お城で眺める秋と歴史
「紅葉」を思い浮かべたとき、思い出す景色がある。それは3年前、家族で訪れた郡上八幡で見た紅葉の景色だ。
紅葉の時期の郡上八幡城には、大勢の観光客が訪れていた。私たちは、途中にある駐車場に車を停め、高台にあるお城を目指して10分程坂道を登っていった。
しばらく足を進めると、ふと1枚の看板が目に入る。
う…運命の分かれ道!!!
(なにこれ、ちょっとテンションあがっちゃう!)
私たちは目の前の2つの道を見比べた。困難だが早い道とは、看板の奥に見える階段のことだろう。そして無難な道とはおそらく、右手に続くコンクリートで舗装された道のことだ。
『どっちが早く着くか試したくなるな』
弟のひと声で、私たちは二手に分かれて道を進むことにした。弟と父は困難な道へ。私と母は、足元の良い無難な道を進むことに。
サクッと結論を言ってしまえば、「困難な道」チームの方がほんの少し早く合流地点に到着した。それから私たちは、足並みを揃えてお城を目指す。
しばらく坂道を進んでいくと、目の前に目的のお城が姿を現した。
石垣と真っ赤な紅葉で囲まれた白いお城は、凛として私たちを出迎えてくれた。
郡上八幡城は、日本最古の木造再建城。歴史やお城にそれほど興味があるわけではなかったが、復元されたお城とはいえ、なぜかかなり気分が高揚した。
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お城の中に入り、趣のある木造の建物を進んでいくと、山々を見渡せる大きな窓が目に入った。
お城は「攻められにくく守りやすい場所」に建てるのが理想的だと聞くが、私はこのお城からの眺めを見て、なるほどなあと思ってしまった。
ここがお城でなかったならば、きっと純粋に絶景を楽しんでいたはずである。しかし私は、美しく色付く山々に見惚れてしまった一方、「なるほど、これなら敵が攻めてきてもすぐに分かるな」なんてことを思わずにはいられなかった。
私はお城の見張り役にでもなった気分で、カラフルな山々に囲まれる平和な城下町を眺めた。
そしてもうひとつ、郡上八幡城には私に「歴史」を感じさせたものがあった。
それは、お城を囲む壁に開けられた○△□の穴。
これは絶対に可愛さ目的のデザインではないな…とは思っていたが、後に調べたところ壁に開いたこの穴は狭間と呼ばれ、敵に向かって鉄砲で攻撃するために開けられた穴なのだそうだ。
目の前に穴があれば、覗きたくなるのが人の性。
私は白い壁の内側から、向こう側に広がる世界を覗き込んだ。
穴の向こうには、美しい赤の世界。穴を通して見ているというだけで、そんな世界をひっそり覗き見している気持ちになれるのだから、これはこれでワクワクする。しかしここから、「攻め込んでくる人を銃で狙い撃て!」なんて命令されることを想像すると、それは一瞬で恐ろしさへと変化する。
そんなことをひっくるめて、私は少しだけ歴史を感じられる「お城」というものの魅力に気が付いたような気がした。
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この旅行は、私たち家族にとっておそらく初めての家族旅行だった。なぜなら私の父は、あまり旅行を好まない。さらには母は、温泉があまり好きではないという。
観光地は、なるべく父親の興味のありそうなスポットを。そして、せっかく温泉地に行くというのに、部屋にお風呂がついた旅館が絶対条件。計画を立てるこちらからすればなかなかに悩んでしまった旅行だったが、いざ行ってしまえばやはり楽しい思い出の方が多く残る。
旅行なんていつでも行けるだろうなんて思っていても、私たち家族の休みを合わせるというのは結構難しい。日帰りならまだしも、2日間調整しなければいけないというのがなかなかにハードルが高い。それに今となっては、家族でこうして出掛けられる日は、今後いつやって来るのだろうかという世の中になってしまった。
そう思うと、あのとき強引にでも計画を実行しておいてよかったなと思えてくる。もしかするとこれはただの子供側のエゴなのかもしれないけれど、たまには親子でこういう、非日常の時間を過ごすことだっていいものじゃないだろうか。
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現在、だいふくだるまさんと一緒に、秋を楽しむ企画「秋を奏でる芸術祭」を開催中です!
私は「紅葉」と、芸術コンテンツの「写真」を掛け合わせて、思い出の風景を綴ってみました。皆さまもぜひ、それぞれの秋の景色をご投稿ください!お待ちしております。
皆さんからの応援は、本の購入や企画の運営に充てさせてもらっています。いつも応援ありがとうございます!オススメの1冊があれば、ぜひ教えてください。