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#ネタバレ 映画「あなたの旅立ち、綴ります」

「あなたの旅立ち、綴ります」
2016年作品
ラジオと古いレコード
2018/3/13 9:50 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

① 地元の若い新聞記者・アンの趣味はラジオを聴くこと。

② ビジネスで成功を収めた老婦人・ハリエットの趣味は古いレコードを聴くこと。

映画館に貼ってあるポスターに、そんな自己紹介みたいな記述がありました。

私もラジオが大好きで、TVを見ない日はあってもラジオを聴かない日はありません。その上で申し上げるのですが、さり気なさ過ぎて、①は趣味と言えるのだろうかと思いました。

そして②については、CDではいけないのかしら、古い音楽ならCDでも聴けるものがあるはずなのに。それともレコード自体に価値を感じているのでしょうか。そんなことを思いました。

もしかしたら、これは時期について語っているのかもしれませんね。①は現在です。ラジオはリアルタイムと繋がった媒体です。ラジをを聴くという行為は、ある意味レーダーを回しているのと同じ。

対して②は過去です。時代をくぐりぬけてきたレコードとその音楽の総体は、その人の人生とも言えるのかもしれません。

ちなみに映画はまだ観ていません。

追記 ( 「スピーカーの意志的沈黙」 ) 
2018/3/13 10:40 by さくらんぼ

作家の五味 康祐氏は、自他ともに認めるオーディオマニアでした。ある日、自慢のステレオでLPを聴こうとしたとき、最初の無音部分で涙を流したのです。

そこには「スピーカーの意志的沈黙」がありました。彼の到達点とは、この「沈黙を味わうこと」だったのです。

それは楽園への入り口であり、やすらぎの前奏曲。

五味 康祐氏の名文には技術的に説明がつきそうな部分もありますが、簡単には分からない話も書いてあります。その中から「期待なしには鑑賞はありえない 」という部分に注目したいと思います。おそらく、それは「期待というバイアス」のことでしょう。

そのバイアスの中、装置とレコード、音楽と知識が、リスナーの詩心に、「スピーカーの意志的沈黙」という名文を書かせたのかもしれません。風鈴の音が涼しさを喚起させるように。

追記Ⅱ ( 「スピーカーの意志的沈黙」② ) 
2018/3/13 11:05 by さくらんぼ

あえて技術的な部分を要約すれば、とかく音が良いと言われているLPですが、アナログという言葉に象徴されるように、デジタルに比べ不安定な要素が大きいのです。その不安定要素も、ときに意志的沈黙とポエムにすることが出来そうです。

追記Ⅲ ( 「スピーカーの意志的沈黙」③) 
2018/3/13 11:22 by さくらんぼ

五味 康祐氏は4チャンネルステレオより、2チャンネルステレオを推していましたが、他にもワイドレンジよりナローレンジな音を、ステレオよりモノラルが好きな人がいます。その方が雑味が無くなって「静かな感じ」がします。

その感性で言えば、FMよりAMの方が音が良いと感じます。音数が減ることで、より音楽の核心部分に近づくからでしょう。ある意味俳句の世界。あの文章で五味 康祐氏の語っている事は多岐にわたっています。

追記Ⅳ ( 「スピーカーの意志的沈黙」④) 
2018/3/13 15:25 by さくらんぼ

多くの方には意味不明だと思いますので、少々具体的に書きますが、針を降ろした直後のLPの無音部分を、大型ステレオで聴いたことのある方なら、「小さな針音と、吸いこまれるような位相感をともなった、独特の無音」が聴こえてくるのをご存じのはず。私は、あれが一番分かりやすい「スピーカーの意志的沈黙」だと思います。

私の直感ですが、五味 康祐氏が「スピーカーの意志的沈黙」を書いた「種」はここにあると思います。彼は、これに肉付けしてあの名文を創ったのでしょう。

追記Ⅴ ( 女性版・映画「マイ・インターン」 ) 
2018/3/15 9:11 by さくらんぼ

映画「あなたの旅立ち、綴ります」を観てきました。

名女優シャーリー・マクレーンさん。

彼女が出れば、画面が締まるだけでなく、往年の名画を観ているような、至福の時間を味合わせてくれます。歳相応にしわが目立ちますが、それでも共演の若い女優さんよりもオーラがあるのはさすがです。

