ハラスメントの調査の話


はじめに

 パワハラやアカハラについて、どうやって予防するかとか、被害を受けたらどうするか、といった視点からの解説は数多いが、調査する側からの視点で書かれたものは少ないと思う。今回は調査側目線でハラスメントについて書いてみる。ただし、守秘義務があるので、文中の例はすべてこれまでの判例や防止講習などの例を適宜変えるなどしたもので、実際に起きた事案とは全く関係が無いということをあらかじめお断りしておく。なお,これは私の個人的見解であって所属組織のものではないこともお断りしておく。

対応のメインルート

 弊社の場合、ハラスメント対応のメインルートの入り口は、各部局等で任命されているハラスメント相談員である。ハラスメントを受けたと思った人はまずハラスメント相談員の所へ行く。所属部局の相談員以外の相談員も窓口になっているので,話しにくければ他部局の相談員に相談しても良い。相談員、といってもここで何かを解決するわけではない。相談員の仕事は、行為者が誰で、被行為者が誰で、いつどこで何があって、どうしたいか、ということを聴き取って相談記録にまとめて,対策委員会等に送付することである。日常用語で「相談」というと,話を聞いてなにがしかのアドバイスをするとか一緒に解決策を探すことまで含んでいるのが普通だけど,ハラスメント防止規定でいう「相談」には,問題解決は一切含まれていない。
 対策委員会等(部局の場合は防止対策委員会,全学でやる場合は特別対策委員会)に相談記録が送付されると,対策委員会等を開催する。調査が必要な場合は,そこで調査委員会を設置する(3名ぐらい)。実際の聴き取り調査や調査報告書の取りまとめは調査委員会が行う。調査報告書ができたら,対策委員会等に報告し,その後はしかるべき対応をし,防止委員会委員長(全体統括なので理事とか副学長とかがやってる)に報告する。

希望する対応を選べるが……

 相談記録のフォーマットには,どういう対応を希望するかの選択肢が書かれている。大きく分けると(1)防止対策委員会等に申立てを行わない(2)行なうでまず分かれ,行わない場合は,A:行為者への対応は求めないが組織としてハラスメント防止の周知徹底,B:注意,C:調停,D:分離,E:調整,F:その他,が,行う場合は,B:注意,C:調停,D:分離,F:その他,が,いずれの場合も複数選択できる。

調査が行われない場合

 さて,弊社,しばしば不祥事があった結果,1年ほど前に「研究施設から不審火が…!その後自ら命を絶った山形大学スタッフが「放火未遂」で書類送検されるまで」という記事が書かれるに至った。これを読んで「ところが、大学側は申し立てを受けた分も含めて、パワハラについての調査をしようとしなかった。」の一文に引っかかった。これだけを読めば大学が何か隠蔽しようとしたかのように見えるが,実際は組織的隠蔽ではなく、情報が問題の記事から、故意か過失かはともかく、おそらく抜け落ちている。
 ハラスメントが起き、上記の手順で調査委員会設置までたどり着き,調査委員会設置が決まったのに調査が行われないということはあり得ない。ということは,調査委員会設置までいかなかった,あるいはできなかったという可能性を考えるしかない。
 対応の選択で,防止対策委員会等に申立てを行わない,を選ぶと,申立てがなかった事案について防止対策委員会等が勝手に調査を始めるわけにはいかないので,調査委員会は設置されず,調査も行われない。申立てを行う,という選択をすると,まあほぼ確実に調査委員会が設置される。申立てするという意思表示があったのに調査をせずに済ませて、問題解決できなかったことがバレたら、確実に組織の責任になるので、誰もそんな対応は選ばない。
 ところが,ありがちなパターンとして,ハラスメントを受けた人が,今後の人間関係等を心配してしまい,絶対に身バレしないようにしてくれ,個人の名前を出さないでくれ,という要望を出してくることがある。調査委員会の調査は当事者双方への聴き取りと,メールやSNSや録音などその他の証拠を用いて行う。誰が申立てしているかを行為者に知られないまま調査を完了するというのは不可能なのである。極端な場合,たとえばパワハラはメールとSNSだけで行われていて印刷物の証拠があります,という場合でも「あなたこれ書きましたよね?」と確認を取らなければいけないのである。調査委員会に捜査権はないのでメールやSNSのログを直接プロバイダやサーバー管理者から取り寄せることが不可能であるため,もう一方の当事者に事実確認をすることで,内容が真正であることを担保するしかない。
 身バレしないことが最重要,という条件で申立てをされた場合,調査委員会を設置してもその条件を満たして調査することはほぼ不可能なので,調査できるものがほぼ無くなるという理由から,調査委員会の設置に至らない場合がでてくる。この場合は調査は行われない(これより多少条件が緩い場合でも,個人をぼかして聴き取りするので,5W1Hが決まらない聴き取り結果になって,訊いてるのと違う件を答えていた,といったことも起きたりするので,後の事実認定の精度が悪くなる)。
 従って,上記の雑誌記事で抜けている情報とは,相談記録を作る時に申立てするを選んだか(単に相談記録を上げたことを申し立てしたと表現しているのではないこと),申立てにあたって身バレ厳禁という条件をつけたかどうか,ということになる。今後こういう記事を書く時は,ここまで確認してから書いてもらいたい。
 まあ,某町長のケースのように,被害者の数が極端に多く,やらかした方も数が多すぎやってた期間長すぎで5W1Hを正確に言えないレベルまでいけば,被害者の身バレなしに調査完了できたりするが,大学の研究室だと関係者がせいぜい数人なのでなかなかそうはいかないのである。

