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仮面を通じて考える日本の文化 ~国立民族学博物館特別展より~

国立民族学博物館で行われている特別展「日本の仮面-芸能と祭りの世界-」に行ってきました。

日本の仮面と聞くと、どのようなイメージがあるでしょうか。
能や狂言で使われる面を思い浮かべる方、また仮面ライダーなどヒーローのお面を想像する方も多いかもしれません。

人間が何者かになるため、何かを演じるために装着するもの。

個人的には、仮面についてそのようなイメージを持っていましたが、この展覧会を体験すると、その認識は十分でないことがわかります。

仮面と祭り

展覧会の第1章として仮面の歴史に触れられた後、第2章では仮面が重要な役割を果たす全国各地の祭りや芸能が紹介されています。

この第2章が、個人的には本展覧会最大の見どころと感じました。
(写真を交えたいところですが、残念ながら一部を除いて撮影禁止です…!)

展示ケースごとに、それぞれの祭礼・芸能の映像と、仮面を中心とした資料が展示されており、踊りや振舞いなど、仮面と人々の関わりや、仮面の役割の多様性を見ることができます。

【例】
・神々の祭りの場への出現を演じる神楽(島根県出雲地方)
・面や衣装を早変わりで取り換える面劇(徳島県石井町)
・仏や菩薩の面をつけて亡くなった方を極楽から迎えに来る練供養(奈良大和郡山市矢田山金剛山寺)

中でも、特に鹿児島県硫黄島のメンドンは強烈な印象を与えます。

メンドンは唯一撮影可能です

毎年硫黄島で行われる八朔太鼓踊りの際、この不思議な面をかぶったメンドンが現れます。
メンドンは踊りを邪魔したり、見物する人を木の枝でたたいたり、暴れまわります。にもかかわらず、踊りが行われている間、メンドンは「天下御免」とのことで、どんなに暴れても咎められないそうです。
(コンプラ意識が問われるこのご時世、心配になります)

何をルーツに生まれたのか、どのようなイメージから着想を得てこの造形に至ったのか…あらゆることが謎ですが、これも地域に受け継がれてきた仮面のひとつです。

この章で紹介される仮面を見ると、それぞれ役割が異なり、「日本の仮面」として共通項をもって体系化することがいかに困難であるかがわかります。

仮面の諸相

第3章では、仮面の表情、扱い方など、各地に共通してみられる特徴が紹介されます。

神霊、悪鬼、聖獣など、種類によって分類されますが、造形は各地でやはり異なります。特に悪鬼の表情はバリエーションに富んでおり、かつての日本人がいかに怖れの心情が強かったかを伺い知れます。

毛におおわれた酒呑童子の面(島根県浜田市)などインパクトの強い面、どこか異国の様相を感じる物部の面(高知県物部村)など、仮面の造形をシンプルに目で見て楽しめる展示です。

また「仮面の人との間」という小テーマでは、仮面の扱い方も分類されます。

・秘してつける
・つけずに祀る
・人前でつけて演じる
・つけて演じ、取って演じる
・顔を見せてつける

上演中に衆目の中で面を取ったり外したりするもの(島根県の神楽など)、
また面をつけるものの顔を隠さないつけ方をするもの(静岡県浜松市の懐山のおくない)など、仮面のつけ方もその地域ごとに考え方が異なります。

面のつけ方が異なる一方で、山伏神楽の面が御面と呼ばれて神聖視されたり、新野の雪まつりの面が面型と呼ばれ、御神体とされているなど、仮面自体が信仰の対象になっているものもあります。

地域で受け継がれてきた仮面の紹介は、この章で終了です。
第4章では、ヒーローの仮面やプロレスのマスクなどが展示され、現代の人々にとってもなじみのある仮面も紹介されています。

展示を見終えて

展覧会に行くと、そのテーマへの理解が深まった満足感を得られることが多いのですが、この展覧会を見終わった時の感覚は「謎が深まった」でした。

日本の仮面はどのように生まれ、どのように変遷してきたのかーーという問いに対しては、雲をつかむような気持ちになります。
ただ、地域や民族の違いによって、仮面の造形やありかたに大きな多様性がありつつも、人々が何を願い、大切にするのかなど、遠く離れた時代や場所でも類似した考え方が見られます。
ここに人間の普遍的な行動や、思考のあり方が感じられ、とても興味深いものでした。

展示されているだけでも500点を超えていたと思われますが、恐らく膨大な数の仮面の一部なのでしょう。
これらを収集、研究、分類し、テーマを設定してキュレーションする労力はもちろんのこと、地域の所有者の方と交渉し、出陳にたどり着いた経過を想像すると、展覧会を企画された方々への敬意が絶えません。

仮面の奥深さ、面白さを体感できる上、仮面を通じて日本の風習・文化の多様性を考えさせられる、まさに”あっぱれ”な展覧会でした。

会期が残り短くなってきましたので、仮面好きの方、民俗学に興味のある方は是非この機会に訪ねてみてください。

会  期:2024年3月28日(木)~6月11日(火)
会  場:国立民族学博物館 特別展示館
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休  館  日:水曜日
そ  の  他:観覧料等は上記公式HPをご確認ください

併設されたレストランでは仮面ロボが配膳してくれます


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