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習作、1段落で完結する物語、性描写等が苦手な方は #エロくない  やつをどうぞ。Follow me, please! フィクションです。実在の人物や団体、出来事などとは一切無関係で…
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#東京

リナ、六十分、一万二千円

 その夜オレは泥酔していた。確か、外で飲んで帰って、そのまま部屋でさらに飲みながら寝てしまって、深夜二時を過ぎた頃に岡里からの電話で目が覚めた。岡里は大学の頃の友人で、当時、家が近かったこともあって、よく連絡を取っていた。その電話は、本当に大したことの無い用事で、まだ起きてる? ガムテープ借りれない? とか、USBメモリちょっと使いたいんだけどなんか余ってない? とか、そんなような用事だった。とにかく、何の用事だったかは覚えていないが、電話がかかってきて、それでオレは目が覚め

銭湯

 ほんとうにうっかりしていた。すっかり払ったつもりになっていたのだが、先月の分のガス代の払い込みを忘れていた。今月の分はもう払ってあったというのに。督促と停止宣告の手紙はきっとポストの奥に埋もれてるのだろう。出かける支度をするためにシャワーを浴びようとしたらいつまでたっても水が温かくならなくて、しばらく風呂場で寒さにもだえていた。つま先にかかるシャワーの飛沫が冷たい。もしかして、と思って風呂場から出てキッチンに行くと、コンロの火もつかなくて、ガスが止まったことを確信して、わた

ゆきのひ1

 東京に雪が積もったのは何年ぶりのことだろう。その日わたしは休日出勤の代休で一日家にいたので、暗くなってから外に出てその雪の量に驚いた。最後に積もったのはもう数年前になると思うが、今回はその時よりも多く積もっているような気がした。アパートの部屋を出ると、まだ誰にも踏まれていない雪が玄関の前に広がっていた。サクサクと音を立てて積もった雪に靴が埋もれる。パンプスを履いてきたことを後悔した。どうせ近所だし、と何も考えずに普段履きの靴を履いてきたのだが、足首に雪が触れて冷たい。いつも

東京の真夜中の音

 いままで気づかなかったが、そのコップはよくよく見ると傷だらけだった。ガラスの表面には経年による摩耗で無数の小さなキズが刻まれている。卓上にはおかわり自由のジャスミン茶がピッチャーに入って置かれていて、他の客はタクシーの運転手の中年の男が一人いるだけだった。麺カタ、アブラ少なめで。席について、食券のプレートをテーブルに置いて、顔なじみのマスターにそうオーダーを伝えると、その傷だらけのコップをひとつ手にとり、ジャスミン茶を注いで出してくれた。テレビでは全豪オープンが中継されてい

イチョウ並木と雲と人

 おーう。六年ぶりに突然会った鈴原さんはオレにそう声をかけてきた。後で数えてみて、それが六年ぶりだと知ったが、鈴原さんと最後に会ったのはもっと昔のことだったように思えて仕方なかった。過ぎた年数を数えると、鈴原さんはもう四十をゆうに越えているはずだったが、当時の印象とあまり変わっていなかった。鈴原さんがなぜここに来ていたのかは知らないが、オレは神宮外苑のいちょう祭りに出店者の関係者として来ていた。イチョウ並木を見に来た人たちのこのとんでもない人混みのなかで鈴原さんと出くわしたの