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わたしは朝が嫌いだ。ごみ収集車の音も嫌いだし、子供達が通学する音とか、街行く通勤する会社員たちの姿とか、モーニングメニューしか売っていないマクドナルドとか、人がぎゅうぎゅうに詰まった満員電車とか、そういうのがとにかく嫌いだと、いつも思う。なぜ嫌いなのかはあまり考えたことがなかったが、わたしはそれでもやっぱり朝が嫌いで、朝の中にいると、嫌な気分になることが多い。基本的に、夜型だからなのかもしれない。朝というのは、新しい一日の始まり、というよりも、わたしにとってはただの夜の終わ
その夜オレは泥酔していた。確か、外で飲んで帰って、そのまま部屋でさらに飲みながら寝てしまって、深夜二時を過ぎた頃に岡里からの電話で目が覚めた。岡里は大学の頃の友人で、当時、家が近かったこともあって、よく連絡を取っていた。その電話は、本当に大したことの無い用事で、まだ起きてる? ガムテープ借りれない? とか、USBメモリちょっと使いたいんだけどなんか余ってない? とか、そんなような用事だった。とにかく、何の用事だったかは覚えていないが、電話がかかってきて、それでオレは目が覚め
ファミリーマートの店内には、来客を告げる人感センサーのチャイムがついていて、客が入ってくると独自のチャイム音が鳴るようになっている。べつにファミリーマートのために専用に作られたチャイムではなく、たしか、パナソニックの商品のために作曲されたチャイムだったはずだが、ファミリーマートであまりにもよく耳にするので、ファミマの音だ、と思っている人も多いだろう。どういうわけか、阿佐ヶ谷にあるオレのアパートの玄関のチャイムはそれで、宅急便が届くだけでファミマの入店音と同じ音を聞くことがで
いままで気づかなかったが、そのコップはよくよく見ると傷だらけだった。ガラスの表面には経年による摩耗で無数の小さなキズが刻まれている。卓上にはおかわり自由のジャスミン茶がピッチャーに入って置かれていて、他の客はタクシーの運転手の中年の男が一人いるだけだった。麺カタ、アブラ少なめで。席について、食券のプレートをテーブルに置いて、顔なじみのマスターにそうオーダーを伝えると、その傷だらけのコップをひとつ手にとり、ジャスミン茶を注いで出してくれた。テレビでは全豪オープンが中継されてい
わずかに視界が歪んだような気がした。自分のいる場所が後ろに下がるような錯覚、ビデオカメラで後ろにスライドしたり、ズームアウトしたりするような、そんな感じで、薬が鼻の粘膜から吸収されるのを感じた。その夜おれは眠れなくて、苛立っていた。神経も身体もぐったり疲れているというのに、どういうわけか眠れず、時間を持て余したまま深夜が過ぎていった。仕方がないので、随分と久しぶりにその安定剤を砕いて鼻から吸った。この程度の安定剤で、とは随分と安上がりになったものだ。昔は睡眠薬でそれと同じこ