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極貧詩 324             旅立ち⑨

中学3年生、最後のホームルーム
感動、落涙で時が止まったままの教室

追い打ちをかける先生の、心にズシンと落ちる言葉
「いやあ、本当に楽しかった」
「いい思い出がたくさんできた」
「ありがとうな」
「先生はずっとこの学校にいたいと思ってる」
「けれどいつか転勤で他の学校に行くかも知れない」
「この37名に会えたのは奇跡かもしれない」
「先生と生徒の関係はこれが最後だけどな」
「でも縁あってどこかでまた会うかもしれない」
「1年後かもしれないし、先生が爺さんになってからかもしれない」
「実はな、先生はみんなのことを絶対忘れない方法を思いついたんだ」
「ほかの先生方には内緒にしてくれよ」
「この中学校の校舎のどこかにお前たち37名の名前を刻み込んだんだ」
「どこかはお前たちにも内緒だ」
「校舎の一部に傷をつけて俺は悪い先生だよな」
「だからお前たちがいなくなってもお前たちはここにいるんだ」
「先生が転勤してもお前たちここにいるんだ」
「この学校が亡くならない限りお前たちはここにいるんだ」
「さあ、そろそろ本当のお別れだ」
「みんな元気で頑張るんだぞ」
「たまにはこの中学校や先生方のことを思い出してくれよな」
「そして最後の担任の俺のことも思い出してくれよな」
「それじゃあな、みんな、これから本当の人生が始まるぞ」
「頑張れよ、先生はいつでも応してるからな」
「みんなの親が別室で待ってるから、名残り惜しいけど、さよならだ」
「じゃ、みんな、さよなら、はい、解散」

最後の学級委員長山本君の号令「起立、礼」
「先生、ありがとうございました」
その声に合わせて全員で声を振り絞る
「ありがとうございました」

先生は顔を上向き加減にして教室のドアを開けてゆっくり出ていく
出ていく寸前で左手を振っていう
「じゃあな、またな」

残された37名は半ば放心状態でいったん席に着く
鼻をすする音以外は何も聞こえない教室で押し黙ったまま数分
三々五々仲良しグループ同士おぼつかない足取りで教室を出ていく

俺、シゲちゃん、ヤッちゃん、阿吽の呼吸でふらっと立ち上がる
お互いに頷き合いながら教室を出る
先生の話の余韻を引きずりながら親のいる待合室に向かう


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