増殖機

明るいことを話していたかった。
人々に温かい気持ちでいてほしいと思うし、そういう「良い」影響を与えられる人間でありたいと願った。
嘘でも良かった。嘘を付き続けるといつかそれは本当になるんじゃなかろうか、なんていう一縷の望みもあった。
優しい言葉を吐いて人々を優しい気持ちで満たしたかった。

でも無理だった。
そもそも、誰かのことを良い方向へ導くということが私自身のエゴであるかぎり、それは綺麗で鮮やかな橙色の毒キノコを差し出すようなものではないか。

いつも答えを求めては、
生きることは苦しいと結論づける。

頭によぎる数多の義務が自転車をスタンドを立てたまま漕いだときの車輪みたいにフルスピードで走る。
やがて義務は閃光になり花火のように弾ける。
テレビの砂嵐の混沌が切れるときのようにぷつんと突然消えて静かになる。

こんな風に人を傷つけ、困らせることでしか感情を消化できないのだろうか。
正の感情を送り出したいはずの私は真反対の行動を取る。
鬱々と自分の中に閉じ込めていたほうが、人に迷惑をかけないだけよっぽどマシなのだろうか。

誰かのことを不快にしかしない文章を世間様に晒すことで自分を満たそうとしている醜い自分への嫌悪。

精神的自慰行為。

自己嫌悪。

阿呆らしい。

大人になっても相も変わらず愚か者。

いつになったら私はこの生に慣れるのだろうか。

慣れたところで退屈だと喚いては変えようとするのはいつも私なのだが。

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