現実から目を逸らさない議論を

(2020年10月6日)

あまり我々日本人は意識していないが,日本の医療制度は,低廉な自己負担で驚くほど自由な治療を受けられる。

保険診療でできる治療範囲が広い上に,イギリスなどで採用されている初診の制限(まず「ホームドクター」の診察を受けてからでないと専門医の紹介は受けられず,レントゲン1枚とるのにも数週間単位の時間がかかるとのこと)もない。

また,難病になってもその疾患が難病指定されていれば治療費は無料,そうでなくても高額医療費の還付制度があるので,相当高額な治療費自己負担があっても,月に支払う実際の額は数万円程度で済んでいる。

今回トランプ大統領が新型コロナウイルスで入院し,各種薬剤を使用した濃厚な治療を受けたが,未承認薬剤は除いてアメリカ合衆国大統領と同等の治療が誰でも受けられるのが今の日本(「実は進歩している新型コロナウイルス感染症に対する治療法」)。

日本では感染症法上の指定があるので治療費は無料だが、アメリカでは保険会社負担分としてトータル1億円以上の請求がなされるという(Yahoo)。今回の新型コロナウイルス関連は、アメリカでも政府や保険会社が特別に費用負担もしているようだが、普通の疾患の場合には、医療保険に加入していない者は、治療を断念せざるを得ないことも多いようだ。

また,日本の医療制度では、新型コロナに限らず、高価な薬だけでなくCTもMRIもレントゲンもあまり待たず検査が受けられるのが現状だ。

人口構成における高齢者層の割合がこれからも増大していくこと,借金頼みがいつまでも続かないことを考え合わせれば,消費税などの国民負担を現状程度に収め続けるとすれば(あるいはむしろ切り下げたいというのなら),現在の手厚いサービスを見直す議論をせざるを得ないのが本当のところ。

しかし,トレードオフは嫌がり,受益は無限定に要求するのが正義という子どものような議論が横行し,しかもそれが賞賛されるのが今の日本社会。

だから,政治もマスコミも世論も,そこから目を逸らし続けているが,少なくとも医療に関する社会保障についても現状を分析し,他の先進国とも比較した冷静な議論は開始されるべきだ。

そして,今の医療サービス切り下げを嫌うのであれば国民負担(個人だけでなく企業も)を上げることになろうし,国民負担の上昇を嫌うのであれば,医療サービスも切り下げて行かざるを得ない。何事にもトレードオフの関係は成り立っているし,政治にそれを切り離す魔法は存在しない。

なお,この問題提起について,短絡的に「福祉切り捨て」とかのステレオタイプの批判がされるとすればそれは的外れということを予め申し上げておく。今回の問題提起は,今のままでは続かないことが目に見えている医療の現実について,現状と近未来予測をどう捉え,どのような未来の選択をしていきますか?というニュートラルな問いかけをしているだけなのだから。

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