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『WICKED』(前編)

中高時代ミュージカル部での活動に明け暮れた私が最もオススメするのが『WICKED』だ。
今回は『WICKED』のあらすじ紹介とともに、考察も綴った。残念ながら現在日本では上演しておらず、DVDもないのだが、当記事を読んで、是非ブロードウェイを観に行って欲しい。

『WICKED』とは『オズの魔法使い』に出てくる緑の"悪い魔女"エルファバが主人公の物語だ。かつては旧友だったグリンダとエルファバが、それぞれ"善い魔女"と悪い魔女"と呼ばれるようになった経緯を描いている。

Good News!! 悪い魔女は死んだ‼︎

オズの国の群衆が熱狂するシーンから物語は始まる。そこに現れた"善い魔女"(グリンダ)は皆から慕われており、『悪は滅び善が栄える』と宣言。一方で、『(エルファバは)誰にも愛されぬまま独りで死んだ』とどこが悲しげだ。

そんな中、群衆の1人がグリンダに衝撃的な質問をする。

グリンダ様、あなたが悪い魔女と友達だったというのは本当ですか⁈

それは本当のことで、彼女たちは大学の同級生だった。彼女たちがどのように出会い、そしてなぜグリンダとエルファバそれぞれが"善い魔女"と"悪い魔女"と呼ばれることとなったのか。

時は二人の大学生時代に遡る。美人でお茶目でちょっとおばかさんなグリンダはみんなの人気者。対する聡明なエルファバは緑色の肌のせいでみんなに気味が悪がられるが、それでも独りで気丈に振る健気な性格の持ち主だ。

エルファバは肌の色のせいで親(とある王国の総督)からも疎まれており、車椅子生活の妹・ネッサローズ(ネッサ)の付き添いとして、シズ大学に入学した。
ところが、ネッサを総督の娘として特別扱いするということで、大学の先生(モリブル先生)がエルファバからネッサを引き取ろうとする。

車椅子を押して離れていくネッサを取り戻そうと、エルファバは知らず知らずのうちに魔法を使う。これがモリブル先生の目に留まり、魔法使いオズに弟子として推薦され、謁見の機会を手にする。

魔法使いと私

Unlimited My future is unlimited
限界なんてないわ
And I've just had a vision
Almost like a prophecy 
まるでお告げのようにある光景が見えたの
I know - it sounds truly crazy 
And true, the vision's hazy 
変に聞こえるだろうし、実際自分でもまだよくわからないけど
But I swear, someday there'll be 
A celebration throughout Oz 
でもきっといつかオズ中がお祝いをするのよ
That's all to do with me! 
そしてその中心にいるのが私! 

My future is unlimited!
なんて前向きなのだろう。
この歌詞が後々効いてくる。

What is this Feeling? 大嫌い!

グリンダとエルファバ、見た目も性格も真逆の二人だが、まさかのルームメイトになってしまい、激しく対立する。

場面はとある授業の日。
オズの国では、動物が人間と同じように話すことができ、この日の授業もヤギのディラモンド先生が担当していた。
ディラモンド先生が授業の説明をしようと黒板の反対の面を見た時、事件が起こる。
『動物は喋るな!』と書かれていたのだ。

授業を急遽取りやめにして落ち込むディラモンド先生を、エルファバはそっと励ます。
そんな彼女に先生は、動物たちがある日突然言葉を発することができなくなっているのだと、不安を打ち明ける。
オズの魔法使いがきっとなんとかしてくれると励ますエルファバ。

人生を踊り明かそう

ある日、シズ大学にイケメンでチャラい転校生・フィエロがやってくる。
真面目な大学生たちに対して、フィエロは『勉強なんかしてないで、頭空っぽにして、人生踊り明かそうよ!』とそそのかし、みんなでダンスパーティーに繰り出すのだ。

ここでエルファバ&フィエロという美男美女カップルが誕生する。
エルファバに恋しているボックという小人族の青年がいるのだが、グリンダの思惑でネッサ(エルファバの妹)をダンスに誘うこととなる。

とても嬉しそうなネッサを見て、エルファバはお礼を言いに大嫌いなグリンダの元へ向かう。
そんなエルファバにグリンダはその場の軽いノリで、ダサい帽子を"最新トレンド"と言ってプレゼントするのだが、ファッションに疎いエルファバはこれに気づかず、素直に感動してお礼を言って立ち去った。

ダンスパーティー当日、プレゼントされた帽子をかぶってきたエルファバは、みんなの反応を見て初めてグリンダに嵌められたことに気づくが、気丈に一人で踊り続ける。
グリンダは想像以上にエルファバを笑い者にさせてしまったことを悔やみ、エルファバの元へ駆け寄って、一緒に踊り始める。
これが二人の心が通い合うきっかけとなった。

