見出し画像

2024年 ノーベル生理学・医学賞受賞者予想

今年もまた10月がやってきました。そうです。ノーベル賞発表の時期です。

何年も続けてきたということもあり、今年も予想をやっていきたいと思います。正直言って、当たるも八卦、当たらぬも八卦という要素が強いのですが、この時期の1つのお楽しみとして気楽に読んでください。

ということで、10月7日発表予定の生理学・医学賞の予想をしていきましょう。

まずは、近年の受賞理由の振り返りから。

 2007年 胚性幹細胞を利用したマウスの遺伝子改変技術
 2008年 ヒトパピローマウィルス(子宮頸がん)
      ヒト免疫不全ウィルスの発見
 2009年 テロメアとテロメアーゼ酵素(染色体を保護するしくみ)
 2010年 体外授精技術
 2011年 自然免疫の活性化、樹状細胞と獲得免疫
 2012年 リプログラミングと多能性獲得技術(iPS細胞)
 2013年 たんぱく質の細胞内での輸送(小胞輸送)
 2014年 脳内の空間認知システムを構成する細胞の発見
 2015年 感染症やマラリアに対する治療法の発見
 2016年 オートファージ
 2017年 概日リズムを制御する分子メカニズムの発見
 2018年 免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用
 2019年 低酸素状態における細胞の応答
 2020年 C型肝炎ウイルスの発見
 2021年 温感と触覚の受容体の発見
 2022年 絶滅したヒト属のゲノムと人類の進化に関する発見
 2023年 RNAワクチン開発を可能にしたヌクレオチド塩基修飾に関する発見

昨年の2023年は、RNAワクチン開発の基盤をつくったカタリン・カリコー博士とドリュー・ワイスマン博士に贈られました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックで、世界全体の活動が止まってしまいました。しかし、RNAワクチンがすばやく開発されたおかげで、世界はまた動き出せるようになりました。カリコー博士とワイスマン博士にノーベル生理学・医学賞が贈られたのは、驚きではなく、ある意味で当然とも思える結果でした。

COVID-19のRNAワクチンが本格的に実用化されたのが2020年末から2021年初めのあたりで、それから2年ほどでのノーベル生理学・医学賞の受賞は異例の早さともいえますが、それほどのインパクトがあった業績だったのです。

さて、2024年の受賞者予想に移りましょう。ここ数年の受賞理由の傾向を見てると、医薬品や治療法などで臨床に応用された研究分野と人体の生理学的なしくみなどを明らかにした基礎的な研究分野が交互に受賞しているように思えます。

きれいに毎年交互になっているわけではありませんが、傾向としては今年は基礎的な研究分野で受賞者が出そうな順番ではあります。

たとえば、2020年にガードナー国際賞を受賞した竹市雅俊博士は、細胞間の接着分子カドヘリンを発見しました。人のような多細胞生物が存在するのは、細胞間接着のしくみがあるからで、カドヘリンは動物の種を越えて働く基本的な接着分子です。しかも、シナプス結合やがんの浸潤、転移などにも関係しているといいます。

また、2022年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞には、細胞間接着分子の一種であるリチャード・ハインズ博士、エルキ・ルースラーティ博士らが受賞しているので、細胞間接着の発見と発展とかのくくりで、竹市博士と共同受賞などもあたっりしてと、妄想が膨らみます。

2021年にアルバート・ラスカー基礎医学研究賞した光遺伝学のカール・ダイセロス博士も要注目でしょう。光遺伝学は、遺伝子を組みこんで、特殊なたんぱく質を発現させることで、光のON、OFFで細胞を制御できる技術で、記憶についてのメカニズムなどの研究が進みました。ダイセロス博士は2018年に京都賞を、2023年に日本国際賞をそれぞれ受賞していて、国際的にも注目されています。京都賞は単独受賞ですが、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞はペーター・ヘーゲマン博士、ディーター・エスターヘルト博士と、日本国際賞はゲロ・ミーゼンベック博士と共同受賞しているので、ダイセロス博士が受賞するときは誰と共同受賞するのかも楽しみの1つです。

それから、2023年のクラリベイト論文引用賞を受賞した柳沢正史博士、クリフォード・セパー博士、エマニュエル・ミニョー博士も有力な候補だと思っています。受賞理由は「睡眠/覚醒の遺伝学的・生理学的研究、および重要な睡眠制御因子としてナルコレプシーの病因にも関与するオレキシンの発見」です。柳沢正史博士はオレキシンを発見して、ブラックボックスだった睡眠のしくみの一端を明らかにして、睡眠科学という新しい分野を開拓しましたが、まだまだ新しい分野なので、ノーベル賞を受賞するとしても、5〜10年ほど先になるかもしれません。

そういう観点で考えれば、食欲と体重を調整するホルモンであるレプチンを発見したダグラス・コールマン博士、ジェフリー・フリードマン博士の方が研究分野としても定着し、たくさんの人たちの関心も強いので、ノーベル賞を受賞する可能性もあるのではないでしょうか。

2024年のクラリベイト論文引用賞を受賞した彦坂興秀博士、アン・グライビエル博士、ヴォルフラム・シュルツ博士の「運動制御や学習行動の中心となる大脳基底核の生理学的研究」もテーマとしてはおもしろいと思うのですが、クラリベイト論文引用賞とノーベル賞を同じ年に受賞する例は少ないので、その点が弱いかなと思います。

サポート頂いたお金は、取材経費(交通費、宿泊費、書籍代など)として使用します。経費が増えれば、独自の取材がしやすくなります。どうぞよろしくお願いいたします。