事実認定と判断

 ハラスメント相談記録が対策委員会等まできて,調査が必要だし調査可能ということで調査委員会が設置されると,スケジュールを調整してハラスメントを受けた人(被行為者)を呼んで,相談記録について事情をきくことになる。相談記録には,〇月〇日にどこどこでこんな状況のときにこんな仕打ちをされました,というのが並んでいるので,その状況の前後のこと,実際に言われた台詞,その時その場に誰が居たか,といった,周辺の事も含めて丁寧に聴き取っていく。録音や文書など他に証拠がある場合は提出してもらう。被行為者が複数いる場合は全員を呼んで聴き取り調査をする。その後で,行為者も呼んで相談記録の項目について聴き取っていく。
 おおよそ聴き取りが終わったら、被行為者と行為者の主張を付き合わせ、その他の証拠も考慮して、実際に起きていたことは何かを確定させる(事実認定)。実はこの事実認定がかなり面倒で大変だったりする。
 例えば、被行為者Aさんが「私は、○月○日、B先生の研究室で2時間ずっと怒鳴られて、死ねとか暴言吐かれて、言う事をきかないと卒業させないと言われました。×月×日、学生の居室で1時間も些細なミスを責められました。」という内容を相談員に伝え、相談記録にそのまま書かれていたとする。Aさんに聴き取りを行った後、B先生を呼んで「○月○日にAさんに研究室でこんなことやあんなことを言いましたか?×月×日はミスについて言いましたか?」などと尋ねる。「言いました。○月○日は△△があった日なので覚えてます。Aさんが同じ失敗を数回繰り返したのでは腹を立てていました、×月×日にも同じことが繰り返されたので言いました」などと答えてくれて、内容も大体一致すれば、○月○日と×月×日のパワハラな言動は実際にあった、と事実認定する。被行為者と行為者の主張が一致した部分については事実と認めるということである。これが一番楽なパターン。
 問題は食い違った場合。
 B先生が「いや○月○日は出張中でしたよ。×月×日に小言言ったのは覚えてますが」などと答えた場合。どこに出張中だったか訊いて、その後念のため裏をとる。出張手続きがされているかをこっそり事務で確認したり、学会発表なら参加学会とプログラムを確認したり。出張先が遠くてその時間に戻れないのが確実だったり、B先生の名前が入った会議のプログラムが見つかったりすると、調査する側としてはラッキーである。証拠をかき集める追加の手間がかかっても、○月○日についての被行為者の主張は事実と認められない、というはっきりした結論になって、○月○日の件はパワハラの判定対象から除外できる。申立てた側は不満だろうが、「アリバイ成立」で起きるはずがないものを事実とするわけにはいかない。これが二番目に楽なパターン。
 ところが、B先生が「いや○月○日は何か言った記憶がないです。×月×日に小言言ったのは覚えてますが」と言った場合どうするか。○月○日のことを他に見聞きした人がいないか探して話をきいたりする。○月○日の説教の原因となった事実(説教の原因となったAさんの失敗)が存在するかを調べて、×月×日の失敗と同じだと確認できれば、○月○日にも言われた可能性が高くなる。他に、現場を見聞きした人が居ないか探して話をきいたりもする。最終的に、あったか、無かったかを、かき集めた間接的な証拠や当人達の発言の信憑性も考慮して決め、その過程を全部報告書に書いて残す。追加の調査や照会がやたら増えるのに事実かどうかが最後までスパッと決まらない。これが一番面倒臭いパターン。
 まあこれでも話を単純化している。現実には、B先生が「○月○日に説教した相手は別のCさんです」と言い出したりして、Aさんが申立てた項目に他人のことが混じってるのではないか,Aさんは他人のことを自分の事のように述べているのではないかと疑う羽目になったりということも起きる。こうなると今度はAさんの主張の信頼性が全体的に低下する結果、他で食い違いが出た時にAさんの主張をどこまで採用するかにも影響してくる。どちらか一方だけでも信頼できるならまだいいが、双方ともに聴き取りで断言したのと違う内容のメールやSNSなどの証拠が出てきたりして,どちらの主張も同程度に信頼度が低いことが判明してしまったりすることもある。
 楽とか面倒臭いというのは、調査して事実を決めて報告書に書く側からみた場合の話である。当人達の話が一致し証拠も揃っていればすぱっと事実として決まるが、話は合わないは証拠が無いかあっても食い違うは、となったら、何をどこまで事実とするかがなかなか決まらないのである。なので、調査をして報告書を書く負担というか難易度は、ハラスメントの派手さ深刻さとはほぼ無関係で、セクハラパワハラの特級呪物みたいなのが出てきても調査報告が楽な場合があるし、パワハラ成立かボーダーぎりぎりの微妙なケースでも調査報告にやたらと手間がかかる場合がある。
 一旦、事実が確定してしまえば、その事実に対してハラスメントが成立するかどうかを判断していく。1回だけならハラスメントとはいえなくても、場面を変えネタを変えて繰り返されればハラスメントとなることもある。これまでに出た下級審の裁判例の判断基準や、ハラスメント防止研修の資料の例などに照らして決めていくことになる。

