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#ネタバレ 映画「居眠り磐音」

「居眠り磐音」
2019年作品
武士の娘が武士に勝つ日
2019/5/20 22:39 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

先着〇名様だけかもしれませんが、劇場入り口で、映画「居眠り磐音」のシナリオも載っている、厚さ5ミリほどの文庫本みたいな物がもらえます(ラッキー)。後でじっくりと映画をふり返れますよ。

映画の内容は、映画「たそがれ清兵衛」ほどストイックでもなく、されとて観客に媚びすぎてもおらず、ちょうど良い塩梅の、老若男女におすすめできる、現代時代劇の佳作でした。

帰郷したとたんに起こる、唖然とするような修羅場と、映画全体に散りばめられた見事な坂崎磐音(松坂桃李さん)たちの殺陣、そしてヒロイン・奈緒(芳根京子さん)の、トドメの花魁道中。そこにからむ、健気な長屋の娘(木村文乃さん)など、 見どころもいっぱい。

それにしても、クライマックスの芳根さんの微表情は、映画「駅 STATION」の冒頭にある、いしだあゆみさんの敬礼シーンと並んで、記憶に残ることでしょう。やはり女心はミステリーです。

★★★★☆

追記 ( 「眠狂四郎」 ) 
2019/5/20 22:46 by さくらんぼ

現時点では断定できませんが、ふと「眠狂四郎」への、オマージュの可能性もあるかもしれないと思いました。

追記Ⅱ ( 「眠狂四郎」② ) 
2019/5/21 9:41 by さくらんぼ

>現時点では断定できませんが、ふと「眠狂四郎」への、オマージュの可能性もあるかもしれないと思いました。(追記より)

>それにしても、クライマックスの芳根さんの微表情は、映画「駅 STATION」の冒頭にある、いしだあゆみさんの敬礼シーンと並んで、記憶に残ることでしょう。やはり女心はミステリーです。(本文より)

磐音の、「刀を下に垂らしてからスタート」する独特の殺法は、昔からの時代劇ファンの私には、「眠狂四郎の円月殺法」を思いださせます。

さらに「起きているのか眠っているのか」という穏やかな主人公の性格や、「居眠り磐音」というタイトルからも。

眠狂四郎は「赤毛」でした(転びバテレンと日本人とのハーフ)。今でこそハーフの方も普通に生きていけるでしょうが、昔は差別が強かったと想像します。そのため、眠狂四郎は影を宿し、屈折した人物になったのでしょう。

そして、この「赤」が、映画「居眠り磐音」では、「匂い袋に描かれた南天の赤」になったのかもしれません。「南天の赤」は、奈緒と磐音が逢引をしたときにも話題に上った需要な記号です。

磐音も映画冒頭に描かれた事件により、許婚・奈緒の兄を斬り、心に傷を負って逃げるように生きています(健さん流の男心として、分からんでもありませんが、奈緒と話し合った方が良かった)。

それから「円月殺法」の華である、刀の「回転」はどこにあるのか。

それが映画のクライマックスにある「花魁道中」なのかもしれません。

磐音との縁談が壊れてしまい、追いだされるように生きていた奈緒は、父・母と生きる生活費のために吉原に入り、(武士の娘としての稀有な品格と、野良犬同然になったハングリー精神で)花魁にまで上り詰めます。

手紙でそれを知った磐音は、吉原へ逢いに行きますが、花魁姿の奈緒を見て、転ぶように地べたに這いつくばります。高下駄で円を描くように歩いていた奈緒は、足を止め、ゆっくりと振り返るのです。ここにも円がありますね。

そして、地べたの磐音を見た奈緒は、匂い袋を取りだして、様々な感情のこもった微表情をするのです。

私には「武士の娘が、円月殺法で武士を斬った」と思えました。何も言わず一人で逃げだした上に、迎えに来るのが遅すぎたから。

そうそう、「刀を持った磐音が降り返っている写真」があります。あれは「振り返った花魁姿の奈緒と符合」していますね。

この映画「居眠り磐音」では、「眠狂四郎」の要素を「磐音と奈緒」に分解している可能性があります。

つまり、磐音は自らの刀に斬られたのです。あの商人の一人が言ったように、人を殺した者は後戻りできないのでしょう。

追記Ⅲ ( 「ジョニーへの伝言」的な )
2019/5/21 10:26 by さくらんぼ

>磐音も映画冒頭に描かれた事件により、許婚・奈緒の兄を斬り、心に傷を負って逃げるように生きています(健さん流の男心として、分からんでもありませんが、奈緒と話し合った方が良かった)。(追記Ⅱより)

