CO2はどこへ行っているのか

Yahooニュースの記事

「東大4年・22歳異端の化学者が卒業目前で満期退学 教授らを呆然とさせた決断の背景」

という記事が出たのがSNSで回ってきたので,一体何だろうと思って読んでみたら,疑問しか浮かんでこなかった。化学者で発明家の村木風海さんに関する記事で,温暖化を止める研究に専念するために東大を中退したということが記事になっていた。

 小学4年生のときから化学者として活動する村木さんは2019年、推薦入試で東大理科一類に入学。東大では1、2年生は一般教養の勉強をしなければならない。「化学の勉強をしたくて入ったのですが、授業は数学や物理ばかり。最初の2年間はウズウズしていた期間でした」。3年生になって、ようやく専門の勉強が始まったが、基本は座学が中心。村木さんが本当にやりかったことができるようになったのは、研究室に入った4年生のときだった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

 化学の知識を使って温暖化を止めるのであれば,化学には十分詳しくないと不可能だろう。でもって,今の化学はとどのつまりは量子力学で記述されているので,物理も数学も必須である。勉強していてそのことに全く気づいていないというのを報道しちゃって大丈夫なのか。

「最高でしたね。最新の装置を触れることができたんです。研究室に入って最初の2週間は、先輩から実験の仕方や操作の仕方をみっちりたたきこまれる地獄のような期間なのですが、僕にとっては夢のような期間でした。大学4年間で一番テンション高くやれた。ただ、夏休み前までに全ての装置のやり方が分かった。そして、ハタと気付いたんです。東大に来た意味は全て達成したと」

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

 大学の利用法はひとそれぞれなので,実験装置の使い方を知るために利用するのはかまわないけれど,肝心なのは装置を使って化学としてどういうアイデアで何をするかというところだろう。そこを全部意味がないとしてしまうという考え方と,化学を使って温暖化を解決するということが全く結びつかない。
 さらに,直前の「村木さんが本当にやりかったことができるようになったのは、研究室に入った4年生のとき」と「夏休み前までに全ての装置のやり方が分かった。(中略)東大に来た意味は全て達成したと」を合わせると,本当にやりたかったこと=たくさんの装置のやり方を知ること≠温暖化を止めるための化学の研究,と読めてしまうという,非常に残念な書きかたになっている。

「温暖化のタイムリミットまで、あと7年くらいしかありません。大学の研究室は週6がマストで、全く会社での研究時間が取れなかった。半年間も自分の研究所での研究を停滞させてしまったら、温暖化を止めることはできません。自分の社会的体裁を気にして、7年のリミットのうち半年を無駄にするのは温暖化に携わる化学者としてありえないと思いました。そこで、思い切って研究室を辞めてから会社の経営基盤を安定させることができましたし、研究員を増やすこともできた。温暖化を止めるためには世界中の人の意識を変えないといけない。海外との交渉もうまくいき初めています」

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

 村木さんの発言として紹介されているのだが,温暖化のタイムリミットが7年というのが一体どこでどう確立した話なのかがはっきりしない。温暖化の問題を研究している人達の間で合意がとれている年数だという話はきいたことがない。
 会社の経営基盤を安定化,とあるが,記事中のどこにも,どういう技術を売って稼いでいる会社なのかが出てこないことが気になった。つまり,この会社の収益の中心になっている技術は一体何か?という疑問が残る。
 日本の学歴社会は学部の入試の難易度でランキングされるという島国ルールなので実態としては学校歴社会だが,海外の学歴社会は学部から先どこまで学んだかを問うガチの学歴社会である。海外と交渉しようにも,博士号持ちでないとそもそも相手にされない可能性が高いので,相手が海外なら早急に博士号をとらないとやりたいことができなくなる可能性が高い。

