アレン・ハンソン獲得の話

4年振りの3カード連続勝ち越しを決めて(ゲーム差0ながら)5位で月曜日を迎えた日本ハムだが、アレン・ハンソン(Alen Hanson)の獲得を発表した。背番号は「94」との事。

おそらく10年程度MLBを追っている方であれば、この名前に聞きなじみがあるのではないだろうか?そして、彼の所属が日本の独立リーグ・ルートインBCリーグの“茨城アストロプラネッツ”である事に驚く事だろう。

彼はピッツバーグ・パイレーツのマイナーに所属していた13年、ゲリット・コール(現ヤンキース)とジェイムソン・タイヨン(現カブス)に次ぐチーム3位の、そしてMLB公式のランキングで全体54位に選出された元トッププロスペクトだった。

もちろんその期待ほどの結果を残せなかったからこそ来日する事になった訳だが、かといって全く爪痕を残せなかった訳ではない。16-19年の4シーズンでMLB通算261試合に出場しており、17-18年は2年連続で100試合以上に出場している。

特に18年は守備で2B/3B/SS/LF/RFをこなしつつ、打撃でも本拠地が打者有利のジャイアンツで打率.252/8HR/OPS.699とまずまずの数字を残した。19年以降はMLBの舞台から遠ざかっているが、まだ30歳と若く衰えてはいないだろう。


さて、ここまでで“10年前”にかなりの期待をされていて、“5年前”にMLBでそれなりの結果を残したプレーヤーだという事は伝わっただろう。問題は“現在”がどうなのかだ。

4月25日に新潟で初出場してからは出場8試合全てで3番打者としてに出場しているが、打撃成績はお世辞にも良いとは言えない。

[打率] .233 [HR] 1 [打点] 6 [盗塁] 4
[出塁率] .314 [長打率] .367 [BB/K] 1.00

ただ、4月23日に来日してからまだ2週間程度だ。地球の裏側にやって来てほぼぶっつけ本番で出場して結果を残すのは、いくらMLBで実績があるとはいえ難しいだろう。

特に彼の場合は体調不良の影響で22年シーズンは無所属だったのだ。夏に治ってオフ期間にウィンターリーグでプレーしたものの、その26試合だけで約1年のブランクを取り戻せるとは思えない。


つまり、まともに評価できるのは更に前年の21年シーズンという事になる。この年のハンソンは6月にマリナーズとマイナー契約を結び、3Aで40試合に出場している。ここで参考になるのが加藤豪将アリスメンディ・アルカンタラだ。

加藤豪は故障続きでNPB公式戦デビューは果たせていないが春季キャンプで実力の一端は見せているし、アルカンタラは1年半である程度の実績を残している。何よりも彼ら3人とも21年に同じTriple-A Westでプレーしていたのである。

これからチームメイトになる2人と比較して、ハンソンがどんな選手なのかを分析していきたい。


▶ 打撃について

ハンソン
[] .275 [] .344 [] .449 [BB/K] 0.52

加藤豪将
[] .306 [] .388 [] .474 [BB/K] 0.55

アルカンタラ
[] .280 [] .337 [] .586 [BB/K] 0.26

まず打率に関しては、シーズンによってブレが大きいのでそれほど語る事はない。それぞれのマイナー通算打率がハンソンは.279・加藤豪は.255・アルカンタラが.275という事を考慮すると、加藤豪はやや出来過ぎだった感がある。

次に出塁率だが、そのまま比較するのではなくIsoD(出塁率-打率)に注目する。これにより「どれだけ四死球で出塁したか」…つまり選球眼の良さを示す、基準は.070だ。

ハンソンは.069なので“並”・加藤豪は.082なので“良”・アルカンタラは.057なので“悪”と言える。ちなみにアルカンタラのNPBでの通算IsoDは.058なのでほぼ同じだ。

IsoDと併せて名前の通り「三振が少なく四球を選べたか」を示すBB/Kを見ても、基準の0.40を大きく下回るアルカンタラとは異なり、ハンソンと加藤豪は打席で悪くないアプローチが出来ている様だ。

最後に長打率だが、こちらも出塁率と同様にIsoP(長打率-打率)を見る。「長打でどれだけ塁を稼いだか」という純粋な長打力を示すものだ、基準は.130である。

ハンソンは.174・加藤豪は.168なので充分な数字ではあるが、ここまで「選球眼もアプローチが悪い」扱いされていたアルカンタラが.306と圧倒的。それでもNPB通算IsoPが.192なのでスラッガーを引き当てるのは難しい。

