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妄想からはじまるイノベーション。SFプロトタイピングとは?| METHODLOGUE #03

いわゆる、イノベーションのジレンマ。「現実」に侵され、突き抜けたアイデアが出てこない──。そんな時は思いきってファンタジーの世界へ飛び出してみませんか?


アクアリング主催イベント「METHODLOGUE(メソドローグ)」の第三回ではSF作家の樋口恭介さんをお招きしました。

今回お話いただくテーマは「SFプロトタイピング」。SF作家の想像力で未来のストーリーを紡ぐことで、事業のプロトタイピングを行うというもの。では、さっそくSF作家の頭の中を覗き見てみましょう。

プロフィール紹介

樋口 恭介 | Higuchi Kyousuke

作家。会社員。
近刊『未来は予測するものではなく創造するものである』で第4回八重洲本大賞受賞。外資系コンサルティングファームに勤務する傍ら、スタートアップ企業 Anon Inc. にて CSFO(Chief Sci-Fi Officer)を務め、多くのSFプロトタイピング案件を手掛ける。『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し作家デビュー。その他の単著に評論集『すべて名もなき未来』、編著に『異常論文』。

METHOD1 | SFプロトタイピングとは?

人工知能、宇宙旅行、3Dホログラム──。かつて「SFの世界のもの」だったテクノロジーは、今、現実のものになっています。

SF作家たちは未来を予見したのか。それともSFで描かれた未来を誰かが実現させようと考えたのか。 

多くの企業がイノベーション創出に課題を抱える中で、SFの想像力をビジネスに活かす試みとして、「SFプロトタイピング」という手法が注目を集めています。 

SFプロトタイピングとは、どのようなものなのでしょうか?

樋口氏
SFプロトタイピングとは、「目を開けたまま、夢を見るツール」です。製品やサービスをつくるときに、ニーズやターゲットからはじめることがありますよね。SFプロトタイピングはその真逆。自分の理想とする世界とそこに登場するプロダクトを先に作ってしまう。ニーズは後からついてくるという考えです。
現実をベースに技術やニーズを組み合わせてプロダクトをつくっていくのが「フォアキャスト」だとすると、SFプロトタイピングは妄想の未来から「バックキャスト」で考えるというアプローチです。

Google共同創業者のセルゲイ・ブリンやAmazon創業者のジェフ・ベゾスなど、多くの起業家がSFの世界に憧れて、事業を起こし、それを現実の世界のものにしたと言われています。
 また、アメリカだけでなく、最近ではテクノロジー先進国となった中国もSF産業に力を入れているそうです。

樋口氏
中国共産党の幹部がシリコンバレーを視察したとき、みんながSFの話をしていて、「SFって何なの?」となったみたいで。シリコンバレーの起業家たちと意見交換をしているうちに未来を先取ることの重要性に気づいたみたいなんです。
そこから中国発のSFを生み出すために、SF小説やSF映画を優遇するようになり、10年。結果は明らかですよね。中国では光り輝く「ブレードランナー」のような街がたくさん生まれ、空には編隊を成すドローンが飛び交っています。

METHOD2 | SFプロトタイピングの方法

SFの想像力をビジネスに、とは具体的にどうすればよいのか。そのプロセスを樋口さんは次のように語ります。

樋口氏
基本的には小説を書くんです。なぜ小説なのか。一般的に事業の構想を書くときは箇条書きにしますよね。でもその箇条書きの間にはすき間があるんです。それをストーリーにしようとするとそのすき間を埋めなくてはならなくなります。
その過程で当初は考えてもいなかったことを思いついたり、調べ物をしていくうちにだんだんと思考が深まっていく。書きながら世界観が分厚くなっていきます。
僕がSFプロトタイピングを書くときは、だいたい4000字くらいのショートストーリーにすることが多いです。
ストーリーの基本スキームは5W1H。西暦は2200年?舞台は日本?200年後の地球は海面上昇が進んでいるから、もしかしたら日本人は船の上や海上都市で生活しているかもしれない──。

こんな風に想像と変化をつなげていくのが、SFプロトタイピングの基本的な考え方です。

5W1Hからさまざまな事象を連想し、つなげ、1つの世界を作り上げていくSFプロトタイピング。この一連の作業の中で、ただ1つ変わらない軸になるものがあると言います。

樋口氏
時代が変わっても「人間」だけは変わらないんです。そのため、何か1つ環境の変化があったときに、人間がどう反応するかを想像すると、連鎖してどんどん変化が生まれていきます。