村木風海(むらき・かずみ)2000年8月18日、山梨県出身。日本の化学者、発明家、冒険家、社会起業家。一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。10年、小学4年生の時に化学者の道へ。17年、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)異能vationプロジェクト「破壊的な挑戦部門」に採択され、CRRAを創設して機構長に就任。18年、大村智自然科学賞。19年、研究実績により東京大学推薦入試で理科一類に合格。同年、『世界を変える30歳未満の日本人30人』としてForbes JAPAN 30 UNDER 30 2019 サイエンス部門受賞。21年、内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。同年12月、『今年の100人』としてForbes JAPAN 100に選出される。代表的な研究・発明に「ひやっしー」「そらりん計画」「成層圏探査機もくもく計画」がある。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

記事中のプロフィールにはこう書かれている。活動的ではあるが,化学者としてのオリジナルな業績が全く見えてこない。自然に対してなにをどう解明して理解を進めたか・自然の性質のどれをどう利用したか,という内容が皆無で,全て人が村木さんという人を評価した結果のものばかりである。科学の世界で研究実績と呼べるのは,論文になったものだけなのだが,その情報がどこにもない。論文ではなく発明が成果だというのなら,何を発明したのか,そのどこが凄いのかを記事中に書いてもらわないと,読んだ側としては,なぜこの人が注目されているのかさっぱりわからない。

 この記事のどこまでが演出なのかもわからないが,この内容だとむしろ村木さんの研究に実体が無いというふうに見える宣伝になってしまっている。人がみんな褒めているが自然現象を相手に何をやったのかという実体が出てこない記事なので,この手の記事の書き方は裸の王様記事,とでも呼ぶしかないのだが,こんな内容で書かれて大丈夫なのか。

 Yahooへの配信元は次の記事とのこと。


使っている自然現象は電気分解と水酸化ナトリウム水溶液への炭酸ガスの吸収

 人が人を凄いと言ってるという情報しかYahooの記事には出ていなかったので,じゃあ実際は何をしている人なのか,と探ったら,異能ベーションの人だった。
 2019年に批判的な記事を書いていたブログを見つけた。それによると,開発した商品は「ひやっしー」と呼ばれている。

 ブログでは特許が要約されていて,読みやすくなっている。 

要約を読むと二酸化炭素回収についての原理は以下の方法を取っている。
・塩化ナトリウム水溶液(NaClaq)を電気分解することで塩酸(HCl)と水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq)を生成させる
・空気中の二酸化炭素(CO2)と水酸化ナトリウム(NaOH)を反応させることで、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を発生させる
・炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が塩酸(HCl)と反応することで、二酸化炭素(CO2)と塩化ナトリウム(NaCl)が生じる
・上記の反応をサイクルさせることで、二酸化炭素(CO2)を空気中から単離する

https://blog.goo.ne.jp/takahashikei0309/e/851342498c290319627799f9d3030b16

 特許の内容を確認したいなら特許検索が使える。特許7004881である。読んでみたが,正確に要約されていた。

回収したCO2はどうなるのか?

「ひやっしー」のプレスリリースを見つけた。

本装置は特許庁より特許査定を受けました(特許第7004881号)。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000071434.html

 と本文中にあるので,特許番号との対応は間違いがないだろう。特許通りの装置であれば,装置を動かして最終的に得られるものは,アルカリ性の液体に吸収させるプロセスを経て空気中から単離したCO2ガスということになる。ところが,プレスリリースには,

ひやっしーの中には二酸化炭素を吸い込む性質のあるアルカリ性の液体が入ったカートリッジが装着されているため、ひやっしーに入ってきた空気のうち二酸化炭素のみをカートリッジに吸収し、二酸化炭素が低減された空気を外部に放出する仕組みとなっています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000071434.html

