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2/11:さんぽ

 天気のいい日は気分も良い。
 しぐれも機嫌が良さそうだ。

「散歩に行くか」
「はい」

 寒い寒いとこたつの仔猫になっていたが、ぽかぽか陽気に外に出る気になるらしい。良かった。
 ほっとして、岳はしぐれと一緒にマンションを出た。

 散歩ルートはいくつかあるが、晴れて気分のいい日はロングルートだ。まっすぐで歩きやすい道で、行き止まりには有名な私立大学がある。学生街らしく書店やカフェやファストフード店が立ち並んでいて、普段の生活圏とは違う雰囲気があるのだ。

 毎日同じ景色ばかりというのは刺激が少なくて、情操を育てるのには良いことではない。ハンドラーであり岳には、しぐれの健やかな成長に必要なことは何でも取り入れる義務がある。

 日差しを浴び、手を繋いでゆっくり歩く。

 しばらく進んだところで、しぐれが「あ」と言った。
「岳、おおきな犬ですよ!」
「そうだな」

 進行方向右手、路肩に犬がいた。側の柵にリードが繋がれている。正面にはコンビニがあるから、飼い主は買い物中なのだろう。

 大きくて、明るい茶色の犬はゴールデンレトリバーだ。大人しく座っている状態で、しぐれの背丈くらいはありそうだ。

 しぐれの視線に気がついたらしい犬がこちらを見た。
 そして、目礼した。
 しぐれはすっと犬から視線を外した。
 挨拶を返さなくていいのだろうか。

「マナー違反ですよ、岳。アイコンタクトは一瞬で切るのがお作法ですよ」
「……すまん。不調法だった」

 岳が素直に謝ると、しぐれはうふふと笑い、そしてすぐにまた

「あ!」

と言った。

「……あかちゃんです!」
 思い切り岳を見上げて、口元に手を添えて、小声で言う。

 たしかに向こうからベビーカーが近づいてきている。ぱたぱた動く足はかなり小さくて、赤ちゃん度100%オーバーの赤ちゃんが乗っていそうだ。
 ちなみに赤ちゃん度というのはしぐれが作った指標で、しぐれが測定している。岳に言わせれば、しぐれもかなりの赤ちゃん度だと思うので、基準は不明だ。

「かわいいですね」
「そうだな」


(NK)

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