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方方(Fang Fang)さんの武漢日記に触発されて :12月19日

 毎週できるだけ見るようにしているTV番組の一つが、土曜日朝の”BSテレ東ニュースの疑問”である。他のニュース解説番組とは異なり、①素人のコメンテーターが出ることはなく、ゲストは当該分野の専門家であること、②MCの山川氏が議論を誘導することもあるが、相対的にフェアであり、深く掘り下げること、の2点が理由である。

 今朝はファイザーのワクチン接種が始まったことを受けて、いつ日本にくるか?等のテーマで番組が作られていた。それ自体は取り立てて記録すべき内容でもなかったが、ゲストの一人、小野崎 耕平(日本医療政策機構 理事)氏の言葉で、改めて気付かされた事があるので記録しておく。それは、「ワクチンは安全保障上の戦略物資である」ということだ。

ワクチン開発競争に日本企業の名前が見えない

 COVID-19に対するワクチン開発は世界各国で進められているが、新聞等から得られるワクチン開発状況の報道で名前が見られるのは、ファイザー(米)、ビオンテック(独)、モデルナ(米)、アストラゼネカ(英)、シノファーム(中)であり、日本企業の名前を見ることは少ない。最近、塩野義製薬とアンジェスの名前も出てくるようになったが、臨床試験のフェーズとしても、先行している上記の企業に比べると遅れている。AnswersというWEbサイトに、新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(12月18日UPDATE)という解説記事に詳しい情報があるので、興味のある方は参照してほしい。

 医薬分野の事情には疎いが、科学技術立国である日本の企業名がなぜワクチン開発競争の中に出てこないのか、常々疑問に思っていた。”米国は、覇権に関わるのでワクチン開発に負けるわけには行かないのです”という今朝の小野崎氏の言葉で、恥ずかしながらやっと理解することができた。米、中、ソは軍事技術開発としてワクチン開発競争に取り組んでいるのだ。

安全保障に関する日本人の意識の低さ

 確かに、米国の空母でも集団感染が発生し、南シナ海での任務を中断して基地に戻ったことも記憶に新しい。其の時は、地域のパワーバランスが崩れる事態にならないかと不安になった。考えてみれば、米国が兵士を派遣することの多い紛争地域は、相対的に公衆衛生の状況は劣悪だろう。また、テロの発生する地域では、細菌兵器のようなものも開発されていると聞く。従って、米国・米軍にとって見れば、ワクチン開発は国家安全保障上の戦略の中に位置づけられているのだ。モデルナにも、国防省から相当の資金援助がでたという。このような安全保障に関する戦略があるからこそ、驚くべきスピードで開発が進み、FDA承認にこぎつけたのだ。

 日本もファイザーのワクチンを購入できる契約になっているので、政府は年度内には接種を始められるようにしたい、というコメントをしていた。我々は、同盟国が軍事技術として開発を進めてきたから、それが可能になる、ということを理解する必要があるだろう。国家安全保障を同盟国に頼っているのである。

 一時期政争の具となった日本学術会議は、かつて、”大学は軍事技術に関わる研究はしない”、という方針を発表した。また、イージス・アショア配備計画中止に伴い、「敵基地攻撃能力」が憲法が否定する「先制攻撃」に繋がりかねないという議論も始まった。これらの議論に共通して見えるのは、「攻撃」とは目に見える古典的武器(ミサイルや核兵器)でなされるもの、という思い込みではないだろうか。今や、古典的武器よりもサイバー攻撃が低コストで出来る有効な軍事力であり、最前線で働くのはドローンであり、感染症対策も国家安全保障上の戦略として確保すべきものなのである。

 5Gの通信網にもHuawei機器を採用しないよう、米国からの要請が出たように、軍事技術とは原子力やミサイルだけではないことを、日本人も理解すべきだろう。軍事転用の懸念があれば、転用させないための議論をすべきであり、研究開発もしないという考え方は間違っている。幸い平和に暮らしてきた我々日本人も、安全保障に関する意識をもう少し持つべきだろう。

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