なぜ手間がかかるのか

 組織が果たすべきハラスメント対策には,普段の啓発や規則の整備や相談できる環境作りといった予防的なものと,起きてしまった後処理,つまり調査して対応方法を決めて実施し場合によっては人事的な処分をする,というものがある。
 後処理の方は,ここで解決できなかったら次は裁判所,という手続きである。ハラスメントの方を解決しても処分が不当だと思われてしまうとやっぱり裁判所行きになる。つまり,ハラスメントの調査報告書というのは,いつどういう展開で裁判所に出されるかわからないもの,他の組織内文書に比べて裁判所に出される可能性が高いものなのである。
 調査報告の過程で,事実認定がいい加減だったり,その証拠と聴き取りではそれは言えないだろうという内容を事実にしていたりするとどうなるか。裁判で開示され事実認定のプロである裁判官に読まれて,適切な調査をしていなかった,ということになって組織の責任になる。組織人として調査にあたっている以上,後日裁判所で開示された時に,不完全で偏った調査と判定されないように,裁判所の判断と一致はしないまでもきちんと調査が行われているので組織としては責任を果たしている,と裁判官に判断してもらえるような内容を書いておきたい,と考えるのがまあ当たり前である。というか私はこう考えている。考えているからといって上手くできる保証がないのが頭痛の種なのだが。
 まあとにかく,裁判官がこれを読んだらどう判断するだろうか,ということを,足りない経験と頭で精一杯考えながら書くのが,私にとってのハラスメント調査報告書である。モデルとしては民事訴訟の判決(当事者双方の主張をまとめたあと、当裁判所が認めた事実とそれに対する法的判断が書いてあるアレ)だろうと思うので,それに似た構成に寄せる努力はしている。直接の報告相手は全学の防止委員会委員長で,理事とか副学長とかがやってることが多いのだけど,実は全く眼中に無かったりする。 

調査する側の問題点

 ハラスメント対応の専門の組織を持っていない場合,ハラスメント対応は一般の教員や事務職員から選ばれた人が行う。どこで事案が発生するかがわからないので,全学の委員は各部局からまんべんなく選ばれるし,部局内の委員はまあ任期1年とか2年で交代する。

