【1話】生まれ【まだ人間】
生まれは雪国の中規模都市。
幼少期、貧乏では無かったが、裕福でも無い、平々凡々な中流家庭に生まれたつもりだった。
ただ、高校を卒業してしばらくするまで、俺は何故か親の職業を知らなかった。
家は持ち家の3LDK。
築数十年、2棟が向かい合う団地型マンション。
釣りが趣味の父親の車は、サバンナでも走れるような、鹿避けをフロントにつけた三菱パジェロだった。
小学校で母親の趣味なのか塾に行かされ、小6の頃には中3くらいまでの勉強ができた。
中学で仲良くなった友達は、いわゆる不良少年グループ
俺は喧嘩はしないし、痛いのは大嫌い。
噂を聞いては、人の喧嘩を自転車で野次馬しにいったり、精々CDを万引きして中古屋に売りに行って小遣いにする程度の、畜生子悪党だった
(昔は高校生でもCDやゲームを身分証も親の同意書も無しで売る事ができた)
ティンバーのブーツ、誰を真似たのかも覚えていない大きいバックルのベルト、デッキーズのカラパンを腰履きし、ウォレットチェーンをぶら下げて歩く、今考えると吐き気がする程ダサい恰好だった。
小学校の時の勉強貯金のおかげで、中学時代は殆ど勉強する事もなく、そこそこの公立の進学校に入学した。
高1の夏休み明けに学校近くのカラオケ店での飲酒と喫煙で1週間の停学になり、その2か月くらい後に友達と車を盗んで無期停学になった。
盗んだのは米屋のライトバン。
エンジンをかけたままで、米を搬入している所を乗り込んで逃走するという、計画性も無い衝動的なイタズラ。
その頃原付も1台盗んだけど、ガソリンが尽きた時に、スタンドに行くのを日和り、ホームセンターに売ってたエンジンオイルをタンクに入れてエンジンを焼いてしまった。
どうして勉強はできたのに、ホームセンターでガソリンは売って無い事を知らなかったのだろう。
結局その時の相方の「A内」君が一人で運転している所で警察に発見され、無事御用に。俺も警察署に呼び出された。
ちなみに彼は停学明けが俺より何故か1日長かった。
どうやらこの2回目の停学は実は退学処分の予定だったらしいが、担任の「I岡先生」という、変わった苗字の先生が、職員室で教頭に土下座して無期停学で勘弁してくれたらしい。人生で唯一の恩師といえる教師だった。
高校2年の始め頃だろうか、最初のギャンブル「パチスロ」を覚えた。
きっかけは先輩からゲーセンで教えてもらった「ハイパーラッシュ」という台だった。
その後5000円を握りしめて「花火」という台を打ち、初陣を勝利してしまったせいですっかりのめり込み、よくわからないまま勝ったり負けたりしながら高校生活を終え、よくわからない大学の、よくわからない学科に進学した。
大学は、入学式(というのだろうか)の1日しか行く事はなかった。
というのも、その後しっかりパチスロを勉強(?)して、実際のスロプロ的な連中とつるみ、そこそこの金を稼げるようになったから、とても学校なんて行く気にはならなかった。
この頃の俺は、人生で一番財布に金を入れていたと思う。
そして数日が過ぎ、ある日祖父が倒れた。
その葬式で今までちゃんと話した事が殆ど無かった父との会話で父の職業を知る事になった。
-続くかもしれない-
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