アルバイト

やはり、人生の早期に経験した仕事経験は
その後の人生観・職業観・社会観に色濃い影響を残していそうだな
と、思う……

今回やったのは、ホテルの清掃
昔々、学生時代のリゾートバイトを思い出す

場所は、某観光地
賄いつきとは名ばかりの食事
与えられたのは、わずかに余った冷蔵庫の中身を使って自分で作って食べること
毎日入れ替わる客に、そんな豪華な手作りの食事なんて出してないから
(陶板焼きと刺身こんにゃくとか、決まりきった食材で余りようがない)
目玉焼きとごはんみたいなものしか作れなくて
女の子の一人は、わずか1ヶ月で生理が止まった

あたしの後から2人の子が来たけど
夜、公衆電話まで行ってかける電話で家の人に実情を打ち明けて
おばあちゃんが亡くなったとかそういう理由をつけて途中で帰っていった
当初予定していた期間を満了したのは、
そんな家族を持たず、自分でお金を稼がなくてはいけない私だけ

求人には時間が書いてあったけど
実際には起きている間ずっと仕事させられて
抗議したら「8時間にしてもいいけど、その方がずっとしんどいよ?」みたいなこと言われて脅された
いかにも、世間知らずの若者を丸め込んでこき使おう!いう感じの待遇だった

元看護婦だという派手な奥さんと、旅館の息子の若夫婦
毎日のように夜遊びに出かけてたけど
あたしらは朝から晩までずっと缶詰めで
近所には何もない
賞味期限の切れたお菓子を並べてるようなちっちゃなお店が1軒。それだけ

途中から陽気な細身のおばちゃんが手伝いに現われるようになって
掃除やらなんやら教えてもらったけど
その時気づいたのは、「家でやるのと同じようにやっちゃいけないんだ!」ってこと
そのおばちゃんが見せてくれた手本の実演時、
その手にはタオルではなく雑巾が握られていて
でもおばちゃんは全く気づかずにすいすい拭いていった
まるで「拭けばいいのよ。綺麗かどうか、綺麗になったかどうかは見てないし関係ない」
とでもいうかのように……

私たちはあそこで、
人生の裏と表を知った
使用者と使用人の立場の違い
泊まる客とそれを準備する私たちの、感覚の違い
二度と元には戻れないような、強烈な体験だった
今思えば

休みの日にはリゾートでリフレッシュしつつ、お金も稼げる
みたいな現実は、あそこにはひとつもなかった
コンビニひとつない山奥
公衆電話すら30分も歩いて
車がなきゃどこにも行けやしない

1回だけ、どういうわけか
花火に連れてってもらったような記憶がある
そこで私たちはようやく
二十歳そこそこの女の子に戻った
その一瞬だけ

二度と行かない寂れた観光地の
二度と戻らない夏
あたしはやっぱり
その頃から人とは違うものを見てきたんだと思う
今に至るまで