マガジンのカバー画像

思想・哲学・宗教・人物(My favorite notes)

343
思想・哲学・宗教など心や意識をテーマにしたお気に入り記事をまとめています。スキさせて頂いただけでは物足りない、感銘を受けた記事、とても為になった記事、何度も読み返したいような記事…
運営しているクリエイター

2016年1月の記事一覧

仏教を知るキーワード【21】ブッダの生涯 ~人類の燈火~(完)

ブッダ(釈迦牟尼仏陀)は古代インドに実在した人物である。仏教の開祖として、いまも何億人という人々から慕われている。連載の終わりに、ブッダの生涯を駆け足で紹介したい。 小国の王子に生まれて およそ二千六百年前。インド亜大陸の北、ヒマラヤ南麓にあった釈迦国という小国に一人の王子が生まれた。場所はルンビニーという花園だった。スッドーダナ国王の王子として生を受けた赤ん坊は「目的を成就させる」という意味のシッダッタと名づけられる。生母のマーヤー妃はシッダッタの生後7日目に亡くなった

仏教を知るキーワード【20】ジャータカ ~ブッダの前生物語~

8つの特徴ジャータカ(本生)はブッダの前生での波羅蜜行を記録したとされる説話文学集である。ジャータカというとすぐに「物語」が連想されるが、パーリ三蔵の場合は、経典の扱いをされているのは偈(ガーター)という詩の部分のみ。この詩を「注釈」する形で綴られたのが、いわゆる『ジャータカ物語』となっている。ジャータカの偈だけ羅列しても意味が通らない箇所も多いので、ジャータカは必ず、注釈書を併せて読むことになる。通読すると、ジャータカには次のような基本的な特徴があることが読み取れる。 1

仏教を知るキーワード【19】密教 ~大衆の求めに応じた仏教的呪法儀礼~

ブッダは密教を否定したが、人々にとって仏教は神秘に満ちた教えだった ブッダ(釈尊)はこう述べた。「隠したほうが効果があり、あらわにすると効果がなくなるものが三つある。女性(の身体)と、バラモンたちの呪文、そして邪見だ。この三つは隠したほうが効果があり、あらわにすると効果がなくなる。」ブッダは続けてこう断言する。月と太陽と如来(ブッダ)の説いた真理と実践(法と律)は、明らかにしてこそ光輝くと。ブッダは文字通りの密教、秘教のたぐいを全否定した。 しかし仏教徒の見方は違った。成

仏教を知るキーワード【18】六波羅蜜 ~大乗仏教に特有の修行体系~

大乗仏教では、ブッダになるための特別な能力完成をめざす「波羅蜜」が修行の中心に 六波羅蜜(ろくはらみつ)は大乗仏教の修行体系である。大乗仏教では菩薩道を歩んでブッダ(正等覚者)となることを目標としたため、ゴータマ・ブッダが示した修行法である三十七菩提分法ではなく、ブッダとなるための特別な能力完成を目指す「波羅蜜(パーラミー、パーラミター)」を修行の中心に据えた。上座部仏教では菩薩の修行は十波羅蜜とされるが、大乗仏教では六波羅蜜が主流である。項目ごとに解説する。 1)布施(

仏教を知るキーワード【17】上座部と大乗 ~南伝と北伝、2つの大きな流れ~

上座部は初期に編纂されたパーリ仏典を伝承するが、大乗は大量に仏典を創作してきた 仏教にはいくつかの分類法があるが、もっとも一般的なのが上座部(じょうざぶ,テーラワーダ)と大乗(だいじょう,マハーヤーナ)という二分法である。伝統的に使われていた小乗(しょうじょう,ヒーナヤーナ)と大乗という分類を調整して、蔑称とされる小乗を上座部と言い換えたものだ。 上座部仏教:ゴータマ・ブッダが説かれた教えの伝統に充実たらんとした流れである。いわゆる南伝仏教。仏滅後100年頃に戒律の解釈を

仏教を知るキーワード【16】菩薩 ~ブッダになるべく修行中の行者~

ブッダとなるための修行を積む存在で、大乗仏教では救済者としての面が強調された 菩薩(ぼさつ,菩提薩垂)とはブッダ(正等覚者)となるために波羅蜜(はらみつ)という特別な修行を積む生命である。初期の仏典で菩薩と呼ばれたのはブッダとなる前の釈尊だった。ジャータカ(本生)に登場するスメーダ行者は、ディーパンカラ・ブッダ(過去二十八仏の4番目)から授記(将来、汝はブッダとなるだろうという認証)をうけてから、24人のブッダに仕えながら果てしない輪廻を繰り返し、十波羅蜜を完成して、兜率天

仏教を知るキーワード【15】出家と在家 ~優婆塞・優婆夷と比丘・比丘尼~

出家者は戒律に基づく出家サンガに所属する。在家信徒は出家サンガを布施で支えながら、その指導を受けて個々人で仏道を実践する 仏教の出家とは、一義的には比丘(びく,男性出家者)と比丘尼(びくに,女性出家者)のことを言う。*1在家は優婆塞(うばそく,男性信徒)、優婆夷(うばい,女性信徒)に分けられ、出家と併せて四衆(ししゅ)と呼ばれる。いわゆる仏教徒の総体は、この四衆によって成り立つ。 *1:これに比丘の見習いである沙弥(しゃみ)、比丘尼の見習いである沙弥尼(しゃみに)と式叉摩

