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海にて。

町の漁港。

というと、今は少し寂れた所もあるのかもしれない。でもここは活気に溢れていて、賑やかだった。次々と運ばれてくる、魚介類。ゴムのエプロンを付けた人たち。磯の香りが濃く、奥まで突き抜けてくる。

私は連日のハードワークでバーンアウトしてしまった。真っ白な頭と棒のような足が向かった先は、都会から離れた漁港だった。ただ、朝焼けと漁から戻る船をボーっと眺めては、何も考えられない頭と身体が磯の香りだけを感じていた。

そのうちに、すぐそばで朝市が始まった。町の人たちが沢山買いに来ていた。ふと、干物が食べたいな、と思い

オバちゃんと私より少し年配のお姉さんのところへ行ってみた。

ブクブクと泡が立つ水の中にいる沢山の魚たち。不思議とそれを眺めているだけで、錘で沈んでいた心が軽くなっていくようだった。

モクズガニが沢山並んでいた。あぁ、そういえばモクズガニって一番美味なんだっけ。ふと浮かんできたその言葉と、でもどうやって食べるんだろう、が一緒になってやってきた。

「これって、どうやって食べるの?」

その瞬間無意識に、お姉さんへ尋ねていた。

笑顔でお姉さんの横にいたオバさんが、ゆでたモクズガニを見せてくれた。

それを手に取って、お姉さんはこうするんだよ、と身を穿り出した。

白いプラスチックのトレイに、身がほぐされていく。味噌と絡んだ身が美味しそう。隣にいたオバさんは、小さくカットされたタラバガニをお湯の入った鍋に少しくぐらせて、こっちもね。と笑顔でトレイに身をほじくりだしてくれた。

「ゆでてから時間がたっているカニは、こうするとほぐしやすくなるんだよ」

お姉さんが、ゆでてあったモクズガニの半身を、同じようにお湯につけてほぐして入れてくれた。

「食べてみ!」

手渡された私は、ポケットに突っ込んであったくしゃくしゃのお札をお姉さんに渡すと、おそるおそるカニを口にした。

「!!」

思わず二人を交互に見てしまう。二人とも、でしょ?と言いたそうな笑顔で見つめ返してくれた。

「これは。。。。」

言葉にする暇もないほどに、一気にカニを喰らってしまった。

「ヤバいっすね。」

私の体に、生が戻った瞬間だった。私の命の恩人は、モクズガニと漁港の人たちだった。

もっと読んでみたい!という気持ちが 何かを必ず変えていきます。私の周りも、読んでくださった方も、その周りも(o^^o)