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2/17:プリン

 「クレームキャラメルがたべたいです」

 おやつのリクエストを聞いた返事だ。
 しぐれが言うのは近所のケーキ屋、もとい、パティスリーで売っている小ぶりのプリンのことだ。
 がっつり甘い焼き菓子がある店で、岳もわりと気に入っている。

「シュー・ア・ラ・クレームでもいいですよ」
 シュークリームというには小さいが、しぐれには丁度良さそうな大きさのシュークリームも、しぐれは気に入っている。

「売り切れてたらそっちにしよう」
「はい!」

 地元店とはいえ、東京だ。知らなかったが有名店らしく、時々、お目当てのものが売り切れていることがある。そういう時には我慢してもらうしかないが、しぐれがごねたことはない。聞き分けがいい幼児なのだ。
 岳がそう褒めるときっと、「しぐれは優秀なミューミントですから」とふんぞりかえるだろうから、言わないでいる。

 店は、臨時休業だった。

 張り紙を見上げたしぐれが、小さな肩をがっくり落とした。
「……クレームキャラメル、たべたかったです……」

 駄々を捏ねたり、泣き喚いたりしなくても、こういう態度は胸にくる。こう、罪悪感というか、無力感というか。この小さきものの望むものを与えてやりたいという気持ちが押し寄せてくるのだ。

「……そうだ。俺のおすすめのプリンをためしてみないか?」
「岳のおすすめ?」
 不思議そうにするしぐれを抱き上げて、岳は近くのコンビニエンスストアに入った。


「これを、こうするんだ」
 シールパッケージを開けて、皿の上に器を伏せて、底についている突起をぱきんと折る。卵色の物体がブルンと震えて皿の上に落ちる。

 そういう仕組みの充填式プリンは手軽なおやつで、昔から人気のある商品だ。岳も子供の頃によく食べた覚えがある。

「……これが、噂の……!」
「そうだ。プッチンするプリンだ」
「もう一回、もう一回やってください、岳!」

 しぐれが目をまんまるにして言った。
 もちろん。

 残りふたつ分、ぱきんぱきんと折って見せてやった。



(NK)

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