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極貧詩 337             旅立ち㉒

卒業式終了後の思ってもいなかった担任の先生の「総括」の言葉
ヤッちゃん、シゲちゃんの順に涙腺を刺激する「愛」の言葉
中学校入学以来俺たち貧乏三羽烏のことをずっと気にかけてくれていた
最終学年の担任として俺たちのことを陰に日向に見てくれていた

同級生37人の中で俺たち3人の貧困状況は飛びぬけていた
他の男子数人、女子数人も貧困ではあったが俺たちには「敵わない」
着ているモノ、持っているモノを見るだけでその差が際立っていた
俺たち3人は小学校1年生の時から「筋金入り」の貧困状況が続いていた

先生は俺たち3人の学校での、勉学状況はともかく元気で明るい生活態度に好感を持ってくれていた
ヤッちゃんとシゲちゃんは勉強以外の学校生活ことでいつも褒め言葉をかけられていた
いつか真夏に誰もいない廊下で俺にかけてくれた言葉が今でも忘れられない
「お前は突然湧き上がってきたあの入道雲のようだな」
「入道雲は一層、二層、三層とどんどん高く積み上がる」
「1年、2年、3年と積み上げてきて、どこまで積み上げられるんかなあ」
「入道雲のように青空を背景にどんどん大きくなれるといいなあ」
入道雲とは妙な気もしたが夏空にむくむくと立ち上がる姿は印象的だった
先生独特の励ましの言葉だったに違いない

俺が回想にふけっていると「イチッ」と呼びかけられて我に返る
「イチ、お前も今日までは俺の息子だからな」
「いやあ、お前は驚きの結果を出したなあ」
「一番で入学なんて職員室は大騒ぎだったよ」
「高校から連絡があったんだけど、その時はちょっと信じられなくて聞き返したぐらいだよ」
「まぐれだとか大番狂わせだとかいう人もいるだろうけど、俺はお前をずっと見ていたから、さもありなんと思っていたぞ」
「この中学校で初めてのことだ」
「寒村のこんな小さな中学校からとんでもない結果を残してくれたよな」
「下級生の励みにもなるし、今後の語り草になるだろうなあ」
「イチ、お前は小学校の安藤先生を知ってるよな」
「実は俺と安藤先生は仲がよくてな、お前のことが気にかかっていたのかいつも様子を聞いてきていたんだよ」
「安藤先生はお前の小学校時代のことや、家庭状況なんかを話してくれてな、いつも応援していたよ」
「今年はお前たちの担任になって、1年の締めくくりに素晴らしい置き土産を置いていってくれてありがとうな」
「お前の父ちゃんも母ちゃんもさぞかし嬉しかっただろうなあ」
「親孝行ここに極まれりだな」
「一生懸命頑張れば必ず実を結ぶんだということをお前は見事に証明してくれたよな」
「小5の後半から人が変わったように頑張りだしたって聞いてるぞ、よく途中で息切れしなかったよな」
「根性があったんだろうなあ、根性って言えばお前の兄さんもすごかった」

先生の口から俺の兄のことが飛び出してきた
先生は兄のことを知っているのだろうかとドキドキしながら先生の次の言葉を待っていた
ヤッちゃんもシゲちゃんも身じろぎもせずジッと先生の言葉を聞いていた
時々そうだそうだ、とでもいうように深く頷いていた



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