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2/26:ラップのしん

「あ」
 おにぎりを作ろうとしてラップを引っ張ったら、切れた。岳は淡々と、ストックしてあった新しいラップの封を切った。
 備品は常に切らさぬように管理している。次回買い物時に補充すべく、記憶しておくこととした。

「岳、それください」
「ん? 芯か?」

 いつの間にか足元にいたしぐれに言われ、岳はラップの芯を渡してやった。
 どうせ捨てるだけのものだから好きにしていいものだが、何をするのかは気になる。

 ラップの芯を受け取ったしぐれは、軽やかな足取りで岳から離れた。キッチンからリビングに繋がる廊下で立ち止まり、振り返る。

「おにぎり、作らないんですか?」
「作るぞ」

 昼食用のおにぎりだ。作らないわけにはいかない。でも気になる。
 岳は手元の作業は続けながら考えた。

 そういえば、少し前にラップの芯を通して飼い猫の写真を撮るのが流行っていたはずだ。たしか、『猫満月』といったか。往年のスパイ映画のオープニングみたいに、ライフルで狙いをつけているみたいな絵面が大ウケしていた。

 なるほど、わかった。

「岳」
 しぐれが呼んだ。

 きたぞ。まちがいない。
 しぐれの狙いは『岳満月』だ。

 岳はおにぎりを握りながら振り返り、ポーズを決めた。
 ライフルの向こうで狙い返す、ダブルオーライセンスを持つ男のポーズだ。スパイの代名詞みたいなヒーローである。

 果たして。

「岳、もっとです!」
「こうか。こういうのはどうだ」
 米粒まみれのラップを持ったまま、岳はポーズを取り続けた。
 ちょっとつかれた。



(NK)


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