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フェイク①

この世は思った通りになるのだそうで。そう、ディープフェイクさえ使えば何だって思いのまま。あの人がこんなことしてたら、なんてことも別の人で撮影して、顔だけ変えちゃえば、思った通りの動画ができてしまうってワケ。

ある日、女優の美琴みおは事務所の偉い人に呼び出された。
「この動画、君だと噂になってるが本当かね。」
それはいわゆるハメ撮り動画だった。場所は家のトイレのようだ。
「何ですかそれ!違います!私じゃありません!」
「そうか、しかし顔があまりにもそっくりだ。」
「こんなの合成です!最近の合成技術はすごいですからね、話題のディープフェイクってやつだと思います。でも探せばネットのどこかに私の顔じゃない元の動画もあるはずです!信じてください!」
「分かった。とにかく元動画を探そう。早くしないと騒ぎが大きくなる。君の清純派のイメージが壊される前に何とかしなくては。」

しかし美琴の動画はあっという間にSNSで拡散された。清純派女優のスキャンダルはネット上で盛り上がってしまった。
その後、元動画が見つかった。これが美琴の動画を上回るスピードで広まり始めた。
元動画の女は人気女優、歌織らなだった。
歌織の所属事務所はすぐにこれを否定した。初めはまたディープフェイクと思われたが動画拡散後に放送されたテレビ番組で、自宅のトイレで漫画を読む趣味を紹介しており、そのトイレと全く同じことが決めてとなり拡散は加速した。
歌織の出ていたCMは差し替えとなり、レギュラーだった朝の番組も交代となった。

美琴は歌織の住むマンションに来ていた。しかし歌織に用があったわけではない。
美琴は違う階に住む動画クリエイターJ助に会いに来ていた。
「久しぶり、ふふっ、あなたのおかげで上手くいったわ。」
「みたいだね。おめでとう。」
「これであの子はもう清純派としての仕事はこない。そしてあの子のポジションの仕事がほとんど私に流れてきてる。ふふっ、笑いが止まらないわ。」
「僕も動画編集に欲しかったソフトをあれもこれも揃えてもらえて嬉しいよ。それに、、」
「それに清純派女優の私を抱けた、って?」
「うんそう。あの時ほど動画クリエイターをやってて良かったと思ったことはないね。たまたま歌織さんと同じマンションに住んでたのもラッキーだったよ。」
「たまたま?」
「、、?」
「知らないと思ったの?あなたが歌織のファン、というかストーカーだってこと。」
「いや、違っ、」
「まあ良いじゃない、それをとやかく言うつもりはないわ。今日は手切れ金と私の元動画を削除させにきただけだから。」
「動画ならもう消してる。」
「そう、じゃあこれ、はい。私とあなたに何らか関係があったことが知られたら死ぬより辛い目に遭うことを覚悟してね。」
「分かってる。それにしてもすごい策を思いつくね。一回自分の動画を拡散するなんて。」
「確実に燃え上がらせるためよ。徐々に話題になるんじゃダメなの。でも一気に拡散される確証はない。だからまずは私を使って、盛り上がりが頂点に達する前に、美織に切り替える。そうすれば確実に美織は燃え、私は悲劇のヒロイン。それに一度被害者と思われればもう疑われることはない。そして結果はこの通り。ふふっ。」
この世は私の思い通り、美琴は笑いを堪えながら帰路についた。

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