METHOD3 | SF作家と考える、ローカルテレビ局の存在意義

イベントの後半では、アクアリング 副社長の水野と樋口さんによる対話形式のディスカッションが行われました。
テーマは「ローカルテレビ局の存在意義」。アクアリングの親会社である中京テレビもまた、既存のテレビのビジネスモデルから脱却し、新たなイノベーションを模索する企業のうちの1つ。

長年中京テレビに在籍し、業界の第一線で活躍してきた水野から、樋口さんに向けて現在のテレビ業界が抱える課題について話がありました。モデレーターはアクアリング 吉村が努めます。

アクアリング 代表取締役副社長:水野 幹久

水野
今、テレビ局の課題としてよく言われるのが「テレビ離れ」です。そもそもデバイス自体から視聴者が離れてしまっている。

地上波というデリバリーのツールを使って、視聴者にコンテンツを届ける。そして、そこに広告主が集まり、お金を生み出すというのが、従来のテレビのビジネスモデルです。

ただ、この地上波というものがなかなか成り立たなくなってきてしまっているわけです。そこで視聴者との新たなタッチポイントであったり、新たなデリバリーのツールに悩んでいるというのが、テレビ業界の現状です。

樋口氏
SNSの登場以降、コミュニケーションは「マス」ではなくなってきていますよね。マイクロネットワークで情報を交換するというのが基本的なコミュニケーションになりつつある。

TikTokとかはまさにそう。自分たちにしかわからないようなカルチャーをマイクロコミュニティに向けて発信して楽しむという、ユーザーのネットワークが自発的に生まれてくるようなサービスです。

ローカル局も、マスではなくマイクロコミュニティに向けてコンテンツを大量に投下していくということは考えられないのでしょうか?

水野
おっしゃる通り。地上波は「放送」というくらいですから、nという対象に対してコンテンツを「送り放つ」ものです。

オンラインの世界にどうやってコンテンツを送り届けるか、これは数年来の課題ではあるのですが、そのコミュニケーションのとり方が分かっていないというところがあります。

樋口氏
なるほど。実は僕が今回面白いと思っているのが「ローカル」という部分で。

ローカルって物理的近接性に根ざす言葉じゃないですか。歩いて対象に会いに行って、名古屋というマイクロコミュニティに向けて放送する。小さい空間での話だから視聴者も歩いてその対象のところに行ける。

最近メタバースが流行していますが、それに逆行して物理的なイベントや対面に価値を見出すのも面白いように感じます。

ローカル局としてのパーパスや存在意義を見つめ直して、そこに根ざした事業を考えていけば、地上波放送にこだわる必要はないようにも思いますね。

水野
コミュニティーを育てていく、という感覚ですかね。

樋口氏
そうです、そうです。東海地方の人たちには「東海」という記号によって束ねられる同胞意識のようなものがある。そういうものを強化するイメージです。

マスメディアが日本国民全員を束ねるって、もう不可能だと思うんです。
メディアを共通言語としてなんとなく話が通じ合うといったような、マスメディアが想定する日本国民という文化的な統合体はたぶんもう存在しないし、これからも成立しない。日本というのはもう、メディアが扱うにはサイズが大きすぎるし、様々なレイヤーで分断されすぎているんです。

でも東海エリアで、東海人ということであれば、まだ成立し得るように思います。

吉村
さきほどパーパスのお話がありましたが、SFプロトタイピングとパーパースというのは相性が良いのでしょうか?

樋口氏
おっしゃる通りです。概念を一度解体して、再構築するという作業はとても大切です。例えば、都市とは何か。なぜ今の姿をしているのか。都市の機能は何か。こうやって一度概念を構成している要素をばらして再構築して新しい概念をつくるということは、SFを考えるときには頻繁にやりますね。

ローカルという概念を捉え直すということも、SFプロトタイピング的なアプローチと言えます。今はローカル局のローカルは放送区画のことを指しているかもしれないけれど、概念を再構築することで、新しい文化的な共同体見えてくるかもしれません。

歴史を紐解けば、飛行機も、宇宙開発も、すべて想像することからはじまったこと。想像のスケールが大きいほどに、事業も大きくスケールしていくでしょう。

イノベーション創出にあたって現実の沼にはまっている方は、是非一度SFプロトタイピングを試してみてはどうでしょうか。

SFプロトタイピングに関するノウハウが余すことなく書かれた樋口さんの近刊『未来は予測するものではなく創造するものである』も発売中ですので、興味の湧いた方は是非お買い求めください。

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