特に冒頭あたりのシーンでは、膝を正したくなるほど名画してます。

しかし後半は…少し散漫な感じも。これは彼女のせいではなく、シナリオかもしれません。

チラシに「現代版『クリスマス・キャロル』だ。」と書いてありましたが、残念ながら私は観ていません。そんな私には女性版・映画「マイ・インターン」に見えました。

★★★★

追記Ⅵ ( 伊勢湾台風 と ピアノ ) 
2018/3/15 9:16 by さくらんぼ

被災者の私ですが、当時幼かったせいもあり、下記の事は知りませんでした。ありがとうございました。

「 … 1959年、日本を襲った伊勢湾台風の際には、義援金を基に日本の福祉団体を通して東海地区の小学校にピアノを寄付した逸話が残る[6]。」

(  ウィキペディア 「シャーリー・マクレーン」 来歴・人物より抜粋  )

追記Ⅶ ( どうやらオマージュか ) 
2018/3/15 9:55 by さくらんぼ

>チラシに「現代版『クリスマス・キャロル』だ。」と書いてありましたが、残念ながら私は観ていません。そんな私には女性版・映画「マイ・インターン」に見えました。(追記Ⅴより)

映画「あなたの旅立ち、綴ります」は、表面的には「ハリエットの世話を焼く話」ですが、実は、「ハリエットが、才能ある若者たちを選別し、教育する話」なのです。

劇中、ハリエットが弟子にした(自分の頭で考える)才能ある黒人の子を、「マイ・インターン」と紹介するシーンもありました。そしてアンもまた、文才を見込まれ、ハリエットに選ばれた人間なのです。

映画「マイ・インターン」の舞台は古巣でしたが、映画「あなたの旅立ち、綴ります」でも、過去の物語を共有することで古巣を表現しています。

映画「マイ・インターン」では、最初の仕事はデスクの掃除でしたが、映画「あなたの旅立ち、綴ります」でも、汚部屋と化した、アンのクルマからゴミを放り出していました。

そしてアンですが、映画「マイ・インターン」のヒロインは、アン・ハサウェイが演じていたのです。

他にも色々あるかもしれません。どうやら、オマージュだと言っても良いような気がします。

追記Ⅷ ( 思考のリミッターを外せ ) 
2018/3/15 10:30 by さくらんぼ

ハリエット家にあるオーディオセット。スピーカーが床に直置きでした。

普通のスピーカーを直置きすると、床が反射板になり、指向性のない低音が増強されます。さらにツイーター(高音専用スピーカー)が、イスに座った人の耳より下になるため、指向性のある高音は聴こえにくくなります。

結果、「ボン、ボン」と低音だけが膨らんだ、バランスの崩れた音になります。だから、何か頑丈な台に置かなければなりません。これはマニアの常識ですが、そこまで注意が回らなかったようです。

そんなハリエットですが、、強気でラジオ局へ「私をDJとして雇いなさい」と売り込みに行くのです。そのとき「あなたの放送はコンプレッサーをかけていない」(だから音が良い)と、アンバランスにも専門的なことまで言うのです。

ちなみに、「音 コンプレッサー」でググると良く分かりますが、「コンプレッサーをかけないと、ピアニッシモからフォルティッシモまでの幅が大きくなり、生音に近づく」のです。もちろん弊害がないわけではありません。要はTPOです。

そして、これは映画の主題へと繋がります。

要するに、「(既成概念など)思考のリミッターを外せ」と言っているのでしょう。厳密に言えば、「コンプレッサーとリミッターは別の話」ですが。

追記Ⅸ ( 処世術 ) 
2018/3/15 10:47 by さくらんぼ

>劇中、ハリエットが弟子にした(自分の頭で考える)才能ある黒人の子を、「マイ・インターン」と紹介するシーンもありました。そしてアンもまた、文才を見込まれ、ハリエットに選ばれた人間なのです。(追記Ⅶより)

