短編小説『世界を壊す計画を立てている。』

 世界を壊す計画を立てている。
 例えばどこもかしこも爆破してやるだとか、例えば世界を水に沈めてやるだとか、例えば巨大な隕石を落としてやるだとか、下らないことを考えて一日が終わる。
 そんな友人がいる。
 何故世界を壊したいのかと聞けば、彼女は「夢を見たいの。」と言った。人のどす黒い部分しか信じられない彼女は、毎晩世界の終わる夢を見ると言う。人が欲望の手網を離すのは、その夢を見ている時だけだと。
 じゃあ、全部壊しては人も何もかも居なくなるだろ、と尋ねてみる。そうすると酷く悲しそうな顔で、けれど何も言わなかった。
 世界を壊す計画を私に話す時、彼女は何かを編んでいる。忙しなく、よく慣れたような手つきでいつも何かを編みながら、こうやって世界を壊したいと話し始める。いつもいつもよく違う話が出てくるものだと思っていたが、ふとそれらを全部覚えているのか気になった。ので、聞いた。
 全部は覚えていない、と彼女は笑う。彼女はいずれ試したいとでも言うような口振りで話すので、世界の終わりが来るのなら彼女が手を下すのだと思っている。だから心底驚いた。いつか本当に壊せる機会があるかもしれないのに、覚えていないなんて勿体無い、と。
 そうなんだけどね、と目を伏せる彼女の睫毛が影を落とす。
「だって、書いたりして自分の目につくように残してしまったら、本当にしなきゃいけないような気がするもの。」
 君はおかしい、と喉まで出かかった言葉を、けれど口に出さずに飲み込んだ。そうかい、と分かったような返しをする。そんな小さな嘘が、彼女をゆっくりと殺しているのを知っている。知った上で今も彼女の隣を離れないでいる。
 今日も何かを編みながら、彼女は世界を壊す計画を立てている。

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