉はほんとうに空が好きだね」

「だって、空はほんとうにステキなんだもの。ぼくも大空を一度でいいから飛んでみたいなぁ」

「一度って…。こないだワタシの背中につかまって一度空を飛んだじゃない」

「あぁ、そうだったね…」

チュー吉はトン子の背中に乗せてもらって飛んだ大空の事を思い出すと、ぶるぶるっと身震いをしました。

「でも、あの空の旅はちょっと刺激が強すぎて、空を感じる前に死後の世界を感じちゃったんだもの…」

「うーん。確かに初めての旅の方法としては刺激的過ぎたかもね」

トン子はフフッと笑いながら、チュー吉の顔を覗き込みました。

「でもまだ空の旅に出かけたい!っていう顔 してるわよ?」

トン子と目があったチュー吉はもじもじしながら言いました。

「そうなんだよねぇ。もうちょっとマイルドな空の旅って出来ないものかなぁ…」

「そうねぇ」

トン子は少し考え込んでいましたが、( ゚д゚)ハッ!とした顔をしたかと思うと

「ちょっとまってて!!」

とチュー吉に言い残してどこかに飛んで行ってしまいました。


しばらくして大空から戻ってきたトン子が持っていたのは、チュー吉が4匹集まったよりも大きな風船でした。

「なにそれ?」

「これ?風船っていうのよ。今は空気よりも軽いガスが入っているから、これを体に付けたらふわふわと空の旅ができるんじゃないかしら?」

そういうや否や、トン子はチュー吉の体に風船の紐をぐるぐると結ぶとぱっと手を離しました。ふわふわふわふわ

「トン子!あ…足が地面から浮いているよ!スゴイスゴイ!」

「ふふふっ」

ふわふわと空に向かっていくチュー吉を見ながらトン子は満足げにほほ笑みました。

「これだったら怖くないでしょ?」

「すごいすごい!どんどんと空が近くなってきたよ!」

どんどんと高く高く飛んでいく風船とチュー吉。家の屋根を超え、高い高い木を下に見下ろしながら、チュー吉の体はまだまだ高く飛んでいきます。

そんな風船を見ているトン子の眼つきが鋭くなりました。トン子はチュー吉がそこにいるとわかっていながらも、無性に風船をつつきたくなったのです。びゅーーん

「おーい トン 」

パァァッァアァン 

トン子は衝動を抑えることができずに、チュー吉の風船をついついつついて割ってしまいました。

「あ~~~れぇ~~~~~」



でもなくて。

「どう?なかなかいい方法だと思わない?」

ふわふわと浮かんでいる風船の横を飛びながら、トン子は楽し気に話しかけます。

「うん!スゴイ!すごいけど!」

「すごいけどどうしたの?」

トン子が横並びのチュー吉を見た時、そこには腰に結ばれた紐を中心として、ぐるぐると高速で回転するチュー吉がいました。

「ちょ!?何してるの?!」

「し … 支点 … 」

青い顔をしてぐったりしたチュー吉は、ぐるぐると高速で回転することをやめません。これは危険だ!と思ったトン子は、チュー吉の腰に結んだ紐を嘴ですいっとほどくと、チュー吉を口にくわえます。

ごっくん



でもなくて。

チュー吉を加えたトン子は地上を目指します。

「うわぁぁぁっぁぁぁ やっぱりこうなるのかぁぁぁっぁぁぁぁ」

チュー吉はありったけの声を張り上げて何とか正気を保ちながら地上に到達しました。

「な… なんでぐるぐる回ってたの?!」

チュー吉を地上に下ろしたトン子はあきれた顔で問いかけます。

「ぼ… ぼくのせいじゃないよ…支えが一個だと風でぐるぐるまわっちゃうんだよ…」

「あ… そうなんだ。ごめんね…」

申し訳なさそうな顔をしたトン子はチュー吉に言います。

「今度はもっといい方法考えるわね」

よろよろとハンギングチェアにたどり付いたチュー吉はゆっくりと座りながらトン子にこういいました。

「トン子、ありがとう。でも大丈夫だよ。ぼくは空に近付きたいと思っていたけど、近ければ近いほどいいわけじゃないって今日思ったんだ」

「あら、そう?でも、なにかいい方法がどこかにあるはずよ?」

「うん。そうかもしれない」

「でもいいの?」

「でもいいんだ。ぼくは空を想いたいんだ。そりゃあ手が届きそうだからこそ追い求めたい気持ちもあるけど、でも、ぼくは空をぼくのモノにしたいんじゃなくって、空を眺めて想いたい」

「そっか」

チュー吉と並んで座ったトン子も一緒になって空を眺めました。

「そっか。そうよね。空、キレイよね」

「ね」


2人は暗くなるまで空を眺めていましたとさ。

おしまい


ーーー


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