第１話　郵便局のお姉さんと、僕と、消防署の陰謀。

僕は今、救急車🚑に乗って仕事をしている。

救急救命士という、名前を聞いただけで助かったような気にさせてしまう資格を頂いたその年から、救急車に乗って働くことになった。

消防署の採用はハードルが高い

他の企業がどうかは知らないけど、消防署へ採用されることは結構難しいらしい。

僕の勤務する消防署の採用人数は、ここ数年、採用要綱に「若干名の募集」と書いてあった。

若干名ってなんだ？

若干名・・・都合の良い表現だ。１名でも、２名でも。５名でも若干名？？さすがに５名は多くない？　消防署が都合のいいようにそうしてんじゃないの？

「ぶっちゃけ、若干名って何名ですか？」って消防署に問い合わせてみようかとも思ったけど、そんなん知らんがなって言われてしまいそうだったので、やっぱりやめておいた。まあ普通に考えたら１名とか２名だよね。

就職活動をしていたその年、友達と第一希望の採用情報を見ていたら、とんでもないことが書いてあった。なんと驚愕の７名程度の募集！！

多い！大量採用だ。間違いなく多い！これはラッキーとしか言いようがない。受ける！絶対受けるし、絶対受かるだろ！

僕は速攻でエントリーシートに必要事項を記載して、郵便局に急ぐことにした。

いざ、願書提出

👩「はい、次の方どうぞー」

郵便局のソファーに座ると、窓口にはちょっと好みのお姉さんが立っていた。

・・・待てよ。
この「〇〇消防宛」と書かれた封筒をあのお姉さんが見たら、なんて思うんだろうな・・・。

👩「この人、消防署受けるんだー。え？・・かっこよくない💖？？」
もしくは、
👩「この人、消防署受けるんだー。チャンス！連絡先聞こうかな💖。」
なんて思ってたりしてな。・・・えへへ。

👩「お待ちの方そうぞ！！」

はっと我に返って見上げると、ちょっとイラついた顔のお姉さんが仁王立ちでこっちを見ていた。うわっ。こういうタイプ？　嫌いじゃないけど。

「あ、、すいません。僕、消防署受けるんですけど変態ですいません。ほんとすいません。連絡先なんて聞かないでください。変態なんで。」と心の中でつぶやく。

ニヤニヤしているとこ見られたと思うと、急に恥ずかしくなった。
おそらく耳たぶは真っ赤になっていただろう。こんな事なら、最初からポストインでよかったし。よく見たらそんなに可愛くないし！みたいな。

あの、これお願いします。
そっと上目遣いで願書を手渡す。

くるか。。くるか・・・？
かっこいいって思ってる？連絡先聞こうかなって思ってる？

また変態なこと考えていたら、急に背中に寒気が走った。

急にやってきた寒気

ん？・・・ちょっと待てよ・・・。なんかおかしくない？

採用人数はずっと若干名だったんだぞ？
ここ何年も。

いいのかこの願書。出していいのか？？　

違和感ないか？　いや。違和感ありすぎだろ・・・。

お姉さんに聞いてみるか？
この辺の事情詳しそうだしなんか知ってるかも。

「あのさー。今年って消防士の採用多いんすよねー。俺ー受けるんっすけどー。なんで今年に限って大量採用なんすかねー。運命っすかねー。あれ？その顔、消防士に興味あったりします？　っていうか俺に興味出ちゃった？？」

・・・いやいやいやいや違う違う。変態を超えて通報されるレベルだ。

それにしてもなんで急に７名なんだ？
なんで急に増えたんだよ！！
誰か教えてくれ！！！

完全にパニックだ。

しかも、具体的に数字を出して７名取ります的な表現で。
違う。そうじゃない。
私たちの消防署は「７名取らないといけないのです」的な表現で・・・。

・・・それだ。

わかった。それだ。

・・・あーやばい。
まじやばい。なんで気付かなかかったんだ・・・。

これは不祥事だ！

絶対不祥事があったんだ。

しかもパワハラ大量退職だ！

まちがいない。
きっと嫌な上司が消防署にいて、タバコとかグリグリやられたんだ。筋トレと称しておんぶでコンビニ行けとか、500円のタバコ買ってこいって、300円しか渡されないとか。そんなパターンのやつだ。

危ない。

これは非常に危ない。ちゃんと考えよう。

もう一度、ちゃんと考えよう。

そうだ、明日でもいいじゃないか。

なんなら明後日でも、一週間後でもいいし。

まだ間に合うし・・。

ってかパワハラやべーだろ。ここは一旦退却が正解だ。

「あの、ちょっとまってもらえませ・・・👋」

👩「はい。記録郵便ですねー。」「がちゃん！」
「出しときまーす。ありがとうございまーす。以上でーーす。」
「次の方ー。」

あのワクワクは一体なんだったのか。夢か幻か・・・。

帰り道

郵便局からの帰り道。僕は、どうやったらパワハラ上司から逃れることができるのか、高速でグーグル検索をしていた。

まだ消防署に受かってもないのに・・・。