打撃スタイルの話

先日、渡邉諒が「昨季は打率を気にして逆方向へ打つ事を意識し過ぎていた」という旨のコメントをしているのを見かけた。

この類いのコメントはそれほど珍しいものではない。秋季キャンプくらいの時期には誰か彼か「長打を狙うより確実性を求めた打撃をしたい」と発言するものだ。

分かりやすい様にパワプロのステータスで例えてみよう。「ミートE パワーB」の選手がいたとして、おそらく打撃改造をする事で「ミートD パワーC」、あわよくば「ミートC パワーC」にしたいのだろう。

しかし、実際には「ミートE パワーC」になって「ミート多用 流し打ち」の得能が付く様なイメージだ。残念ながらこの手の打撃改造を行って好転した例をあまり見たことが無い。

もちろん無い事は無いだろうが、大半の選手は長打力が落ちた上で打率もさほど上がらない。レギュラー定着後だと森本稀哲小谷野栄一が印象的だ。

残念な事に前者は06年・後者は10年をピークに、年々打者として魅力が無くなってしまった。※小谷野は飛ばないボールとの兼ね合いもあるが


打率を上げたいのならむしろハードヒットを心がけるべきだ。打球速度が速くなればなるほど、放った打球がヒットになる確率は上がる。

つまり、理論上は打率をあげたいなら引き付けて流し打ちするよりも思いっきり引っ張った方が良いという事だ。※更に言うならゴロよりもフライ(中でもライナー)を打った方が良い。

この考え方がフライボール・レボリューションだ。「とにかくアッパースイングで振り回してフライ上げろ」というものではない。

ただ、いくら引っ張って強い打球を打つ様に心掛けても残念ながら劇的な打率アップは見込めないだろう。

打球方向が偏る打者は今の時代、極端なシフトによってヒットコースを塞がれてしまう。こうなった時に初めて流し打ちが活きてくる。

ヒットゾーンが広い選手にはシフトが敷きづらいからだ。「しっかり引っ張れるし、場面によっては流し打ちも出来る」という打者は当然だが優秀だ。

しかし、走者が居ようが居まいが反対方向ばかりに打つ打者は恐くない。というか打球方向が偏るので“広角打法”でもなんでも無い。


おそらく反対方向に打つのが評価されやすいのは、「ポイントを近くにする分ボールを見送りやすくなる」「ヒットにならなくても進塁打になる」というところだろう。

いわゆる“献身的な打撃”というやつである。しかし、最高のチームバッティングとはHRの事であろう。

前後の打者に関係無く1人の働きで確実に1点が入るし、1イニングでたった3つのアウトを減らす事無く攻撃を続ける事が出来るのだから。

「投手に球数を投げさせる」「アウトカウントを増やしても走者を進める」という打撃が全く必要ないとは言わないが、あくまで“+α”の要素である。

5球投げさせる代わりに1アウトを献上するなら、初球をヒットした方がアウトが増えない分トータルの球数は増える可能性が高まる。

そして、進塁打に関してはあくまで最低限…要は最低の限度であって、それ以上でもそれ以下でもない。それを最大限に評価されても困る。


冒頭に名前を出した渡邉だけでなく、二桁HRを打つ力は既にあるはずの清水優心石井一成淺間大基も同様だ。

近藤健介
と(昨季まで在籍した)西川遥輝という待球型の巧打者2人が間近にいる事もあるのだろうが、あのスタイルで一流の結果を残せる方が特殊なのである。

彼らは参考にこそすれど目指すべきではないので、若い選手達はまず“しっかりと振れる打者”になって欲しい。細かい事を気にするのはその後で良い。

課題の長打力不足解決はレナート・ヌニェスアリスメンディ・アルカンタラら新戦力にかかる期待も大きいが、彼ら中堅どころの上積みに期待したい。

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