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忘れっぽい私(や誰か)のための短い読書 25

三島 鏡花は、煉獄界で、いろんな形で変わっていく。ですから、たとえばお化けと人間との交渉も、「天守物語」の中で一番人間的なのは、お化けになっちゃうでしょう。ああいうアイロニーで転換しちゃう。ラストでは、純粋な愛というものを表現するのは、お化けの女と人間の侍、それを保障するのが芸術家の木彫師ですね。それで芸術家というのは、鏡花の場合、変なヒューマニズムがありますから、人間的な情熱とか、誠実とか、恋、美、純粋なものを保持する側に立つんですよ。しかしその正義が必ずしも人間の形をしてなくともいいんだね。
澁澤 人間の形してない正義なんてありますか。
三島 それは鏡花の実に不思議なところだよ。鏡花の人間主義というのは実にアイロニカルで、最終的にはお化けにしか人間主義がないことになっちゃうんだ。
澁澤 だから人間主義じゃないんですね。
三島 人間主義じゃないんだけれども、鏡花は人間主義に毒されているところがちょっとあるんだ。鏡花の欠点をあげつらえば、最終理念というか、どん詰まりで信じたものは、人間主義みたいなものに毒されていた。もうひとつ通り越していたら、もっと凄くなっていただろうと思うな。
澁澤 本当のお化けになっていただろうな。
 
 澁澤龍彦 三島由紀夫おぼえがき

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