孫易磊は宝物の話

北海道日本ハムファイターズはホーム最終戦の翌日・9月29日に台湾出身の孫易磊(スン・イーレイ/Yi-Lei Sun)と契約合意したと発表した。

契約内容はまだ明かされていないものの、このタイミングで獲得が発表されたという事は、以前から報道されていた通り育成契約となる様だ。 ※支配下契約は7月末が期限のため

陽岱鋼(陽仲壽)は日本の高校からドラフトへ経て、王柏融はCPBL(台湾プロ野球)からのポスティングでの加入のため台湾のアマチュアから直接獲得するのは初の事である。



台湾の現地Xアカウントによると、MLBではレイズやレッドソックスなど・NPBでは読売やソフトバンクなど日米10チーム以上がスカウトを送り争奪戦が繰り広げられていた。日本ハムが提示した契約金は63万ドル(約9400万円)との事。

契約金80万ドル(約1.2億円)を提示したMLBチームもあったそうだが、親御さんの「マイナーよりもNPBの方が大事に育ててくれる」「台湾から見に行きやすい」という意向もあった様だ。

かつてドラフトで逆指名や自由枠があった時代は全く歯が立たなかった読売やソフトバンクではなく日本ハムを選んでくれたのは、「ダルビッシュ有や大谷翔平を育てた実績が評価された事」と「陽岱鋼や王柏融をキッカケに台湾市場を開拓した事」が理由だろう。

ここ数年はどちらかと言えば悪い意味で世間の注目を集める事の方が多かったので、北海道に移転してからチームが行ってきた取り組みが評価された事は素直に嬉しい。



さて、孫易磊の話だ。

2005年2月10日生まれの18歳である、日本だと早生まれで1つ上の世代だが台湾は関係無い。所属が大学なのは新学期が9月だからだろう。 ※台湾の教育事情に詳しくないので間違っていたら教えてください

高校1年までは主に1B/OFでプレーしていたものの、今年の春から投手としての才能が開花。183cm/81kgと立派な体格の持ち主で、先日行われたU-18ではオーストラリア戦では7.0回を投げて平均152キロ・アメリカ戦では最速156キロを計測した。

変化球ではチェンジアップが140キロ前後出ており一軍でも決め球になり得るだろう、加えてスライダーも投げられる。少ない映像を見る限りだとコマンド(構えたところに投げる)は取り立てて良くはないものの、コントロール(ストライクを取る)はそこまで苦労しなさそうという印象を受けた。

台湾の記者がロールモデルとして中日の高橋宏斗を挙げていたが、それも納得の好投手である。彼がもし今年のドラフト候補ならほぼ間違いなく最初の12人に入ってくるだろう。

この投手を確保した上で更にドラフトで1巡目指名出来るのは得した気分だ。外国人枠というデメリットはあるものの、近年は外国人枠をフルで活用出来ているチームはほぼ無いのでその点は大きな問題ではない。

※ちなみに、個人的には「フレームもエンジンもひと回り大きくした畔柳亨丞」というイメージを持っている。最終的にブルペンに落ち着く可能性もあるのでは?


とはいえ、懸念もある。

台湾のアマチュアから直接NPB入りした選手といえば、MLBでもローテ投手に成長した元中日等のチェン・ウェインの名前が真っ先に挙がる。ただ、次点となると元ロッテ等のチェン・グァンユウや現楽天の宋家豪がリリーフで戦力になったくらいで、そこそこの人数が契約している割に渋い印象だ。

受動的な打者に比べれば能動的な投手の方がアジャストはしやすいにしても、まだ身体も完成していない18歳を(同じアジアとはいえ)言葉のほぼ通じない異国で育成するのだ。当然一筋縄ではいかないだろう。

2018年にMLBドラフトで1巡目(全体8位)指名された、アメリカの高校生でも最高級の素材だったカーター・スチュワート Jr.ですら、19年5月にソフトバンクと契約してようやく一軍戦力になったのは5年目の今季。素材はあくまで素材なのだ。

ドラフト指名した1-2年目の高校生投手と同様に、孫易磊も二軍で登板間隔を空けながら慎重に起用される事になるはず。腰を据えて育成するためにも、支配下ではなく育成契約でスタートするのは大ファインプレーである。

日本ハムは過去3度のドラフトで指名した高校生投手達が順調に成長しているため、根本悠楓松本遼大達孝太畔柳亨丞松浦慶斗福島蓮柳川大晟安西叶翔と20歳前後のピッチングプロスペクトの層が非常に厚い。

(根本は既に一軍戦力になりつつあるが)同世代の投手達と鎌ヶ谷で切磋琢磨をして、数年後にエスコンフィールドで“新時代”を作ってくれる事を心待ちにしたい。


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