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国立科学博物館のクラウドファンディングについて思うこと

8月7日から始まった国立科学博物館(科博)のクラウドファンディングが11月5日に終了した。

当初の目標金額は1億円。とても大きな金額で、この目標設定は、科博としても大きな冒険だったと思う。科博の関係者、会見に集まったメディアの人たちの多くは、その目標の高さに「果たして達成できるか」と感じているような印象を受けた。クラファンの期間は3か月ほどあったので、私は「その期間内に1億円を達成することはできるだろう」とは思っていた。

だが、プロジェクトが公開させると、そのような事前予想は見事に裏切られた。出足から多数の支援が寄せられ、1日も経たないうちに目標金額の1億円を超えたのだ。1億円もの資金を1日で集めてしまうこと自体が、大きなニュースとなった。最終的に、このクラファンは56577人の支援者から、9億1592万円もの資金を集め、幕を閉じた。

今回の科博のプロジェクトは、これまでの国内のクラファンの中で、最もたくさん支援者が援助し、支援額も過去最高となった。集まった金額だけを見ても驚きだが、集まった資金を支援者の数で割ると、1人あたり約1万6189円。もちろん、もっとたくさん出した人もいるだろうけれど、この数字から言えることは、今回のプロジェクトは一部の大金持ちが大きく支援したのではなく、たくさんの市民が自分の出せる範囲のお金を出し合って、大きな支援となったということだ。

私は、このクラファンが成功してよかったと思うし、科博のファンだったり、科博に意義を見いだしてくれている人たちがこれほどたくさんいると可視化されたのはとてもいいとこだと思う。

でも、同時に、今回の科博のクラファンは今の日本の学術や文化の窮状を象徴しているともいえる。今回、科博がクラファンに踏み切った要因は、コロナ禍による入場料収入の減少や、物価高や電気代などの高騰による経費の急激な増加だ。このような急激な運営環境の変化に国が対応してもよかったはずだが、国は科博への予算を増やすことはなかった。

ここ数年、独立行政法人などには収入の多角化などが求められていて、国からの予算(運営費交付金など)に頼らずに収益を増やし、運営することが期待されていた。科博も、入場料だけでなく、テレビドラマのロケ現場の貸し出しなど、収入を増やす努力をしてきたが、限界がある。

この状況は科博に限ったものではない。他の博物館、美術館、そして大学なども同じ様な状況に置かれている。アメリカなどでは国などの予算が出ない場合でも、富豪などが大口の寄付をして文化や学術の施設や組織を支える文化がある。

そのような寄付文化のない日本であったが、近年、クラウドファンディングが注目されるようになり、大学や研究所などがクラウドファンディングに取り組むようになった。手前味噌になるが、そのあたりの事情を取材し、以前、記事にまとめたので、それも合わせて読んでいただければと思う。

私の目からは、今の政府は学術や文化などを育てようという気がないように思えてならない。例えば、ノーベル賞のような世界的な賞などを受賞すれば、盛大にお祝いしてくれるだろうけれど、現在進行形の研究などを手助けしようという動きが見えない。

今回、科博がクラファンせざるを得なかったのは、基盤的な運営費の不足が原因で、研究者の研究などをセーブしたりして、何とか赤字にならないようにして耐えてきたものが、耐えきれなくなったからだ。大学などでも、基盤的な運営費が減少しているから、研究者をはじめ、職員を十分に雇えなかったり、老朽化した設備を直せなかったりしている。今の予算配分の制度を少し変えるだけでも、よくなる部分もあるはずなのに、それすら見直ししないように見える。

それをたくさんの人たちがよしとしなかったからこそ、今回の大きなうねりとなったのだろう。だが忘れてはならないのが、今回は「クラファン」という手段を使って、「科博」という有名な組織が窮状を訴えたから、ここまで大きな話題になったということだ。

科博には賛助会員という独自の寄付システムがある。こちらの方で十分に寄付金が集まっていれば、手数料を払ったり、返礼品を用意するなどの手間をかけてクラファンをする必要がなかったかもしれない。でも、あまり注目されてこなかったので、今回の事態になったのだけれども。

これは大学や研究機関、他の博物館などにも同じことがいえる。大きなクラファンのプロジェクトが成功すると、手数料のことなどが話題になるが、手数料を払ってでも、たくさんの人たちにリーチして、新たな出会いが期待できるクラファンに挑戦して、組織が活動できる資金を得たかったということだと、私は解釈している。現に、科博はクラファンをやったからこそ、これだけの話題になったので、宣伝費と考えれば、手数料分のもとは取れたかもしれない。

今回の科博のクラファンの話題に触れて、手数料などにモヤッとした人は、手数料などがかからずによりダイレクトに科博を支援できる賛助会員になってみてはいかがだろう。

今回のクラファンは、国が学術や文化などを支えきれなくなっていることが、具体的な出来事として現れはじめたということなのだろうか。私は、こういう話題が出ると、「国はもっと学術や文化を維持、発展させるためにお金を使わないのかな」などと思ってしまうが、国はもう、そういうところにお金を使いたくても、使えなくなっているのかもしれない。

特に日本では、学術や文化は国がしっかりと支えるという意識が強かったように思うが、その考えを転換していく必要があるところまで来ているのかな。そうだとすれば、国だけでに任せないで学術や文化などを支える新たなしくみや形が必要になる。

クラファンもその一部にはなるだろう。でも、それだけでは不十分だ。常に十分な資金が集まるとも限らないし、わかりやすいもの、目立つものだけに資金が集まって、地味だけど大切なものはあまり注目されずに終わってしまう危険性もある。正直言って、今の私にはどうすればいいかわからない。でも、その新たなしくみを探し、模索していく必要があるのだろうなと思う。

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