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習作、1段落で完結する物語、性描写等が苦手な方は #エロくない  やつをどうぞ。Follow me, please! フィクションです。実在の人物や団体、出来事などとは一切無関係で…
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#夜

バイオレンス夜・ザ阿佐ヶ谷

 こんな真夜中に来るのはどうせ亜沙子だろうと思ってオレは寝ぼけながらドアの鍵を開けた。オレの部屋の玄関のベルはファミマの来店チャイムと同じ音で、真夜中のアパートにファミマの入店音が、オレが寝ていたら部屋に何度も間抜けな音で響き渡った。真夜中に玄関のベルを鳴らすのは近所に迷惑だからやめてくれとあれほど言ってあったのに、何回も押しやがって、ほんとに迷惑なんだよな、などとブツブツ言いながらオレがドアを開けると、そこに立っていたのは亜紗子ではなくて、スキンヘッドでくまみたいな体型のデ

夜の中に

 わたしは朝が嫌いだ。ごみ収集車の音も嫌いだし、子供達が通学する音とか、街行く通勤する会社員たちの姿とか、モーニングメニューしか売っていないマクドナルドとか、人がぎゅうぎゅうに詰まった満員電車とか、そういうのがとにかく嫌いだと、いつも思う。なぜ嫌いなのかはあまり考えたことがなかったが、わたしはそれでもやっぱり朝が嫌いで、朝の中にいると、嫌な気分になることが多い。基本的に、夜型だからなのかもしれない。朝というのは、新しい一日の始まり、というよりも、わたしにとってはただの夜の終わ

下田のツタヤ

 伊豆とか下田とかに旅行に行くことがここ数年はなんだか多くて、よく目の前を通るような気がするが、中に入ったことは一回しかない。何年か前に一人で車中泊で旅行に来た時のことだった。もう今は別れてしまったが、当時付き合っていた彼女と、ほんとうに些細なことで喧嘩していて、しかも仕事もあまりうまく行っていなくて、オレはなんとなくいろんなことが嫌になって、いつものように旅に出た。と言っても、旅、と言えるほどたいそれたものではなくて、数日分の着替えと、助手席と後部座席をつなげて寝るための寝

麻布トンネル

 半年くらい、麻布十番で暮らしていたことがあった。暮らしたというよりも、その頃付き合っていた彼女の家が麻布十番にあって、ただそこに転がり込んむようにして入り浸っていただけ、というほうが適切な表現かもしれない。その彼女は真由という名前で、デザイナーとして働いていた。真由は、家の広さとか新しさとかよりも、立地とか最寄り駅がどこかとかを優先に考えるような女で、稼ぎが特別に多いわけではなかったが、港区に住むというのは、彼女の中では東京で暮らす上で譲れないことのひとつ、だったらしい。真

二十二歳

 たぶん、それは今までの人生のなかで、おそらく最悪の誕生日の迎え方だった。別に、自分の誕生日を祝うということに特にこだわりはないし、むしろ、祝ってもらったりするのが苦手で、誕生日はいつもどおりに普通に過ごしたいと常々思っている。SNSに祝いのコメントとかメッセージとかが適当に届いたりするくらいであとはいつもどおり、というくらいがたぶんオレにとって一番快適な誕生日の過ごし方なような気がする。二十二歳になる前日、つまり二十一歳最後の夜、おれはなにをどう間違えたのかよくわからないが

夜葉桜

 桜が綺麗な夜だった。その頃のオレはミエという名前の痩せていて背の高い女と付き合っていた。三宿通りのちいさな個人経営のフレンチで食事をした帰りだった。そのままオレの部屋に帰ってもよかったのだが、なんとなくそういう気分になれなくて、目黒のラブホに泊まった。渋谷のほうが近かったが、あのラブホ街を歩くのはなんだか、いかにも、過ぎるような気がしてなんとなく憚られて、それで、目黒の駅から少し離れたところにある、老舗、と呼ばれるたぐいのラブホにチェックインした。むかし、まだ二十代だったこ

公衆電話と日曜日

 昼下がりにやっと出かける気になった。どういうわけか、何に対しても意欲がわかなくなるときがたまにある。特に、予定のない休日はその傾向が顕著になる。長く、土日とか祝日とかのカレンダーとあまり関係のない働き方をしていたこともあって、予定のない休日というものをどうやり過ごして良いのかわからなくなる。美術館とかテニスコートとか、そういう場所は、当たり前だが、大抵、週末になると混む。それから、温泉とかスーパー銭湯とか、あとはラブホテルとかもそうだが、週末や休日になると料金が上る。わざわ