仏教を知るキーワード【14】地獄と極楽 ~仏教が説くあの世の成り立ち~

地獄は最下層の転生場所で、極楽浄土は聖者が特別に転生する浄居天がルーツとも 地獄は六道(五道)輪廻の底辺に位置づけられる。極端な苦しみの世界で、しかも極めて寿命が長い。ブッダは「極端に不幸な、極端に不快な、極端に不適意な処だと、まさしく言えるのが地獄である。喩えで説明することも難しい」と述べる。後世の仏典では、等活・黒縄・衆合・叫喚・大叫喚・阿鼻・焦熱・大焦熱の八大地獄、付随する十六の少地獄が説かれた。ちなみに地獄を治める閻魔大王(えんまだいおう)も、文学的意匠として初期経

仏教を知るキーワード【13】仏教の宇宙観 ~生命世界と物理宇宙の緻密な分析~

有情世間(輪廻する生命の世界)と器世間(物理的な宇宙)の構造 「世間」は世界、宇宙を意味する仏教語である。 仏教の世間は【1】有情世間(生命の世界)と【2】器世間(物理宇宙)に分けられる。 輪廻(生存)からの解脱を説く仏教では【1】有情世間の分析が重視された。有情世間は、1)欲界:五根の刺激に依存する衆生、地獄・餓鬼・畜生・阿修羅と人間、欲界の神々が生存する領域。2)色界:五根の刺激に依存しない梵天。3)無色界:物質に依存しない梵天の三界から成る。いわゆる六道輪廻はこの

仏教を知るキーワード【12】輪廻 ~因縁によって生滅変化する心の流れ~

不滅の霊魂が死後も生存して生まれ変わるのではなく、瞬間ごとに心の流れが生滅する 輪廻(りんね)とは「因縁により生滅変化する心の流れ」である。 一切の現象は絶え間なく変化する。いまの現象から瞬く間に別の現象が生まれる。我々の心も激流のように変化し続けている。死後「輪廻する私」「魂、霊魂」などどこにもあるわけではない。行為と結果の織りなす心の流れが不断に消滅変化しながら流れ続ける。ただ我々の認識の錯覚によって「私」という実感が絶えず合成されるだけである。その合成の連鎖によって

仏教を知るキーワード【11】業 ~善悪の結果をもたらす人間の行為~

未来に向けてどんな心の流れを作るかは、今の自分にかかっている 業(ごう)とは、「人間が身体・言語・こころでなした行為(身口意の三業)は、その行為の質により自らに善悪の結果をもたらす」という教えだ。ブッダは出家在家男女を問わず、世俗で幸福に生き、解脱に達する方法として、業を観察せよと勧めた。「私は業で作られ、私が相続しているものは業であり、私を生んだのは業であり、私の血縁・親類者といえば業であり、私の拠り所になるのは業である。私が何か行為をするならば、善であれ悪であれ、私はそ

仏教を知るキーワード【10】空 ~すべては因縁によって作られた幻~

初期仏教では「無我」の同義語として扱われ、大乗仏教思想ではとくに重要視された 空(くう)は般若心経の「色即是空」という熟語とともに親しまれている仏教語だ。無常・苦・無我の項でも述べたように、初期仏教では、自己観察を通して五蘊や六処などを無常ないしは苦、あるいは無我と発見すべきことが説かれる。般若心経の冒頭でも、「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空」と記されるように、五蘊は空であると発見することが説かれる。 実は、初期経典における「空」は「無常・苦・無我」の同じ文

仏教を知るキーワード【09】慈悲 ~生命への慈しみこそが仏道の真髄~

慈悲喜捨の四無量心を育てて、あらゆる生命と平等・対等な心理的関係を築く 智慧と慈悲(じひ)こそ仏教の真髄と言われる。智慧の教えは輪廻からの脱出を主眼とし、慈悲の教えは「輪廻のなかで私たちはどう生きるべきか」という生命との関係論に重点が置かれた。輪廻からの脱出を目指すか否かは別にしても、我々が「生きている」限り、慈悲を無視することはできない。 慈悲は生命と平等・対等な心理的関係を築く修行である。仏教では生命(衆生)という概念に動物や微生物などの生命はもちろん、天界にいるとさ

仏教を知るキーワード【08】修行 ~ブッダが示した具体的な仏道実践法~

さとりに至るための修行法は37項目に集約され、これを「三十七菩提分法」などと呼ぶ 仏教は「八万四千の法門」と呼ばれ、教えの範囲は膨大だが、具体的な実践法は37項目に集約される。総称して、三十七菩提分法、七科三十七道品などと呼ばれる。その項目とは以下のとおりである。※七科……1)~7),三十七道品……[01]~[37] 1)四念処:4つのチャンネルで、気づき(念)をもって「いま・ここ」の現象を観察し続けること。[01]身念処(身体への気づき)、[02]受念処(感覚への気づき