東映特撮監督変遷part2(1994~1996)

今回は新人脚本家が一掃された後、15年以上にわたって東映特撮に関わり続けたベテランが次々と引退していく、東映特撮を語る上では一番激動の3年間についてまとめてみました。

1994年

スーパー戦隊シリーズ…忍者戦隊カクレンジャー
メタルヒーローシリーズ…ブルースワット

前年に東映不思議コメディーシリーズが終了し、昨年は「電光超人グリッドマン」を制作しこの次の年は「グレート」「パワード」を放送する円谷プロダクションもこの年は放送がないので、この2作しか特撮が放送されておらず、更に「カクレンジャー」はまだ見終わってないので何とも言えないのですが、「ブルースワット」は前半からコンセプトは面白かったもののそれを活かせず、後半からは路線変更で滅茶苦茶になって散々な出来になってしまったので、あらゆる意味で特撮の厳冬期と言える年だったと言えます(^^;

「カクレンジャー」は監督の方は特撮監督の佛田洋監督がデビューしたくらいでローテは前年と同じく東條・小笠原・坂本・渡辺で回しているのですが、デビュー3年目の渡辺監督が早くも最多演出を担当し、凄まじい期待がかかっていたことが分かります。脚本家は「ブルースワット」より曽田博久さんがシフトし、今作の準メインライターとして脇を固めます。一方で「ジュウレン」「ダイレン」で新人ながらその位置に付けていた荒川捻久はこの年はたった2本のみと極端に担当本数が減り、1995年度は「オーレンジャー」「ビーファイター」共に参加せずテレビシリーズには不参加ということに(これが後に触れる新人一掃の影響なのかは分かりませんが)。

「ブルースワット」は小林靖子といった新人ライターから、上原正三や曽田博久といったベテランライター、監督にも辻理監督や折田至監督とベテランが登板したりしてかなりカオスの様相を見せているのですが、前述の通り東映上層部の新人脚本家一掃の方針から、中野睦や増田貴彦、酒井直行といったライターが東映特撮を去ることに(酒井さんは「ガオレンジャー」「ハリケンジャー」で戻ってきますが)。また浅香晶も登板は「ジャンパーソン」からの新人なのですが、ラノベ作家としての経歴もあってか残留。小林靖子もここで対象には入っていたのですが、宮下隼一と扇澤延男が彼女の実力を見てか庇い、ギリギリながら残留。また監督面でも小西通雄監督がこの作品を最後に引退、蓑輪雅夫監督も1年お休みして「超光戦士シャンゼリオン」で引退となります。

1995年

スーパー戦隊シリーズ…超力戦隊オーレンジャー
メタルヒーローシリーズ…重甲ビーファイター

シリーズを通して見ればどちらもかなりシンプルで王道な作品だと思うのですが、スタッフはどちらもかなり異色。

まず「オーレンジャー」の脚本家は杉村升、上原正三、曽田博久、井上敏樹、高久進…と、過去にスーパー戦隊シリーズでメインライターを経験した脚本家だけが集められるというオールスター。…そのオールスターを集めたので面白い作品になったかというと、うん…という出来なのですが(^^;このうち杉村升、上原正三、高久進は今作を最後に東映特撮を去ることに。

監督ではこれまで戦隊シリーズで頑張っていた坂本太郎監督と渡辺勝也監督が「ビーファイター」に行ってしまったため、東條監督と小笠原監督だけではローテの形成が難しい所に辻野正人監督が参戦。今後もスーパー戦隊シリーズに度々参加することとなります。

そんな辻野監督の参加は前半までにとどまり、後半からは「ファイブマン」以来4年ぶりに長石多可男監督が復帰。流石の手腕でローテを形成していきます。また来年度の「ビーファイターカブト」で東條監督がパイロット版を担当するためにローテから抜ける関係からか、田崎竜太監督が今作でデビュー。杉村升、上原正三といったベテランライターと組みつつ、早くも次年度の「激走戦隊カーレンジャー」ではメインローテ入りすることになります。そして小笠原猛監督は今作を最後に東映特撮を引退。

「重甲ビーファイター」はかなり珍しいローテを組んでおり、ベテラン三ツ村鐵治監督と坂本太郎監督をメインローテの3人の内2人とし、残るローテの1枠を新人枠の渡辺勝也監督・石田秀範監督・金田治監督の3人が代わる代わる入るという面白い体制。このため前年度では「カクレンジャー」で最多演出を担当した渡辺監督ですが、今作では新人枠としての参加のため演出本数は控えめになっています。脚本家も宮下隼一・扇澤延男・鷺山京子・浅香晶とかなり数が絞られ、小林靖子が何とか滑り込める、といった形に。

1996年

スーパー戦隊シリーズ…激走戦隊カーレンジャー
メタルヒーローシリーズ…ビーファイターカブト
その他…超光戦士シャンゼリオン

2年前の冬の時代が嘘かのように単発特撮で「超光戦士シャンゼリオン」と「七星闘神ガイファード」が放送開始し、更に円谷が15年ぶりに新作ウルトラシリーズ「ウルトラマンティガ」を開始するなど、一気に特撮が盛り上がったこの年。この年は「新世紀エヴァンゲリオン」が空前の大ブームをアニメ界で起こしましたが、特撮も激動の年と言えます。