ノウハウが蓄積できない

 ハラスメント事案が発生し,部局の委員会で対応ということになると部局の委員が,全学での対応ということになると全学の委員のうち何人かが選ばれてその事案に対応することになる。ハラスメントの調査というのは守秘義務が大変厳しい。このため,調査を行った委員は事案への対応の状況を他と共有できない。全学の委員が手分けして別々の事案に対応していても,別チームが何をやっているかはわからないのである。当然,どうやって聴き取ったか,どんな証拠を集めたか,事実認定と判断をどうしたか,報告書はどんなふうに書いたか,といった情報は委員の間では一切共有できない。他の業務であれば,実施するときのノウハウ,うまくいったやり方,いかなかったやり方が共有され蓄積されて,だんだんブラッシュアップされていくが,ハラスメントの調査報告については,守秘義務のためにこれが不可能なのである。
 実際,部局対応の事案が発生して委員会を招集し,調査委員会を作り,記録係の担当事務職員も決まり……となったのに,誰一人ハラスメント調査を経験していない,ということが起きたりする。まあ,みんながハラスメント調査の経験を十分積めるほどの数の事案がどんどん発生するのも組織としては問題なのでどうかと思うが,やったことが無い人ばっかりで進めるというのも手続きの安定性を考えるとどうなんだろうという……。

そもそもノウハウを学ぶ機会がない

 ハラスメント防止研修であれば,オンライン研修から講師派遣までさまざまなサービスがあり,弊社も外部のe-ラーニングなどを利用して,年1回は研修を行っている。ところが,ハラスメントの調査のためのインタビュー技術,証拠や証言に食い違いがあった場合の事実認定の方法,報告書の書き方,といった研修はほぼ無い。検索したら「ハラスメント相談担当者研修」というのがあるにはあって,調査についても少しは教えてくれるらしいが,防止の研修に比べたら数が圧倒的に少ない。
 ハラスメントの相談や調査を行う専門の担当者を配置している大学であれば,そこでノウハウが蓄積されたり,新たにそこに配属されたらノウハウを学ぶ機会もあるだろうが,教職員からメンバーを任命する方式の弊社のような場合は,選ばれた人は何の研修も受けずに調査報告業務に携わることになる上,守秘義務に阻まれて前任者や他部局の担当者に訊くという手も使えない。ハラスメント相談員には業務内容や注意点についてのマニュアルがあるのに,調査委員についてはマニュアルもない。
 要するに、素人がろくな研修も受けずに民事訴訟の判決の書面相当(法律への当てはめではなくハラスメントの認定基準へのあてはめをする)の内容を報告しなければならないという、まあそこそこの無理ゲーをやることになっている。
 いっそ全事案どっかの法律事務所に頼めば,と思ったりもするが,事案の中には,ハラスメントというよりもむしろ教務上の問題が解決できずにハラスメント委員会の方に上がってきてしまったものもあり,そうなると学内の仕組みや状況がわかっている人が教務と連携して措置をとって解決する方が良い場合もあるので,外部丸投げもまたよろしくないし,予算も足りないだろう。
 全学委員,部局委員含めた,調査報告のための研修を年1回ぐらいはやらないと,手続き運用が安定しないのではないかという懸念がある。

相談員が抱える問題

 弊社の場合,ハラスメント相談員は相談を受けたら報告書を作って委員会に送付するのが仕事である。アドバイスをしたり問題解決はしないことになっている。これは,個人の判断で介入することによるトラブル拡大を防止する意味がある。しかし相談員にとっては過酷な制度である。
 報告書を送付した後,事案に個別対応するのは委員会の仕事であり,相談員は関与しない。委員会からどういう結果になったかというのを相談員に知らせるルートもない。相談員は,相談を受け,何とかしたいという感情を抱いても,解決には携われず,結果も知らされず,守秘義務のために誰かに漏らすこともできない。これが,かなり精神的ストレスになってしまっている。他人の悩みに共感できる,教職員として良い資質を持っている人ほどストレスを感じることになる。せめて相談員同士で愚痴を言える程度に守秘義務を弱めないと,相談員の心の健康が保たれないので,何とかそういうしくみを作って欲しいという提案は2年ほど前からしているのだが,なかなか実現しない。
 守秘義務があるのは医療関係者も同じだが,医学部の先生にきいたところ,医療関係者は患者の利益になる範囲内では情報共有して良いということなので,相談できる人の数は医療関係者の方が多分多い。考えようによっては相談員の方が孤独な状態におかれているといえる。

