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しおこんぶ

「……岳。目を開けてください、岳」

 ささやき声に薄く目を開け、岳は思わず顔を顰めた。
 起き抜け、目の前に突きつけられたらペン型ライトの光でもかなり眩しい。しかも真っ暗な寝室でだ。
「しぐれ? 何だ、夜中だぞ?」
「尋問です」
 鼻先がくっつきそうなほどの近い位置で、しぐれが言った。岳の胸に馬乗りになって身を乗り出している。目が完全に据わって、瞳孔が真っ黒だ。

「正直に答えてください」
「何を……?」
「しぐれに、隠し事をしていますね?」
「え?」
 しぐれに隠していることなら山ほどある。岳は情報将校だ。任務上、しぐれに伝えられないことだらけと言ってもいい。

「……心当たりがありますよね、岳」
 しぐれは真顔である。ちょっとこわい。
「そう言われても……。いや、待て、お前、なんで起きてるんだ。夜中の二時だぞ?」
「正直に答えてくださいって言っています」

 これは、答えなくてはテコでも動かない気だ。
 岳は密かに息を飲み込んだ。
「しらべました」
「何を?」
「……岳。はらわた汁には伝統的にそえられるべきモノがありますね?」
「は……? いや、それは」
 しぐれがにやりと笑った。感じの悪さが上官の帆坂に似ている。

「甘味をよりよくあじわうために塩味を用意するのは常套。チョコレートポテトチップス然り。塩大福然り。……はらわた汁にもありますね? そしてその存在を隠しましたね、岳」

 淡々と、だが断固としたしぐれに、二の句が告げなかった。
 岳は敗北した。

ぐるぐる目

   ×   ×   ×

「これが塩こんぶ」
 いつものスーパーの乾物コーナーで目当ての品を手にしたしぐれが、口を丸くした。
「言っておくが、一度にたくさん食べるものじゃないからな。ほんのちょっとだぞ。計るからな」
「早くお買い物しちゃいましょ。それで、はらわた汁をつくってください。おもちはあと四つありましたけど、買い足しですよね」
 今日の特売は白菜とスライスチーズです、と、言ってないはずの買い物計画の通りに案内されては笑うほかない。

「帰りにはらわたと、おさかなのあんこのやつも買うか?」

「はい! ぜひ!」
 しぐれがぱあっと笑った。
 

 (了)
  


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