まず「カーレンジャー」は今まで東映不思議コメディーシリーズ全作に参加しており、間違いなく東映特撮を支えた一人に数えられていい名(迷)ライター浦沢義雄がメインライターとして登板。そして前年度までスーパー戦隊シリーズを10年以上に渡りプロデュースし続けた鈴木武幸Pに代わって高寺成紀PがメインPを務めます。この頃は東映特撮への参加が遠のいていた荒川稔久、そして今作が最後の東映特撮参加となる曽田博久がしっかり脇を固め、盤石の体勢で1年を走り抜けました。

監督ではメタルヒーローシリーズから坂本太郎監督と渡辺勝也監督が帰還(その代わりに東條監督が「ビーファイターカブト」へ。まぁこの2人は来年度再び「カブタック」へと行くのですが)。ローテ3人目として昨年デビューしたばかりの田崎竜太監督が早くもメインローテ入りし、渡辺勝也監督共々新風を吹き込みました。

またこの時期は年に数本ながら参加を続けていた小林義明監督がこの作品で遂に東映特撮を去ることに。小林義明監督はスーパー戦隊・メタルヒーロー・仮面ライダー・東映不思議コメディーの東映四大特撮を全て制覇しており、これだけなら坂本太郎監督や小西通雄監督も達成しているのですが、小林義明監督はこの後「ウルトラマンダイナ」にも参加するため、ウルトラマンも加えた五大特撮制覇となるとこの小林義明監督のみが達成している偉大な功績と言えます。

…とはいえこの功績のうち、東映不思議コメディーへの参加はどちらかというと「覇悪怒組」以降のプロデューサーとしての参加が主であり、監督としての参加はロボット8ちゃん第1話「スーパーおじんのバラバラマン」のみ。しかも主力商品の8ちゃんを分解しようとするというバラバラマンというキャラを出したことでスポンサーから怒られ、脚本家の大原清秀さん共々1話限りで降ろされる、というオチがあったりするのですが(笑)(その後「宇宙刑事ギャバン」が開始したこともあり、メタルヒーローシリーズの主力監督となり東映不思議コメディーからは自然と離れることになります)

また「カーレンジャー」では終盤「カブタック」のパイロット版撮影のため抜けた坂本太郎監督の穴埋めとして竹本昇監督がデビュー。竹本監督はデビュー後も作品によって参加したりしなかったりが安定しない時期が多く(例えば「ガオレンジャー」ではかなりの本数を担当するものの、「ハリケンジャー」では減少、「アバレンジャー」では2本のみ)、ちゃんとしたローテ入りは「特捜戦隊デカレンジャー」からとかなり遅め。監督としての本格な活動開始は「未来戦隊タイムレンジャー」でデビューした中澤祥次郎監督とほぼ同時と言っていいと言えます。

「ビーファイターカブト」は脚本家ローテに小林靖子が本格参戦するも、次年度からはメタルヒーローシリーズの大幅な方針転換もあってかスーパー戦隊シリーズに移ることに。また鷺山京子と浅香晶は今作で東映特撮を離れ、監督でも東條昭平監督、三ツ村鐡治監督といった東映特撮を支えた二大ベテランが去りました。一方で石田秀範監督は今作より本格的にローテ入りし、現行の「ギーツ」こそ未だ参加はしていないものの、「リバイス」に至るまで仮面ライダー専門の監督として現役で活躍しつづけています。個人的にリバイスでも特に印象が強かったのが、石田監督が担当した赤石ヒーローショーの35話で、あまり後半の展開は褒められたものではないリバイスですが、この回は面白かったです(笑)

またこの年はこの2作とは別ラインで「超光戦士シャンゼリオン」がテレビ東京系列で放送。現行の「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」を担当する井上敏樹×白倉伸一郎のタッグが送る作品で、未見なのですが一度は見てみたい作品です(笑)

そんなシャンゼリオンの参加監督は、「オーレンジャー」で復帰したばかりの長石監督、「ブルースワット」終了から1年の間を開けて蓑輪監督、そして別口でデビューしていた小中肇監督。中盤からは諸田敏監督がデビューし、こちらも現行の「ドンブラザーズ」で石田監督と並ぶギャグ寄りの監督として活躍しています。諸田監督は近年はネットムービーの参加もあったからかテレビシリーズへの参加は控えめに思えたのですが、戦隊に久々に参加してからは(勿論井上敏樹の技量もあってのことだとは思いますが)「ドンブラザーズ」に積極的に参加。面白い回を連発しており、久々に諸田監督に唸らされています。また蓑輪監督は今作で東映特撮を離れることに。

その他国外作品ではあるのですが、「パワーレンジャー・ジオ」にて坂本浩一監督がデビュー。日本の特撮シリーズには2010年代から本格的に参加するため、活動時期で言うと柴崎貴行監督や加藤弘之監督と同期なのですが、デビューは諸田敏監督と竹本昇監督の間に当たり、かなりの古株監督。パワーレンジャーシリーズが休止してからは日本での活動が主となり、戦隊ライダーウルトラとマルチに活躍し、3話撮りは勿論4話撮りも連発する(流石に4話撮りした後は長期にわたってローテから外れたりしますが)、現代の日本の特撮を語る上でなくてはならない存在の監督と言えます。あまりに多方面で活躍するので長年にわたってシリーズを支える、というより、要所要所でピンポイントで参加して坂本監督色の強い作品を作ったり、空いたローテに助っ人として参加する、という印象が強い、異色の監督、というイメージ。

次回は1997~2000年を紹介し、その後は特撮監督も煮詰まって来るので21世紀はさらっと現行まで紹介する予定。


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