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#ネタバレ TV「トッカイ ~不良債権特別回収部~」

2024.2.2
市区町村役場の徴税吏員の心象風景を連想するリアルな出だし


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

TV「トッカイ ~不良債権特別回収部~」が再放送されていたので、録画して、とりあえず1~3話を観ました。以前、市役所の徴税吏員のドラマがありましたが、私には、意外にも、あのドラマよりも「トッカイ・・・」の方が、よりリアルな徴税吏員の心情、そして仕事を、連想させるように思えました。

TV「トッカイ ~不良債権特別回収部~」の何にシンパシーを感じたかと言えば、主人公たちは希望してその仕事に就いたわけではないという点です。皆、債権回収の素人です。不条理、ドラマではこの辺りのブルーな、あるいはグレーな心情が、静かではありますが、滲み出て、滴り落ちていました。

同様に、大多数の徴税吏員もそうです。住民票の交付ぐらいの仕事をイメージして、安定を求めて公務員になったら、人事異動で有無を言わさずやらさた人がほとんどなのです(ここが税務署員との違い)。

しかし、気に入らぬ異動だからと言って、退職して路頭に迷うわけにもいきません。最低3年間がまんすれば新たな異動希望が出せるはずですから、それまでは何としても頑張らなくてはならない。これが彼らの基調低音だと思います。

やがて芽生える、「逃げ徳は許さない」という使命感、さらには、「大多数の善良な納税者がバックで応援してくれている」という思いが癒しとなって、(滞納者から「税金泥棒」と言われても)働いていけるのです。

( これは2024.2.1のパレット記事に加筆再掲したものです。)

追記 2024.2.3 ( 金額的なスケールは徴税吏員が小さい )

もちろん両者の回収金額には違いがあり、徴税吏員の方が少ないと思います。ならば徴税吏員の方が気楽だという見方もあるでしょう。それを否定はしません。なので、本文では金額にはふれていません。

でも、昨日までは住民に奉仕する事しか考えていなかった公務員が、今日からは、住民(滞納者)を追いかけて、嫌われても、怒鳴られても、差し押さえをしてでも回収する仕事に就くわけです。公務員にとって、それは世界観がひっくり返る事態。時に不眠症になる者が出るほどのストレスです。多くの公務員は、多分ここで初めて、「全体の奉仕者」の意味を、肌感覚で知るのです。

ですから、徴税吏員の回収金額が例え1万円の事例であっても、私はそこに、「トッカイ ~不良債権特別回収部~」との、スケール違いの相似形を見るのです。

追記Ⅱ 2024.2.6 ( 出向者に起こった利益相反 )

例えば、住民税の滞納をしている人には、国民健康保険や、国民年金、国税や県税等の滞納だけでなく、民間の借金がある人も珍しくありません。どの債権者も回収のために動いているはず、独自に債務者の財産情報の収集に努めているでしょう。

でも、例えば住民税の担当者が、他係の担当者に、債務者の財産情報の提供を求める事は(あるいはその逆も)、原則としてありません。

債権回収は早い者勝ちの世界なのです。火事の通報を受けると、即、消防車が出動する様に、破産などの情報が入ると、皆、飛び出していきます。現場には債権者の人だかりが出来ていることがあります。

しかし、TV「トッカイ ~不良債権特別回収部~」の中にはこんなエピソードがありました。銀行から不良債権特別回収部に出向させられている社員に対し、銀行から「銀行にも債権があるから、君たちがつかんだ債務者の財産情報を教えろ」との業務命令が来るのです。

しかし、その命令に従えば、情報をつかんだ銀行に先手を打たれ、不良債権特別回収部の回収金額が減る心配があります。でも、命令に従わなければ、銀行へ帰還できるのが遅れるという報復人事にあう可能性がありますし、もし戻れても、(苦労した分だけ出世したいのに)出世コースからは外されるのを覚悟しなければならないかもしれない。これを利益相反と言うのでしょうか。

追記Ⅲ 2024.2.7 ( ごくろうさまです )

住宅金融債権管理機構の社長・東坊平蔵(橋爪功さん)は、①「最後の一円まで回収する」という信念を持つ反面、②それによって良い会社等が倒産し、国益に反するようになる事も心配していました。ここにも利益相反を連想するようなジレンマが出て来ましたが、東坊平蔵は視点が高いですね。

そんな中、こんなエピソードがありました。整理回収機構になった頃の話です。クルマに使える特殊なコンデンサー(電子部品)を作っている中小企業を東坊平蔵が訪問中、突然、クルマの大会社からコンデンサーの商談が入るのです。驚いて「この利益で借金を返せる」と大喜びする社長や社員たち。社長は「ざまあみろ」的な態度を東坊平蔵に向けもしましたが、本当に偶然の幸運でしょうか。

実は、この少し前に、東坊平蔵は自分の事務室にコンデンサーを持ち込んで、色々と策を練っているシーンがあったのです。

これは想像ですが、無名の中小企業からの営業ではなく、元・住宅金融債権管理機構の社長だった東坊平蔵からの営業だから、クルマ会社も真剣に話を聞き、本当に良いコンデンサーだと分かったから、商談を入れたのではないでしょうか。

話を単純化すると、「債務者Aから取り立てるために、債権者Bが仲立ちをして、Aの関係者Cの協力も得るという方法」です。しかし、この方法を取ると、BがCに事情説明する時点で、Cに、AがBを困らせている債務者であることが悟られてしまいます。

このような手法が本当に使われたとしても、これは歴史的なバブルの後始末という、東坊平蔵の言葉を借りれば「切った張った」の有事であることも加味して、評価すべきだと思います。