 という説明と,回収率が高いということ,ソーラーチャージでできるようになったということが書いてあるだけである。それ以外にもいろいろ書いてはあるが,CO2の再利用技術とは直接関係がない内容である。
 プレスリリースをどう読んでも,「ひやっしー」がやっていることは,特許の前半部分の,水酸化ナトリウム水溶液を作ってCO2を吸収させるプロセスだけであり,特許の後半の,炭酸水素ナトリウムと塩酸を反応させてCO2を分離する,という機能を持っているように見えないのである。
 CO2を吸収した後その溶液をどうするか,ということもプレスリリースに書かれていないため,実態がまるでわからない。
 どう見ても,特許番号を掲げて宣伝しているのに,特許の内容とは異なる装置(特許の前半しかやってない)を一般家庭にレンタルする商売をしているようにしか見えないのである。

会社のサイトにも判断に必要な情報がない

 消費者としては,「ひやっしー」を使ったことでCO2回収と再利用に貢献できるかどうかが気になるところである。
 「ひやっしー」の専用サイトがあったので見てみた。

 回収したCO2を再利用するという触れ込みなのだが,石油代替燃料へのリンクは,内容が存在しないままになっている。CO2を化粧品に変えるという利用については,クリックすると別のプレスリリースが出る。

 CO2を化粧品に変える研究についてポーラ化粧品と提携したという情報のみで,化学反応として何をやってCO2を原材料にするのかという情報が全く無い。何かめぼしい技術のヒントでもあるかと思ったが,何も書いていない。普通,こういう提携をするときは,提携する側が既にCO2を化粧品の原材料にするための化学反応なり装置なりを持っているはずだが,それはこれから,ということのようである。連携のキモになる化学反応なり技術なりを持っているわけではないのになぜか提携を始めた,と読める。

技術開発の順番が逆

 CO2を回収して利用する技術で重要なのは,CO2を極力余分なCO2を出さないようにどのような化学的プロセスで再利用できる化合物にするか,ということである。集める技術の方は既に実用化しているものがいくつもあるので優先度は低い。
 CO2の利用の方法のめどがたっていないのに回収だけしても,回収したCO2をそのまま保管するしかなくなり,余計に手間とコストがかかるだけである。
 一般家庭から回収しようがそのへんの空気中のものを持ってこようが,CO2の性質に変わりはないのだから,CO2の利用の研究をするのに,一般家庭に回収装置をばらまくのは,装置製造のために余分なCO2を発生させるだけになるだろう。まずは,最重要である利用技術の方を確立してから,一般向けに回収装置を売るのが本来の姿だろう。しかし,村木さんはこの逆をやっている。そして,関連のウェブサイトを見ても,回収したCO2をどうしているのかがはっきりしない。研究を始めた,とか,計画しているというだけである。
 装置の説明と特許の内容を合わせて考えると,CO2が溶けたアルカリ溶液をカートリッジごと回収し,ユーザーには新しいアルカリ溶液の入ったカートリッジを渡し,回収した溶液はどこか別の工場でCO2を分離して利用する,という方式にするしかない。既にCO2を処理している工場に送るとかでもかまわないのだけど,このあたりを実際にはどうやっているのかが,会社のウェブサイトを見ても全く出てこないのである。
 装置の製造,カートリッジの製造,電気分解,吸収の後のCO2の分離,CO2の利用の各段階でエネルギーが必要になってCO2が発生する。一般家庭に回収装置を渡す前に,村木さんが提案する方法をとった場合のCO2の収支が全体としてどうなっているかを明らかにすべきである。全体としてCO2の発生が他の方法に比べて多い場合,将来低下させられる可能性を探るために研究するのはかまわないが,商品を一般にばらまく段階ではないだろう。しかし,そういった収支もウェブサイトのどこにも書いてないので全くわからない。

消費者はまだ手出ししない方が良い

 「ひやっしー」を買って試そうという人は,地球温暖化を気にかけている消費者だろう。しかし,今の段階で手出しをしても,そのことが,逆にCO2の発生量を追加で増やすだけの結果に終わる可能性が高い。

