#ネタバレ 映画 「そして父になる」
「そして父になる」
そして企業は合併する
2013-10-20 11:10byさくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
トム・ハンクスさんとメグ・ライアンさんの映画「ユー・ガット・メール」に似ている印象ですね。
昔観たきりでディテイルの記憶が正確ではありませんが、あれはメールで知り合った見知らぬ男女のラブストーリーでした。でも深層で語られていたのは流行の企業合併だったと思います。たしかトムの会社(大企業の記号)が、メグの店(中小企業の記号)を、結婚という形態をとって、事実上は吸収するのです。
映画「そして父になる」も、ある意味同じなのでしょう。
野々宮(大企業の記号)と斎木(中小企業の記号)が企業合併するのです。父が社長の記号なら、子供や妻、親戚縁者、関係者は、合併の影響を受けて騒然とする人たちの記号なのでしょう。
それでなくとも是枝監督には、映画「誰も知らない」で、育児放棄事件の実話をモチーフにしながら、主題を母への糾弾から、増加する一般的な引きこもり問題へとシフトし、糾弾の弓を引いて待っていた観客を困惑させた前科があります。どうも、それと今回も手口が似ているのです。
さきほど野々宮(大企業の記号)と斎木(中小企業の記号)が企業合併する、と申しあげましたが、この映画の場合(前提条件が変われば答えも当然変わりますから、すべての家庭に適合するのではありませんが)、当初予定していた子の交換、そして相手家族との絶縁は、まず無理でしょう。
理由は映画「八日目の蝉」でクドイほど書きましたので、詳細はそちらを参照していただきたいのですが、つまるところ、血ではなく、世間体でもなく、子の気持ちを第一に考えた時に、それは、真っ先に排除したい選択だからです。
つまり、今のまま、たとえ取り違えた他人の子供であろうと、そのまま、わが子として、心から愛して育てるのが、この映画に限っての、妥当な解決方法だと思います。
そして、これもご縁だと思って、実父母と養父母は、家族ぐるみ頻繁に行き来する、さながら親戚づきあいを子に見せるのです。
子供たちには、折を見て、本当のことを、相手の父母が実父母であることを、話すのです(もう話してしまったのかもしれませんが)。
やがて、子供が成人し、結婚する頃には、各々自分なりの正解を見つけることでしょう。
養父母、実父母は、その決定を尊重する。
少なくとも、それまで、良き、養父母、実父母として生きていくのです。
大人になった子供たちは、どちらかの親を切り捨てて絶交するのではなく、たぶん、自分には愛すべき養父母と、愛すべき実父母が存在する事を、誇らしく思う日が来るのではないでしょうか。
悩ましいが「そういう人生もあるものさ」と悟る日が来るのです。
そう思ってくれるように努力して育てるのです。
これが、この場合の企業合併と言うことです。
企業合併するということは、両企業の長所を学びあい、短所を改めあいます。この両家も、親戚づきあいするうちに、お互い学びあう事でしょう。相手の欠点ばかりを責めていてはいけません。
映画のラストで、夕暮れ時の電気店に入っていく両家。
カメラが引いていくと、レンズのハレーションが虹のごとく、彼らの後ろ姿に重なるのです。偶然かもしれません。でも、もしかしたら、これは、監督の計算づくの演出で、スピルバーグのごとく、エンディングに虹をかけたのかもしれません。そう信じたい。
虹は、幸運の記号です。観客がほっとして見守る中、両家が仲良く、中小企業の記号である電気店に、入っていきます。ここが大企業の記号である高級マンションではないところもポイントです。一家団らんの雰囲気はこちらに軍配があがりますから。誤解のないように繰り返しますが、このシーン、電気店が二人を引き取るという意味ではありません。
あの誕生したばかりの新しい親戚は、お互いにとってもっとも素晴らしい親戚同士になることでしょう。
そう祈らずにはいられません。
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( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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