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じいちゃんが苦しまずに逝った話

馬主で大家で占い師、大久保占い研究室の田中ことあらいちゅーです!
今回は「ほぼ無料」記事です。最後の最後、べつに読んでも読まなくてもいい一節だけ100円となっています。投げ銭してでもその一節を読みたいという方だけ、最後までお読みください。

もう7年だか8年だか前の話になるが、大阪の実家の母親から「じいちゃんが倒れた」という電話をもらった。

大丈夫なのかと聞いたところ、ぜんぜん大丈夫ではないとのこと。全身に癌がみつかり、もう手の施しようがない状態で、余命は一ヶ月から三ヶ月だと宣告されたそうだ。

若い頃は酒に女にギャンブルにと悪さをぶっこきまくっていたじいちゃんだが、不思議に俺とはウマが合った。具体的には、ふたりでよく競馬に行った。

日曜日になると南海線に乗って難波にでかけ、WINSの脇にある小さな喫茶店に陣取って、じいちゃんが予想した馬券を俺が買いに行く。俺は老け顔だったので、高校生くらいの時にはもう普通に馬券を買えていた。

そんなことを大学に進むまでやっていた。このときには自分が本物の馬主になるとは夢にも思っていなかったけれど、まあ、それくらい縁の深いじいちゃんだった。

苦痛を払ってくれとご祈祷をお願いした

すぐに駆けつけたいと思ったが、その当時もう東京で働いていたので、今すぐ帰るというわけにはいかなかった。余命は一ヶ月以上あるというので、週末に一度帰ると母親には約束した。

しかしやはり気が気でない。癌は肺にも転移していると聞いていた。肺癌は苦しい。肺の機能が妨げられているので、しぜん呼吸困難になる。酸素が足りないつらさはモルヒネでは散らせないそうなので、やるせなかった。

そこで何ができるわけでもないけれど、当時あれこれとご祈祷をお願いしていた、某県のお寺さんに電話をかけた。

「いつもお願いしている○○です。じいちゃんが癌で倒れて、もう手の施しようがなくて…治らないのは間違いないので、せめて苦痛を払ってくれないでしょうか。そういうご祈祷が可能でしたらお願いします」

ご住職は快く引き受けてくれた

この寺院はいわゆる聖天さま(大聖歓喜天)を祀るお寺で、東京では浅草の待乳山聖天、奈良では生駒聖天、大阪では福島聖天などが有名だ。現世利益と救済の神様ということで、聞いたことがある人もいると思う。インドではガネーシャさまとして祀られている。正確に書くと、ガネーシャさまが仏教に取り込まれたのが聖天さまだ。

その聖天さまのご祈祷に「浴油」というものがある。かんたんに書くと、清浄な油を聖天さまに一週間ぶっかけ続け、かなえてほしいことをお願いするという儀式だ。

どうして油をかけたら願いがかなうのか、詳しい理屈は検索すれば出てくるので割愛するが、聖天さまのご祈祷にはとても効果があると感じており、このお寺さんには仕事、恋愛、その他色々とお願いごとをしていたのだ。

ご住職は優しい声でこちらをねぎらい、そして祈祷を引き受けてくれた。

「明日から一週間続けます」

じいちゃんの様子が急変した

悪いながらも安定していたじいちゃんの容態だが、ご祈祷をお願いした2日後に急変してしまった。もう、もたなそうだと母親から電話が入ってきた。

新幹線に飛び乗るべく自宅を駆け出し、新大久保の駅前に着いたところで母親から再度電話があった。いま、じいちゃんが逝ったそうだ。

「苦しんでいたか」と訪ねたところ、全身癌で呼吸も困難だったはずなのに、不思議と苦しんではいなかったとのこと。ひとりで死ぬのはつらい、母親がそばにいてくれてよかった、そう言ってフウと逝ったそうだ。

すでに新幹線も飛行機もない時間だったので、明日の昼の便で大阪に戻ると母親に告げて電話を切った。

ご祈祷の効果があったのは間違いないと思っている。じいちゃんの死に目に会えなかったのは残念だったが、東京と大阪の距離の差を思えば、致し方なかった。

この一件をきっかけに聖天さまをさらに信心するようになり、おりにふれて供物をあげたり、寄進を出したりしている。その結果かはわからないが、起業して、競走馬を一頭買えるくらいの太いオッサンにはなれた。じいちゃんのようなワルにはならないと思うが、同じくらいは楽しんで生きていけると思う。

じいちゃんが逝った翌日、お寺にお礼の電話をかけたら…。

じいちゃんが逝った翌日。大阪に戻る支度、そしてお通夜や葬式の段取りの電話でてんてこ舞いになっていた。お昼頃になって、お寺さんに電話をしなくてはと気がついた。浴油祈祷はあと4日残っている。じいちゃんがもう死んでいるのに、ご祈祷をあげてもらっては申し訳ないからだ。

「昨夜だと思っていました」

お寺さんに電話をかけ、じいちゃんが苦しまずに逝った旨を報告し、感謝を伝えた。するとご住職からこんなことを聞かれた。

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