  • 村木さんへの評価は,現状,人が人を評価したというものしかなく,村木さん自身が自然現象を相手にどれだけのことをしたか,という情報が皆無である。人による評価ではなく,自然現象として何を見つけたとか,原理はわからなくても効率が従来法より良い,といった,誰でも確認できる成果が出てくるのを待つべきである。

  • 表に出てきている発明としてはアルカリ溶液によるCO2吸収と回収のみ。装置が特許を取得したと称しているのに,装置の説明は特許通りではなく特許の一部でしかない。プレスリリースの際のこういった不誠実な対応が是正されるまで,信用すべきでない。

  • 実現している装置は特許の前半しかやっていないと読み取れ,溶液に吸収させた後のCO2をどう使っているのかがうやむやで曖昧なままである。CO2の行く末について会社のウェブサイト等できちんと情報提供されるのをまずは待つべきである。

  • 購入検討はウェブで申し込んで,営業の人が説明に来るという方式をとっている。今のままだと,CO2の行く末について重要な情報を隠したまま営業の対人スキルでどうにかしようとしているように見える。消費者としては,警戒レベルを上げるところである。

  • CO2の固定をいかに効率良くやるかは植物との競争で,今のところ人類の科学技術は植物に負けている。装置を使ってCO2の回収をして利用の最後まで到達した時のCO2収支について,他の工業的方法と比較して優位性が示されるまで,消費者が採用すべきものではない。

別のことが気になる

 会社のウェブサイトはきれいな作りになっているのだが,読んでも読んでも肝心の一番知りたい情報(上で指摘したもの)が全く出てこないので,だんだん読むのが苦痛になった。見栄えよりも中身を何とかしてほしい。プレゼン技術はある人のはずなのに,情報提供の仕方が偏っているように見える。
 東大推薦入試で入学といい,それ以外のプロジェクトへの参加といい,村木さんのプレゼン技術が非常に高いことは確かだろうと思う。しかし,CO2利用の技術としてどんなものか評価しようとしたとき,重要な情報がごっそり抜けていた。少なくとも,私が真っ先に考慮する項目がいくつも出てこない状態だった。こういうプレゼンを高く評価する人ばかりが村木さんの周囲に居たということだろうか。だとすると,評価する側が,なにがしかのメッセージを出し損ねているように思える。

実はタレント枠だった

 ここからは最初に書いた内容への追記。同日,やまもといちろう氏によるツッコミが入った。

 村木さんはホリプロ所属で芸能活動をしているとのこと。私がこの話題を知ったのはSNSで記事を見たここ2,3日のことだったので,芸能人枠の人だとは思っていなかった。
 だとすると,あと7年で云々や,そのために東大を中退したというのも,演出の一種の可能性が出てくる。
 さらに,やまもといちろう氏は昨年「ひやっしー」の技術資料を見たのだけど,資料に対するコメントがこれ。

その際に、環境問題に取り組むこの若者が開発した「ひやっしー」という二酸化炭素を除去する仕組み(装置)の概念図も含めて書類が出てきたのですが、活用実績のところに問題があり、また、機構的にもカートリッジ式なのかパイプラインなのか分かりませんが集めたはずの炭素を排出する機構が見当たらず、現在二酸化炭素を除去する仕組みで一般的なアミン溶液を扱う元資源エネルギー庁のOBやプラント会社に見解を求めたところ、顔を真っ赤にして「こんなので二酸化炭素が改修可能なら環境問題は起きてない」などとブチ切れ始めたので見なかったことにして不採択とするようお薦めしました。

 私は,公開されている情報だけから,吸収したCO2の行く末がわからないと指摘したのだけど,詳細な書類を見ても集めたCO2をどうするかがわかず,そもそも装置から取り出す仕組みになっていないようだったということらしい。

