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習作、1段落で完結する物語、性描写等が苦手な方は #エロくない  やつをどうぞ。Follow me, please! フィクションです。実在の人物や団体、出来事などとは一切無関係で…
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#一段落小説

バイオレンス夜・ザ阿佐ヶ谷

 こんな真夜中に来るのはどうせ亜沙子だろうと思ってオレは寝ぼけながらドアの鍵を開けた。オレの部屋の玄関のベルはファミマの来店チャイムと同じ音で、真夜中のアパートにファミマの入店音が、オレが寝ていたら部屋に何度も間抜けな音で響き渡った。真夜中に玄関のベルを鳴らすのは近所に迷惑だからやめてくれとあれほど言ってあったのに、何回も押しやがって、ほんとに迷惑なんだよな、などとブツブツ言いながらオレがドアを開けると、そこに立っていたのは亜紗子ではなくて、スキンヘッドでくまみたいな体型のデ

夜の中に

 わたしは朝が嫌いだ。ごみ収集車の音も嫌いだし、子供達が通学する音とか、街行く通勤する会社員たちの姿とか、モーニングメニューしか売っていないマクドナルドとか、人がぎゅうぎゅうに詰まった満員電車とか、そういうのがとにかく嫌いだと、いつも思う。なぜ嫌いなのかはあまり考えたことがなかったが、わたしはそれでもやっぱり朝が嫌いで、朝の中にいると、嫌な気分になることが多い。基本的に、夜型だからなのかもしれない。朝というのは、新しい一日の始まり、というよりも、わたしにとってはただの夜の終わ

下田のツタヤ

 伊豆とか下田とかに旅行に行くことがここ数年はなんだか多くて、よく目の前を通るような気がするが、中に入ったことは一回しかない。何年か前に一人で車中泊で旅行に来た時のことだった。もう今は別れてしまったが、当時付き合っていた彼女と、ほんとうに些細なことで喧嘩していて、しかも仕事もあまりうまく行っていなくて、オレはなんとなくいろんなことが嫌になって、いつものように旅に出た。と言っても、旅、と言えるほどたいそれたものではなくて、数日分の着替えと、助手席と後部座席をつなげて寝るための寝

割れたオイルパン

 タクシーに苛立つのは、日常的に東京で運転していれば、そう珍しくもないことだろう。過ぎてしまったことは仕方がない、そんなのはわかっていた。とりあえず困ったな、と思いながら、オレは地面に寝そべって、エンジンの下からオイルを垂らす愛車の姿を、途方に来れながら眺めていた。ついてない、そんな言葉が脳裏をよぎったが、少なくとも車が壊れたことに関しては自分に非があるのは明確だったし、怒りや恨みは全くなくて、めずらしく、後悔と自責の念にオレは溢れていた。一台のタクシーが原因ではなかった。山

リナ、六十分、一万二千円

 その夜オレは泥酔していた。確か、外で飲んで帰って、そのまま部屋でさらに飲みながら寝てしまって、深夜二時を過ぎた頃に岡里からの電話で目が覚めた。岡里は大学の頃の友人で、当時、家が近かったこともあって、よく連絡を取っていた。その電話は、本当に大したことの無い用事で、まだ起きてる? ガムテープ借りれない? とか、USBメモリちょっと使いたいんだけどなんか余ってない? とか、そんなような用事だった。とにかく、何の用事だったかは覚えていないが、電話がかかってきて、それでオレは目が覚め

会社のサボり方

 たまに、何のために会社に行くのか、自分が何のために働いているのか、わからなくないと思うことがある。仕事の内容にものすごく不満があるとか、職場の人間関係に著しい問題があるとか、そういうわけでは決してないのだが、会社に行くことがすごく嫌に思えることが、たまにある。中学の担任だった体育の吉村とかだったらきっと、怠けてるだけだ、身体を動かせば忘れる、とか言いそうな気がするけど、そういうもんでもないと二十四歳になったわたしは思う。大体、吉村のことなんてよく思い出したな、と思うが、根性

麻布トンネル

 半年くらい、麻布十番で暮らしていたことがあった。暮らしたというよりも、その頃付き合っていた彼女の家が麻布十番にあって、ただそこに転がり込んむようにして入り浸っていただけ、というほうが適切な表現かもしれない。その彼女は真由という名前で、デザイナーとして働いていた。真由は、家の広さとか新しさとかよりも、立地とか最寄り駅がどこかとかを優先に考えるような女で、稼ぎが特別に多いわけではなかったが、港区に住むというのは、彼女の中では東京で暮らす上で譲れないことのひとつ、だったらしい。真

