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もし死んだ人に 会えるというのなら

ツナグ 辻村深月


もし 死んだ人に会えるというのなら

僕は おばあちゃんに会いたい


小さい時 振り向いたところに 包丁があった

おばあちゃんが持っていたそれが ちょうど顔の高さにあったから

スパッと僕の頬を切りつけた

お母さんが おばあちゃんに怒鳴る声

おばあちゃんの 呆然とした顔

真っ赤になった手に 驚いた記憶

遅れてきた痛みが 辛かった記憶

お母さんやお姉ちゃんが 慌てている記憶


怒ったお母さんが怖くて 逃げた

その場に居たくなくて 逃げた

布団に潜り込んで タオルで頬を抑えた 涙も拭いた

遠くから聞こえる 棘が付いた声

痛みはどこかにいったよ

もうちっとも驚いていないよ

誰かお母さんを止めて 

もうおばあちゃんを怒らないで


その日から おばあちゃんによそよそしくなった

おばあちゃんを 避けてる気もした

僕のおばあちゃんも この日からあまり喋らなくなった 

時が経って はるか過去の記憶になっても

おばあちゃんの悲しい顔は ずっと僕の中に残っている


「おばあちゃん あの時のこと 覚えてる?」
-覚えてるよ

「全然痛くなかったしさ 怖くなかったしさ」
-そうかい? ほんとにごめんね

「みんなも ちょっとびっくりしただけだって」
-ありがとうね 傷は目立つかい?

「傷? ここだよ うっすらと残ってるけど よく見ないとわからないね」
-(そっと傷に触れる おばあちゃんの手)

「ごめんね あの時 お母さんも怒っちゃって」
-包丁持ってウロウロしてた 私が悪いんだよ

「あの後のこともさ 急にみんなよそよそしくなって」
-そんなこともあったかね

「僕さ なんとも思ってないし ずっとおばあちゃんのこと好きだった」
-うん

「ちょっと怖くなっただけなんだ」
-わかってるよ

「ごめんね おばあちゃん」
-大きくなったのに バカだね



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