景表法上の問題発生では

 「ひやっしー」に興味を持つ消費者は,CO2の排出量を減らしたい,温暖化阻止に貢献したいと考えている人だろう。プレスリリースでは,特許番号まで示して装置の特許だと明記している。そうであるなら,吸収させたCO2の回収から再利用までが行われることを期待して「ひやっしー」を買うとかレンタルするとかするのだろ。つまり,ただ単にCO2を吸収するというだけではなく,きちんと回収して利用するところまでできるということが,購入決定の主要な理由となるはずである。
 ところが,技術資料を見ても,CO2が吸収されるところまではわかっても,その先がはっきりしないという。もし,吸収の後の処理をする部分や方法が仕組みとして存在しなかったら,消費者が購入する主要な理由と異なるものを売ってることになり,景表法の優良誤認表示にあたるのではなかろうか。ホリプロも不実証広告をやらかすことに手を貸していることになる。

Yahooニュースの記事へのコメント追記

 村木さん本人が言ったのか,記者が勘違いして書いたのかはっきりしなかたので最初はコメントしなかったのだけど,山本一郎氏が言及したので私からも追記しておく。
 まず,記者は次のように書いている。

村木さんが東大を満期退学することに決めたのは、昨年9月。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

3月31日まで東大に在籍したのは、学士号の学位をとるために、大学に4年間在籍する必要があったからだという。4年間の在籍に加え、124以上の単位を取得し、論文を書き、筆記試験と面接を通過すれば、国から大学卒業と同等の権利を与えられる仕組みがあるという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5a70c9160e3326cd8438ec57e81a4a93fb4b2d16

 学位授与機構が行っている学士の学位授与のことを指しているのだろう。

https://www.niad.ac.jp/n_gakui/media-download/5948/7a397ed4625204b6/

 大学中退の場合は第3区分になるので「学生として大学に2年以上在学し,62単位以上を修得した後,その大学に在学した期間および修得単位を含めて,4年以上にわたって授業科目を履修し124単位以上修得する」にあてはまる。元の大学での在学期間も含めて4年以上の履修を求めているので,元の大学に4年間在籍していれば,後は必要な単位を揃えて試験を受けるだけ,となる。ただし,レポートを課されることになっていて,化学系の学部では卒業研究必須が標準である以上,レポートは卒業論文と同程度の内容が求められることになるだろう。その準備のためには卒業研究が必要なので,結局,在学して卒業研究をするのと負担は変わらないということになりそうである。
 記事からは,卒業研究のための研究室配属は行われていたと読める。東大が今どういう制度かはわからないが,大抵の大学では,進級時,あるいは卒研配属時になにがしかの条件を設定し,あまりにも単位が取れていない場合は卒研配属自体ができない制度で運用している。単位不足が過ぎると,卒業研究に必要な知識をそもそも持っていないと判断するしかない上に,週に何コマも座学の講義に出ていたら卒業研究が進まず,座学の単位がとれても卒研で落ちるからである。無事に卒研配属されたということは,卒業までに必要な単位は,4年生必修の卒業研究と文献講読で,もし他に単位を落としていたらその分の2,3の座学の講義,という状態であったと思われる。
 9月に退学予定を告げてそれ以降卒業研究をしなかったと読めるので,少なくとも卒業研究の単位が足りていない状態でのただの退学であり,これを満期退学とは呼ばない。
 なお,博士課程では,単位を取得し所定の年限在学しても博士号を出さないという文系学部の変な慣習が長く続いたせいで,単位取得(満期)退学という状態が常態化した(今はそのようなことはない)。理系ではそのような慣習は無かったが,博士論文の準備だけが間に合わないという場合に,単位取得(満期)退学して退学後に論文審査の申請をしてパスすれば博士号取得という運用がなされている。博士論文の準備が間に合わない状況とは,博士論文の審査要件に投稿論文何報アクセプト,といったものがあり,外部の学術雑誌の審査が遅れて〆切りに間に合わない,というのが典型的なケースである。学部については単位取得満期退学は普通は存在しない。満期とは必要な在籍期間の倍なので学部では8年になる。つまりYahooの記事の記述がおかしい。
 

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