そして、ハリエットが黒人の子供に、自戒を込めて「バカは相手にするな」と、そんな意味の話をするシーンがありました。これも映画が伝えている重要なことです。

老婦人・ハリエットの周囲には、彼女の事を良く言う人はほとんどいません。それから来た自戒でしょう。

では、どうしたら。

才能のある人は、才能のある人(才能に理解のある人)と組んで仕事をすれば良いのです。そうすれば、イラつくことも少なくなるでしょうし、結果、あまり敵も作らずにすむのでしょう。

この映画は、それを実践し始めた、晩年のハリエットのお話でもあります。

追記Ⅹ ( 処世術② ) 
2018/3/15 15:30 by さくらんぼ

>私の直感ですが、五味 康祐氏が「スピーカーの意志的沈黙」を書いた「種」はここにあると思います。彼は、これに肉付けしてあの名文を創ったのでしょう。(追記Ⅳより)

>そして、ハリエットが黒人の子供に、自戒を込めて「バカは相手にするな」と、そんな意味の話をするシーンがありました。これも映画が伝えている重要なことです。(追記Ⅸより)

「そんな意味の話」と書いてある通り、「バカは相手にするな」はセリフ通りではありません。日本語訳のセリフを正確には思いだせませんが、「あなたは、これからの人生、たくさんのバカに出会います。その時は、自分もバカだと思いなさい」だったと思います。

私たちは普通、何かにつけ、自説と違う話(行動)をする人を見ると、「それは違う」と教えてあげたくなるものです。よい機会があれば、それも有りでしょう。しかし、ほとんどの場合、「説得する義務」まではないのです。

そんな時は、「自分もバカだ」と思うことで、気持ちを切り替えることが出来そうです。そしてスマイルを浮かべて相手の話を聴けるようにまでなれば(落ち着ければ)大成功。

それを「バカは相手にするな」と意訳しました。もし可能なら、異論を唱える人にも敬意を持ちたいと思います。

哀しいかな、多少上から目線ぎみかもしれませんが、激情して大声で口論(下手をすると喧嘩)し、破滅するよりも良いと思います。

追記11 ( LPのあつかい方 ) 
2018/3/15 15:45 by さくらんぼ

古いレコードが好きなハリエット。強気でDJになった彼女でしたが、LPをあつかう手先が、どうも乱暴でした。

あの五味 康祐氏は、LPのヒゲ(穴の周りにできやすい、ヒゲのようなスリ傷)が一本でもあると、あるまじき行為とばかりに、持ち主を軽蔑していました。しかしハリエットの所作では、ヒゲどころではなく、下手をすると音溝にも傷がつきそう。

でも、五味 康祐氏だけでなく、映画「波の数だけ抱きしめて」に出てきたDJ・田中真理子(中山美穂さん)のLPへの所作は、安心感もある素晴らしいものでした。

追記12 ( 「論語」から ) 
2018/3/16 9:01 by さくらんぼ

>日本語訳のセリフを正確には思いだせませんが、「あなたは、これからの人生、たくさんのバカに出会います。その時は、自分もバカだと思いなさい」だったと思います。

>私たちは普通、何かにつけ、自説と違う話(行動)をする人を見ると、「それは違う」と教えてあげたくなるものです。よい機会があれば、それも有りでしょう。しかし、ほとんどの場合、「説得する義務」まではないのです。(追記Ⅹより)

