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2/8:コロコロ

 こたつ布団やセーター、あるいはカーペットに落ちた髪の毛。静電気が気になる季節だからこそ、こまめに掃除しなくてはいけない。

 幼児のいる家庭ならなおさらだ。

 岳は埃をたっぷりくっつけた粘着テープを剥がした。
 ペンキローラー型の粘着クリーナーはとても便利なアイテムだ。立って使う床用のものと、座って使えるふとん用、それに小型かつ粘着力控えめの衣類用の三種類を揃えてある。

「コロコロするの、たのしいですか?」
「楽しい? ……あまり、考えたことはなかったな」
 岳にとっては掃除はタスクのひとつだ。手早く確実に行うために道具を使いこなしているだけである。

 しぐれの目には遊んでいるように見えるのだろうか。


「やってみるか?」
「はい!」
 ぱっと明るい顔で頷いたしぐれが、次の瞬間、姿を消した。

 何度見ても理屈がわからない変身だが、ミューミントがこういうものなら仕方ない。受け入れるのもハンドラーだ。

 岳は落ちた子供服の中でじたばたしている灰色の仔猫を助け出してやった。

「お前、コロコロしたかったんじゃなかったのか?」
 仔猫の姿では粘着クリーナーは転がせない。どういうことだろうか。

 みぁー


 しぐれが鳴く。
 岳はクリーナーと仔猫を見比べて、そっと、小さな灰色にクリーナーを転がしてみた。毛が取れる。

 ぃあ!

 パシっと指を弾いたのは猫パンチだった。痛くも痒くもないが、驚く。

「こうじゃないのか。じゃあ、何なんだ。わからんぞ」
 そう言うと、仔猫が体を伸ばしたまま、ころんと転がった。
 こたつ布団の上をコロコロ転がる仔猫。


「……そっちか」
 つまり、クリーナーを転がすのではなく、転がされるほうをやってみたくなったらしい。

 岳は苦く笑って、そっとそっと、仔猫を転がしてやった。


(NK)

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