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パーティーが終わり、部屋に戻ったエルファバにグリンダは今日からベストフレンドだと宣言する。
人は中身でなく見かけが大事、人気が大事だから、あなたをイメチェンしてあげる!と楽しげなグリンダに対して、エルファバは勢いに押されつつも自粛する。

でも本当はグリンダに言われたことを気にしていて、これまできっちり髪を結んでいた髪を下ろして登校する。
そんなエルファバを見たフィエロから、なんかグリンダみたいだ。君はありのままでいいのに、と声をかけられ、始業のベルが鳴る。

その日はディラモンド先生の最期の授業となった。衛兵によってどこかに連行されたのだ。
衛兵は残された生徒たちに、檻に入った1匹の子ライオンを見せる。そして、これから動物は小さいうちから檻で管理するのだと告げた。

怯えて鳴く子ライオンを黙らせようと衛兵が注射器を構えた時、エルファバは無意識に魔法を使って時間を止める。
このときなぜか魔法がかからなかったフィエロと共に子ライオンを逃がした(後に『オズの魔法使い』に出てくる"臆病なライオン"だ)。

『あなたってお気楽な感じで振舞ってるけど、全然楽しそうに見えないわ』
エルファバはお礼を言いつつ、普段感じていた違和感をフィエロにぶつける。そんなことはない、とフィエロは否定するが、どうやら図星のようだ。
ふとしたタイミングで二人の手が触れ合うが、フィエロは慌てて走り去った。

I'm Not that girl 私じゃない

フィエロが気になるエルファバ。しかし、フィエロはグリンダの恋人で、美男美女カップルなので自分は叶わないと、エルファバは自分の思いに蓋をする。

Defining Gravity 自由を求めて

エルファバがオズの魔法使いに会いにエメラルドシティへ旅立つ日が来る。最近フィエロとうまくいっていないグリンダは寂しく見送ろうとするが、エルファバの誘いで、二人でエメラルドシティに向かうことになった。 

実際に会ってみると、残念なことにオズは魔法使いではなく、モリブル先生と共謀して動物たちの言葉を奪っていたことがわかる。見えない"共通の敵"を作り出すことで国をまとめるという政治的策略だったのだ。エルファバの魔力に魅せられたオズは、共に国を支配しようと囁く。

しかし、正義感の強いエルファバはオズの誘いを断り真っ向対立した。その結果、"悪い魔女"に仕立て上げられてしまったのだ。
対するグリンダは、みんなに愛されたいという思いでオズの側につき、"善い魔女"として国民の象徴的存在になる道を選ぶ。

I'm through accepting limits 
'Cuz someone says they're so
みんなが無理だって言うから、限界だって諦めてきたけど
Some things I cannot change 
But till I try, I'll never know! 
限界かどうかなんて、やってみなければわからないじゃない!
Too long I've been afraid of 
Losing love I guess I've lost 
愛を失うこと長いこと恐れてきたけど
Well, if that's love 
It comes at much too high a cost!
あれを愛と言うのなら、なんて高い代償なんだろう! 
I'd sooner buy Defying gravity
私は大きな力に立ち向かうわ
Kiss me goodbye I'm defying gravity
お別れのキスして大きな力に立ち向かうの
And you can't pull me down
誰ももう私を止めることはできないのよ 

エルファバはグリンダに対して、共に立ち向かおうと鼓舞する。

Unlimited Together we're unlimited
一緒なら限界なんてないわ
Together we'll be the greatest team 
There's ever been
Glinda - Dreams, the way we planned'em 
今だかつてない最強のチームよ
グリンダ。。私たちが思い描いた夢じゃない
If we work in tandem
There's no fight we cannot win
私たちが一緒に戦えば負けるわけないわ
Just you and I Defying gravity
あなたと私で大きな力に挑むの
With you and I Defying gravity
They'll never bring us down! 
あなたと私で大きな力に挑めば
誰も止めることなんてできないわ! 

しかし、グリンダは首を縦に振ることはなく、ふたりは互いの幸せを願いながら別々の道を選択する。エルファバは強い決意を胸に、魔法の箒で空高く翔び立っていった。

『My future is unlimited』から、『Together we're unlimited』へ

エルファバは正義を問い、自ら体現すべく、最終的に独りで大きな権力に立ち向かっていく。

大きな力・声に対して、疑問を抱くこと自体難しい。そして、問いを持って批判をすることはできたとしても、それに留まって体現にまで至らないことが多いだろう。

正義には正解がないはずだが、大きな力を持つ人の声が"正義"とされてしまいがちだ。

エルファバとグリンダ、このあとふたりはそれぞれどのような道を切り拓いていくのか。
続きはこちらから。

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