古典にも似たような話があったと思ってさがしたら、論語にありました。「忠告して之を善道し、不可なれば則ち止む。 自ら辱めらるることなかれ。」です。

友への忠告、一回は良いが、しつこくすると、あなたが不愉快な思いをする事になる、そんな意味でしょうか。

追記13 ( 若者11億人に難聴リスク ) 
2019/2/19 10:38 by さくらんぼ

>…そのとき「あなたの放送はコンプレッサーをかけていない」(だから音が良い)と、アンバランスにも専門的なことまで言うのです。

>ちなみに、「音 コンプレッサー」でググると良く分かりますが、「コンプレッサーをかけないと、ピアニッシモからフォルティッシモまでの幅が大きくなり、生音に近づく」のです。もちろん弊害がないわけではありません。要はTPOです。(追記Ⅷより)

昔の地下鉄は、冷房が無かったのです。

だから、「夏場は窓を開けはなって走行する」のが当たり前でした。すると、当然ものすごい風が入ってきます。毎朝、髪をセットして家を出るのに、通勤電車でボサボサ頭になるのです。

お洒落には縁がない私も、さすがに、これには参りました。

でも、問題はそれだけではありません。

毎日、「往復一時間ほども地下鉄に乗っていると、騒音で耳を痛め、喫茶店や職場で、人の話し声が聴こえにくくなった」のです。老人のように「え?、え?」を連発するようになりました。

これは問題だと思い、耳鼻科を尋ねましたら、先生は「地下鉄の騒音は問題だ、訴えてやりたいぐらいだ!」と言いました。先生も地下鉄を使っているので困っていたようです。

その後の私は、しばらくは「市販の耳栓」をして乗車するようにしました。

やがて電車の冷暖房化が進み、それに伴って、窓が開かない車両が増え、髪がボサボサになることも、騒音に悩むことも無くなりましたが。

ところで、最近、イヤホンで音楽を聴く人が増えています。

「 若者11億人に難聴リスク WHOが音楽機器使用に基準 」 ( 2019年2月13日09時55分 朝日新聞デジタル )

ところが、それには難聴のリスクがあったのです(映画館でも音量が大きすぎる館があるので、それも心配ですが)。

誰かが教えてあげないと思っていましたが、難聴予防の基準ができるのは良い事です。

さらにこんな事も思います。

街中・電車など、「騒音の中で聴く音楽には、より強くコンプレッサーをかけた方が良い」のではないのかと。

その方が、音量が平均化され、小さな音も良く聴こえるようになるから、ボリュームを下げるようになり、ピーク時の音量が下がるのではないかと思うのです。私は素人ですし、正確なところは分かりませんが、カーステレオが聴きやすくなることは確かです。

追記14 2022.12.21 ( 「出る杭は打たれる」 )

>そんなハリエットですが、、強気でラジオ局へ「私をDJとして雇いなさい」と売り込みに行くのです。そのとき「あなたの放送はコンプレッサーをかけていない」(だから音が良い)と、アンバランスにも専門的なことまで言うのです。

>ちなみに、「音 コンプレッサー」でググると良く分かりますが、「コンプレッサーをかけないと、ピアニッシモからフォルティッシモまでの幅が大きくなり、生音に近づく」のです。もちろん弊害がないわけではありません。要はTPOです。

>そして、これは映画の主題へと繋がります。

>要するに、「(既成概念など)思考のリミッターを外せ」と言っているのでしょう。厳密に言えば、「コンプレッサーとリミッターは別の話」ですが。(追記Ⅷより)

久しぶりに予告編を観て思い出したことがあります。

老婦人・ハリエットは自分の訃報を書いてくれるよう若手の訃報記者に頼みました。

自分の訃報を見たいからです。

なぜそんな事をしたがるのかと言えば、ハリエットは何事も優秀過ぎて人々から妬まれてようなので、訃報ぐらい事実の歪曲ではなく、真実の姿を報道して欲しいと思ったようです。

この事と、「あなたの放送はコンプレッサーをかけていない」(だから音が良い)は符合していると思います。ある意味、コンプレッサーは原音を歪曲するものだからです。

追記15 2022.12.21 ( お借りした画像は )

キーワード「レコード」でご縁がありました。黒光りする素晴らしいレコードプレーヤーとLPレコードですね。背景のジャケットが色も添えています。少し上下しました。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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