マスコミに出るルート

 ハラスメント事案というのは,内部の手続きで無事に解決すれば表に出ることはない。マスコミに出てくるのは解決失敗事案のみである。
 過去に新聞記事になった事例をいくつか見ると,内部の手続きで調査委員会を立ち上げるところまでいって解決失敗という例は実はない。学内のハラスメント申立手続きを使うことを最初から拒否し続けて自殺した後家族がマスコミに話したというケースがあった。相談はしたものの身バレしたくないから一般的な注意喚起の範囲で,と言ったために調査委員会まで話がいかず,注意喚起では改善せず,話を組合に持ち込んで新聞ネタになったものもあった。上記で引用したゲンダイの記事では,ハラスメント相談員に話を持って行った話はなく,なぜか公益通報とか教職員組合とか,ハラスメントの調査委員会が設置されないルートを選んでいるのに,大学が調査しなかった,と書いている。
 ハラスメントの対策委員会に相談記録が来ていないのに勝手にハラスメントとして調査を始めることはできない。公益通報の話をハラスメント防止委員会が知らないのは当たり前である。情報を上げるルートは規則で決まっていて公開もされているのだから,記事にするならそのあたりも調べた上で書いて欲しい。
 あと,自分から身バレしたくないという条件をつけて調査不可能にしておいて,事態が改善しないからと教職員組合に相談していきなり新聞記事にするというルートはお勧めしない。どのみち記事になった時点で身バレはするんだから,だったら最初から名前を出して調査して改善してくれという内容を相談記録に残した方が,ハラスメントの問題解決は早く終わる。

相談はうまく使ってほしい

 マスコミに記事が出る時は,そもそも相談員に話をしていなかったり,調査不可能な条件を課したりしたものであって,相談員ルートで調査までいったハラスメント事案は解決している。ハラスメントだという結論にならなくても,人間関係や環境に問題が生じていることは明らかなのだから,そのまま放置したりはせず,なにがしかの対応はしている(注意喚起や分離をするなど)。
 ただ,解決しやすい相談方法とそうでないのがあることは確か。制度を使う時の注意点をまとめるとこんな感じ。

  • 身バレ厳禁は思っている以上に対応が制限される。調査もできないことがある。

  • 名前出しての調査でも不利益取扱の禁止で釘はしっかりさすのでほぼ大丈夫。調査中に追加で何かあったら即担当に連絡を。

  • 録音,メール,SNSのログなど証拠になるものは重要。聴き取り調査までに揃えて全部出してくれると調査時間が短縮できる。なんなら相談時に提出でもいい。

  • ハラスメントという結論にならなくても対応はするし環境改善もする。分離とかも教務上の措置としてできる。事務職員も移動で対応可能。

  • 行為者への懲戒処分を望んでいるのに身バレしたくないとかはほぼ無理。誰に対する行為か特定しない状態のまま大学が懲戒処分したら,逆に訴えられて大学が負けかねないので。

  • 対応終了の通知には事実認定とかの詳細は書いてないことが多いので(事務手続き上は結論のみ報告でかまわないことになっているため担当委員次第となる),どういう調査や報告になったか知りたい場合は別途保有個人情報の開示請求をかける。その場合でも請求者以外の情報は墨塗りになる。本格的に揉めて話が裁判所まで行って,裁判所の文書提出命令が出たら墨塗無しが開示される。

【追記】

 あと、この手の委員になったら、大学本部が相談している法律事務所とは別に、個人で相談可能な法律事務所を1つ確保しておくのが無難である。
 実際、調査が終わり、報告書を出したら、上の委員長から「これハラスメント成立では」と見かけたことのない判定基準を示され、ハラスメント関係の法律の参考書も裁判例も防止講習の教材でもその基準でハラスメント成立にしているのは見た事がない、と回答したら、弁護士事務所に相談したけど同じ見解だったことと弁護士の回答が引用された内容の返事が来た。大慌てで個人的に普段お世話になっている法律事務所の弁護士に有料法律相談し、上が主張する基準でハラスメント認定にはならないし大学の弁護士の考え方はちと極端ではないかというコメントをもらって、さらに上に投げ返すという展開になった。
 完全に業務上の相談なので、相談料はポケットマネーで払う筋のものではないし、自分の校費から支出するにしても検収を通す時に守秘義務があるため内容を伝えられないので相談が実在することを担保してくれと総務部の担当事務に伝えたら、請求書の方を引き取ってくれた。なお、こういうことをする時は先に相談してくれと言われた。まあそうだろう。ただ、非常に急いでいたというのと、事案ごとに任命される委員が直接法律家に連絡する羽目になることは多分イレギュラーなことでどういう手順でやればいいかわからなかったというのもあるので初回については仕方がなかったのだが。
 大学の顧問弁護士にアクセスできるのは役員以上だろう。役員の見解と一致する内容を弁護士が回答してきているときに、セカンドオピニオンを求めろと主張するのもやりづらい面があるし、事前に相談して予算が認められるとも限らない。本当は基準で迷った場合や、最終的に裁判所でケツ持つ役割のところの判断に問題がありそうだとなった場合にどうするかも、対応の処理手順に組み込んでおくのがスマートなのだろう。




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