同じ手法を、現在の公務員が、平時の税金の取り立てで行おうとすると、情報の漏洩、守秘義務違反、そして善良な納税者との不公平になりかねないと思います。そして、私の知る限り行われていません。

追記Ⅳ 2024.2.8 (「奪り駒」)

整理回収機構に集められたのは、バブルで破綻した金融機関の者たちが多かったのです。その彼らが今度は取り立てる側にまわる。将棋でいう「奪り駒」だとドラマでは紹介されていました(ちなみに、福祉から徴税に異動する「徴税吏員」も、ある意味「奪り駒」ですね)。

ドラマの後半、部下の不祥事の責任を取って社長を辞めた東坊平蔵と、逮捕された悪質債務者・金丸興産社長・金丸岳雄(イッセー尾形さん)が、鉄格子ごしに、まるで旧友のように歓談するシーンがありました。

その時、東坊平蔵は金丸岳雄に言うのです。「もし、今の仕事をしていなかったら、何をしていたのか?」みたいな事を。

二人は肩書が消えた者同士。お互い、そんな裸の相手の中に、対称的な、自分と同じ匂い感じていたのでしょう。まるで「奪り駒」を見るように。金丸岳雄の「一円残らず回収する」という執念の強さに、その一端が見えるような気がします。

この二人が「奪り駒」の記号なら、バブルのマネーゲームに踊り、元・組合幹部だという負の遺産⁉の穴埋めをして上司に気に入られ、自分の出世の一里塚にするため(にも)、刃物をチラつかせるヤクザに剣道の気合で対峙した、班長・柴崎朗(伊藤英明さん)と、権威に対抗し、ゲーム感覚で金融犯罪をしている仁科真喜生(仲村トオルさん)も、同様の記号なのかもしれませんね。

ならば、利益相反もそのワンピースなのでしょう。

このドラマの主題はその辺りにありそうです。

追記Ⅴ 2024.2.9 ( 「自治体からの誤入金」問題を連想する )

ゲーム感覚で金融犯罪をしている仁科真喜生(仲村トオルさん)の手法の一つは、たしか返さぬ金・40数億円を海外で秘密裏に運用して300億円ほどに増やし、わざと捕まって2年ほどの懲役と40数億円だけを当局に没収させるものでした。残金が見つからなければ出所後はまる儲けです。これは「肉を切らせて骨を断つ」手法だと、ドラマでは紹介されていました。

これで思い出したのが、近年あった自治体からの誤入金問題です。多額の誤入金を受けた者は、返さず、ネットのギャンブルで増やそうとしていたようです。

追記Ⅵ 2024.2.9 ( 「取り立て屋」も心にかすり傷を負う )

いわゆる「取り立て屋」の仕事はなぜ疲れるのか。

もちろん、「仕事は健康に悪い。なぜなら、疲れるからだ。」みたいなジョークも読んだことがあるので、どんな仕事でも疲れるのでしょう。

でも、例えば住民票担当と徴税吏員では悩ましさが違うのです。

これはなぜかと思いましたが、「相手の嫌がることをすると、(理性では)それが正義の仕事であっても、(感情では)心にかすり傷を負うから」だと思いました。それが人間の良心なのでしょう。

担当者でいる間は、毎日「返り血」を浴びて、古傷が治らぬうちに、新しい傷ができるのです。だから恐怖感も癒えない。ドラマのエンドロールに流れる、絆創膏のような風景と歌T字路s 夜明けの唄が心に沁みたとしたら、視聴者がそれを疑似体験できたのかもしれません。

追記Ⅶ 2024.2.12 ( 「新人の家宅捜索」も「後輩を鍛えるのも」心にかすり傷を負う )

TVドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」の第2話にこのような話があります。

ヒロインが勤務時間外に、道でいっしょにイヤリングを探してあげた友だちになれそうな女性の家に、今度は警察官として家宅捜索に入るのです。同居の彼の窃盗容疑で。あろうことか彼女に贈ったイヤリングも盗品の一つでした。

ヒロインは彼女の下着が入った引き出しまで探すよう、藤先輩から指示されます。彼女が嫌がっているのを承知で、眼前で行うのです。

彼女の顔色を見て、初めての家宅捜索にいたたまれずに飛び出すヒロイン。しかし、しばらくの後、意を決して戻ってくるのです。そして今度は、藤先輩が驚くほど徹底的に探す。「窃盗犯の痕跡を一つでも残していけば、これからもここで暮らす彼女が余計に傷つく」と言って。

実は、当初、ヒロインはこの捜索に参加する予定は無かったようです。それを、藤が上司に進言したことで参加する事に。ヒロインと彼女の関係をよく知っている藤が、新人のヒロインが苦しむことを想像できなかったとは思えません。

むしろ、あえて火中に放り込んだように見えます。ヒロインを警察官として鍛えるためでしょう。

俯瞰すると、藤にはそういう厳しさがあるように思いました。商店街でも、夜の学校でも一人放り出しましたし、ラブホの件でも何も教えませんでした。藤の上手なところは、裏でそのように画策(鍛えて)⁉して、表ではヒロインを慰める優しい先輩として振舞っている事です。だから、藤が自虐的に「パワハラをした」と言っていたのは、この指導方法の事だったのかもしれません。

そして、このドラマの終わりには、いつも決まって、少し物哀しく、そして甘い歌・milet「Ordinary days」が流れ、ヒロインや藤たちは、寮の女子会で酔いしれるのです。

追記Ⅷ 2024.2.13 ( 関連記事 )

「バブルの怪人」と債権回収人の死闘にみる教訓 『トッカイ』で清武氏が描きたかったこと | ブックス・レビュー | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)



(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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