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ステーキの焼き方は強火?弱火?

 牛ステーキを焼くときには「まず強火で短時間焼いて肉汁を閉じ込め、あとはアルミホイルに包んで予熱で火を通す」のが最も良い方法だと昔からまことしやかに言われている。

 自分も長らくそうしていたのだが、ふるさと納税の返礼品で届いたステーキ肉についていた紙には「美味しい焼き方」として「弱火でじっくり焼き、最後にちょっとだけ強火で焼き目をつけて」と書かれていた。

 興味を覚え、実際そのとおりにしてみると、これが自分史上最高と言ってもいいくらいに大変美味しく仕上がった。

 自分はあまりステーキの生の部分が好きではないので、外食でステーキを食べるときにはレアではなくミディアムを指定していたし、自宅でも焼くときも少し長めの時間を取っていたのだが、レアに比べるとどうしても少しパサパサしてしまうのは否めないところだった。

 しかしこの焼き方だと、外側の茶色い部分は短時間なので薄いし、内側はほんのりピンク色にちょうどよく火が通っており『生焼け』の部分が無い。まるで上質のローストビーフのような仕上がりだ。

 食べてみると、焼き目がついた外側の香ばしさはそのまま味わえ、内側はいい感じに火が入っているので柔らかく噛み切れるし、ジューシーな肉汁とちょうどよく温められた脂が口内を満たすという、最高と断言できる焼き加減。

 今まで信じていたものと全く逆の手法が実は正しかったという事実を突きつけられた時の、自分の中の常識がガラガラと崩れていく感覚。

 これがパラダイムシフトというやつか。



気になったから調べてみた

 なぜ弱火でステーキを焼くと美味しくなるのか。

 調べてみると、どうやらテレビ番組「所さんの目がテン!」からこの方法が有名になったようで、そこには温度管理のマジックがあるようだ。

 肉の水溶性タンパク質は50℃を超えたあたりから凝固・収縮し、これが噛み切りやすさに繋がる。ステーキの生の部分が噛み切りづらいのはこれが十分に起こっていないからだ。

 しかし、60℃を超えると今度は肉の水分やエキスが外に出てくる。これがいわゆる『肉汁』なのだが、これが続くと水分が抜けてパサついてしまう。

 つまり、ステーキ肉を焼く際には「50℃~60℃の範囲で長時間焼くことで中までじっくりと火を通しつつ、肉汁は逃さない」のが重要で、それを実現するのが「弱火でじっくり」の焼き方になる。

 そして最後に強火で短時間焼くことで「メイラード反応」を起こし、食欲をそそる香ばしさをつける。

メイラード反応(メイラードはんのう、Maillard reaction)とは、還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質)を加熱したときなどに見られる、褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のこと。 褐変反応 (browning reaction) とも呼ばれる。
<Wikipediaより>

 これはつまり、低温調理の手法をフライパン上でやっているということになる。低温調理器を使う場合は事前の準備やパッキング等が必要になるが、こちらはフライパンだけでできるので楽だ。

 


ロジカルクッキング

 先のテレビ番組において「なぜ美味しくなるのか?」という分析をされていた料理研究家の水島弘史氏。彼は温度だけならず食材の切り方や塩分も計算して行うという科学的なアプローチによる「ロジカルクッキング」を提唱している。

 正直、最初にそれを知ったときには「正確に測るとかめんどくさいし、なんだかうさんくさそう」と思い、手を付けなかった。しかし、ステーキの焼き方を変えるだけでもこれだけ味が変わるという事実を突きつけられてしまった今、そのアプローチには非常に興味が湧いている。

 これまで自分はずっと、料理とは経験や情熱によって決まるものだと思いこんできたが、完成形から逆算して計算通りに火や素材を操るという姿勢はまさに『料理は科学』。

 藤沢数希氏によって提唱された「恋愛工学」は、同じく経験や情熱によって決まると長らく思われていた男女の恋愛について、進化生物学や心理学の研究成果、金融工学のフレームワークを使って、科学的なアプローチを試みたものだと言われている。

 であれば、料理に対しこれまで一般的だった常識や技術論等を廃し科学的にアプローチしようとするロジカルクッキングは『料理工学』とも言えるのかもしれない。

 一歩踏み出し、新しい世界に飛び込んでみる価値は十分にあると思った。



 

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