>磐音との縁談が壊れてしまい、追いだされるように生きていた奈緒は、父・母と生きる生活費のために吉原に入り、(武士の娘としての稀有な品格と、野良犬同然になったハングリー精神で)花魁にまで上り詰めます。(追記Ⅱより)

きっと、その抵抗感を読者の方と共有したかったのかもしれません。

奈緒が吉原に入っていたという結果だけでなく、ここらあたりのエピソードをもっと描いていたら、作品にもっと深みが出たような気がします。

それから、エンドロールに(私もファンの)MISIAさんの歌が流れるのですが、ドラマが終わって間髪入れずに「洋の味」が入ったので、ドラマの「和の余韻」が急にそがれた気がしました。

2秒前後で良いので、「間」を開けた方が良かったと思います。

追記Ⅳ ( 匂い袋 ) 
2019/5/21 22:10 by さくらんぼ

>磐音との縁談が壊れてしまい、追いだされるように生きていた奈緒は、父・母と生きる生活費のために吉原に入り、(武士の娘としての稀有な品格と、野良犬同然になったハングリー精神で)花魁にまで上り詰めます。(追記Ⅱより)

>そして、地べたの磐音を見た奈緒は、匂い袋を取りだして、様々な感情のこもった微表情をするのです。(追記Ⅱより)

>私には「武士の娘が、円月殺法で武士を斬った」と思えました。何も言わず一人で逃げだした上に、迎えに来るのが遅すぎたから。(追記Ⅱより)

他にも、奈緒が磐音の胸に飛びこまなかった理由には、(花魁道中の途中だったこと以外に)武士の娘であった奈緒が、吉原の女になった事もあるのでしょう。奈緒の兄を斬った磐音が、奈緒に負い目を感じて去って行ったなら、あの時代のことですから、奈緒も磐音に負い目を感じたはずなのです。

しかし、奈緒は匂い袋を捨てなかった。

それどころか、何かのシグナルのように磐音に見せ、香りを嗅いだのです。(本当に嫌いになったのなら、とっくに捨てているはずですから)これは未練の証拠。

奈緒の心の中には、「さらいにきて欲しい」気持ちも存在したのでしょう。

きっと匂い袋の効力は凄いのだと思います。

もしそれが恋人の匂いならば、姿は見えなくとも、いつも身近にいてくれたような気分にもなったはずですから。

追記Ⅴ ( 「円」 )
2019/5/22 7:56 by さくらんぼ

「人生はサインカーブ」という言葉があります。

これは登場人物たちの、山あり谷ありの人生ですね。

「金は天下の回り物」という言葉もあります。

これは両替商が両替差益で(その中に混じっていた偽物も含め)、儲けたり損したりしていた話です。

そして、「人生はサインカーブ」も「金は天下の回り物」も、「円月殺法」の「円」に繋がっているのでしょう。

あの衝撃的な冒頭の修羅場も、一人が斬った事で、自分まで親友や許嫁を失う事につながり、そういう意味で、回り物の「円」を描いていたわけです。

追記Ⅵ ( 「死んで花実が咲くものか」 )
2019/5/22 8:21 by さくらんぼ

この映画「居眠り磐音」の冒頭にある、悪いうわさを流されるエピソードや、中盤にある、両替商への嫌がらせは、現代で言う「イジメ」につながりますね。

でも、「イジメ」にあっても主人公とヒロインは死にません。自殺などまったく選択肢に入っていないのです。

自殺も人殺しです。誰を殺めるのかの違いだけ。どちらも悪い事です。そして、一度人を殺めた者はなかなか元には戻れない。

しかし磐音は、やもうえないとは言え殺めてしまった。これは、泥沼に落ちた者たちが、全力で這い上がろうとする、「人生はサインカーブ」な物語だったのかもしれません。

追記Ⅶ ( “おこん”の戦い )
2019/5/22 8:41 by さくらんぼ

長屋の娘・“おこん”は、磐音がただものではないと知り惚れてしまいます。しかし、磐音に許嫁の奈緒がいると知ってからも磐音のそばを離れず、奈緒を連れもどすために協力するのです。“おこん”の心中を思うと、これも泣けてきます。