阿佐ヶ谷の夜が乱れる

 ファミリーマートの店内には、来客を告げる人感センサーのチャイムがついていて、客が入ってくると独自のチャイム音が鳴るようになっている。べつにファミリーマートのために専用に作られたチャイムではなく、たしか、パナソニックの商品のために作曲されたチャイムだったはずだが、ファミリーマートであまりにもよく耳にするので、ファミマの音だ、と思っている人も多いだろう。どういうわけか、阿佐ヶ谷にあるオレのアパートの玄関のチャイムはそれで、宅急便が届くだけでファミマの入店音と同じ音を聞くことがで

明け方、むき出しの肩

 若かった、そのたった一言で片付けてしまうことができるものなのかどうか、いまひとつ自信がないがそれでもとにかく、当たり前のことかもしれないが、あの頃のオレは、今のオレよりも若かった。何年前になるのだろうか。飽きもせずに明け方まで互いのからだを触り合ったり、キスをしたりして、過ごした夜があった。その頃、美穂とはまだ付き合って二週間くらいで、いまにして思えば、オレの美穂への気持ちが最高に高まっていた時期だったのかもしれない。まだ付き合いたてで、お互い知らないことも多かったし、オレ

沖縄料理

 なんで沖縄料理だったのか、今でもその店を選んだ理由が思い出せない。なんとなく、イケてる感じ、がするような気がして、沖縄料理を選んだというだけかもしれない。とにかく、オレはその店のほの暗い店内のテーブル越しに由美子と向かい合って座り、沖縄料理を食べた。由美子と付き合っていたのは、一週間だけだった。セックスもしなかったし、手さえも繋いでいない。結論からいうと、沖縄料理を食べたその夜が、恋人として会う最後の夜になった。由美子と付き合ったのは、今から思うとたぶん、お互い何かの間違え

検査薬のよる

 いつもしっかりコンドームを使っていたし、生で挿れたことだって一度もなかった。それに、妊娠しにくい体質だと婦人科の先生に言われたことがある、と奈苗もいつか自分で言っていた。奈苗の生理周期はもともと不安定な方だったし、長いと一週間くらい前後することはいままでにも何度かあった。それが、今回はもう予定日から二週間を過ぎていて、そのせいで、会う度にオレは詰め寄られていた。ねぇ絶対絶対妊娠じゃないよね? いま妊娠なんてしたら親にも園長にもたぶんなんて言われるかわかんないから。ほんとにほ

温泉旅館

 ふと背後に気配を感じたその次の瞬間には浴衣の帯の結び目が解かれていた。わたしはぼんやりと鏡の奥を眺めながらドライアーで髪を乾かしていて、ユキくんが後ろにいつのまにか迫ってきていた事に全く気づかなかった。髪の毛はもう殆ど乾いていて、わたしはドライヤーのスイッチを切った。ドライヤーを洗面台の大理石の上に置いたら、コトン、という音がした。ユキくんに浴衣のヒモが解かれてしまったので、合わせていた前がパラりとずれる。鏡の中のユキくんの目が、鏡の中のわたしの目を見ている。すこしドキドキ

天ぷらを食べてニヤニヤするふたり

 そのラーメン屋のことを思い返すうちにどんどん不愉快になってきて、それでわたしはもうこれ以上思い返すのをやめることにした。と言いながら、いまもこうして思い返してしまっているわけだが、何日か前に、少し酔って最寄り駅に帰ってきて、ふと思い立ってラーメンを食べることにした。嘘かホントかは知らないが、武蔵小山はラーメン激戦区、なのだとインターネットに書かれているのをいつか読んで、せっかく住んでいるのだから行ってみようと思い立ち、電車の中でネットに書かれていた武蔵小山のおすすめラーメン

ゆきのひ2

 出欠の締め切り日は今日だった。返信はがきは手帳に挟んだままで、まだ返事は決められていなかった。有希子とは前職の同僚だった。招待状が届いたとき、おめでとうという気持ちと同じくらい、いや、それよりも少し多いくらいの、困ったな、という気持ちが自分の中にあるのを感じた。素直に祝ってあげたいという想いはもちろんあったが、なぜそう大して親しくもないわたしなんかを呼んだのだろうか、とか、またご祝儀の捻出で悩むのか、とか、自分自身は結婚の兆しなんて全くないのに何故もこうして人の結婚式ばかり