面白いのがIsoPはほぼ変わらない2人で、その内訳を見るとハンソンが「138打数・6二塁打・6三塁打・2本塁打」なのに対して、加藤豪が「350打数・27二塁打・4三塁打・8本塁打」という事。

ハンソンの長打は柵越えではなく三塁打で稼いでいるのだ。加藤豪も日本では中距離打者扱いされているが、彼と比較しても明らかにパワーレスだ。マイナーでも二桁HRを放ったのは2A時代の14年が最後なので、スラッガーではなく完全にギャップヒッターと言って良い。

ちなみにスイッチヒッターだが、右打席(vs.左腕)では打率.235/OPS.581・左打席(vs.右腕)では打率.288/OPS.863なので、基本的には左打者扱いして問題無いと思う。


▶ 守備について

ハンソン
[INN] 309.0 [RDA] +3.9
[BRR_ARM] -1.7 [DRP] +2.2

加藤豪将
[INN] 327.0 [RDA] +1.4
[BRR_ARM] +0.4 [DRP] +1.8

アルカンタラ
[INN] 107.2 [RDA] +0.7
[BRR_ARM] +0.2 [DRP] +0.9

※用語解説
[INN] イニング [RDA] 守備範囲
[BRR_ARM] 送球 [DRP] RDA+BRR_ARM

こちらに関しては殆どの人が「何言ってるか分からん」だろう。今回使用したのは独自の指標を多く公開しているBaseball Prosupectusという現地サイトだ。

その中には貴重な“マイナーの守備指標”を見る事が出来る。それにBaseball Referenceで調べた守備イニングを加えたのが上の表である。尚、21年にハンソンはほぼ2Bしか守っていないので、今回は2Bに限定して話をする。

気になるのは他の2人と異なり、守備範囲で明確なプラスを生みだしている事だ。前述の三塁打が多い事といい、やはりスピードは特筆すべきものが有る様だ。マイナー通算223盗塁を成功させているだけある。

ただ、一方で送球で大きなマイナスを生んでいる。守備指標はシーズンごとの揺れが大きく、19年は逆に送球はプラスで守備範囲がマイナスなので何とも言えないところだが、合流した際は注目したいところだ。

MLBでは2B中心ながらバッテリー以外の7ポジションで起用されており、18年にはSSに105.1回就いてDRS±0/UZR+1.8/OAA+2と無難に守れているので、ファンとしてはそこまで気にする事は無いと信じたい。


そんな訳でアレン・ハンソンについて纏めると…

●実戦から離れており現在は調整中
●選球眼やアプローチはまずまず
●二塁打・三塁打を量産するタイプ
●両打ちだが左腕は苦手
●バッテリー以外はひと通り守れる
●守備範囲は広いが送球は要確認

こんなところだろうか。アルカンタラやボビー・スケールズらと比較する声が多いが、そこまでの長打力は無いので、個人的には06年に在籍したホセ・マシーアスと重ねている。

また、近々のチーム事情にも彼はマッチする。ファンであればご存じの通り現在の日本ハムは野手の故障者が続出しており、二軍はギリギリの人数で回しているので「2B郡拓也・SS中島卓也」という試合も多いのだ。

本来なら一軍登録されている水野達稀奈良間大己細川凌平のうち1人は、ベンチを温めるくらいなら将来のために二軍でスタメン出場して経験を積んで貰いたいのである。

アメリカやメキシコから新助っ人を獲得すればビザなどの兼ね合いで契約から来日までラグがあるが、ハンソンがいるのは新潟だ。既に支配下登録公示もされているので、何なら明日にでも出場可能なのである。

助っ人は「一軍登録が5人まで・ベンチ入りが4人まで」なので、先発日以外はメネズをベンチ外にしておけば彼が昇格しても問題無い。※登板日はロドリゲスの休養日に充てる形になるだろう

もし明日から合流出来るのであれば9~14日の鎌スタ6連戦で調整をして、(二軍が19日まで試合が無いので)16日の西武戦からエスコンフィールドの方に合流してくれれば最高だ。


ハンソンの加入で支配下登録は68人になった。育成選手を昇格させる可能性を考えればこれ以上増やしたくないところではあるが、どうしても新しい投手がもう1人欲しいところだ。

金銭的な事でいえば日本の独立リーグであれば移籍金・年俸はかなり抑えられる。このクラスの選手を獲得しつつ、もう1人獲得出来る余地を残したのは大きいだろう。

枠に関しては4月22日に右肘治療の為に帰国中のジョン・ガントの経過次第にはなるが、何とか更なる新助っ人投手、もしくはNPB経験のある独立リーガーあたりを連れて来て貰いたい。


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