しかし、磐音の「刀を下に垂らしてからスタート」する殺法を知る時、私はおこんの、「負けじ魂」での挑戦を見たような気もするのです。

追記Ⅷ ( 「涼しい目」 )
2019/5/22 8:59 by さくらんぼ

映画「武士道シックスティーン」では、女性剣士たちが、大声で対戦相手を威圧しながら戦っていました。映画館で観たとき、失礼ながら驚いた思い出があります。

私は剣道は素人です。素人の想像では、大声での気合は、表現が適当かどうか分かりませんが、「気」で相手にジャブを入れているのだと思います。

対照的なのが弓道・アーチェリーでしょう。

少々のアーチェリーの経験から言えば、「涼しい目」をして射る者の方が成績が良いようです。余分な力を抜いて、無心になっている時が的に当たりやすいのです。無心になれば、自然と目元も涼しくなります。

ですから、磐音の静かな殺法も、それに似ているのかもしれません。

追記Ⅸ ( 「チャンネルはそのまま!」 ) 
2019/5/23 9:15 by さくらんぼ

『  NHK朝ドラ「べっぴんさん」では、実際に近所に居てもおかしくないような、地味で真面目な役を演じておられた芳根京子さんですが、先日放送されたTV番組「チャンネルはそのまま!」では、「バカ枠」(私の暴言ではありません。)で辛くも採用された、新人女子アナを演じておられました。

実際に放送局に勤務した人でなければ分からないような裏話が満載の、とても面白い喜劇でした。今まで観た中で、芳根京子さんの可愛らしさは、あの喜劇が一番際立っていました。黒木華さんは悪女役でも成功されましたが、芳根京子さんは、この路線にも期待ができそうです。

〇 「 芳根京子が語る『バカ枠だけど天才』を演じる難しさ 」

( NEWSポストセブン 2019.03.04 16:00 )

〇 「 『バカ枠』がテレビと社会を面白くする!? 北海道発の熱いドラマ『チャンネルはそのまま!』 」

( Yahoo!ニュース 2019/3/16(土) 20:36 )  』

映画「グッドモーニングショー」 2019/5/2~5/3 byさくらんぼ 追記Ⅶ ~Ⅷの再掲 )

映画「居眠り磐音」とも、NHK朝ドラ「べっぴんさん」とも、まったく違うキャラを演じておられるTV番組「チャンネルはそのまま!」。

まだの方は、再放送の機会があれば、ぜひご覧になることをお勧めします。また、映画「居眠り磐音」の続編だけでなく、こちらも映画化されれば素晴らしいと思います。

追記Ⅹ ( MISIAさんの歌 ) 
2019/5/27 8:27 by さくらんぼ

MISIAさんの歌に初めて射貫かれたのは、1999年発売の「BELIEVE」という曲です。ラジオで聴いて忘れられなくて、CDショップへ行き、20歳ぐらいの女店員さんの前で、(恥じらいもなく)メロディーの一部をハミングして探してもらったのです。曲名も知りませんでしたから。そうしたら店員さんはすぐに曲名を当ててくれました。私も、あの頃は若かった。

MISIAさんは、現在NHK・FMで、「MISIA 星空のラジオ」のパーソナリティーをしておられるので、よく聴かせてもらっています。MISIAさんの歌声は油絵のようですが、語り口は水彩画のようで、まるで別人。星空のイメージにも良く合います。

追記11 ( 男たち ) 
2019/5/29 22:20 by さくらんぼ

男性陣にも目を向ければ、主役はもちろんですが、映画「空母いぶき」にもご出演の佐々木蔵之介さんが、ここでも良い味を出していましたし、柄本佑さんの魅力も光っていました。

追いつめられた奈緒の兄・小林琴平(柄本佑さん)は、親友である磐音に斬ってもらいたかったのでしょうね。

磐音もそれを悟って剣を抜いたのでしょう。だから、あの戦いは介錯に近かったのかもしれません。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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