なぜ江戸時代は250年も続いたのか ~ リストラの効用
今年(2023年)の大河ドラマは徳川家康が主人公で、これにまつわる記事やテレビ番組をあれこれ目にする機会が多くあります。私の人生で多くの影響を及ぼした本というのがありまして、これは隆慶一郎の「影武者 徳川家康」です。週刊少年ジャンプでこれを原作にしていたマンガが掲載されていたこともあり、この本の話をするのは気恥ずかしいところもあるのですが、最初に目にしたのは両親が亡くなってすぐ。自分が、影武者のように担がれ、会社のトップの神輿として使われている、そんな感覚でこの本を貪るように読んだことを思い出します。
そんなことを話したのか、マッキンゼーの面接で「江戸時代ってなんであんなに長く続いたと思いますか」という質問を受けました。たぶん聞いた側は憶えていないと思います。私は「世の中全体の厭戦気分」と答えたような気がします。それを聞いた面接官は明らかに不十分という態度で(苦笑)、それはあるにしても、仕組みの面でどうなんだ、という質問を足してきたような気がします。ここから先の記憶はあまりはっきりありません。
このやりとりについてはそれっきりなのですが、気になって考え続けていたことも事実。私自身は歴史学者でもないので、ここから先は、断片的な知識に基づく、あくまで私の個人の感想的なものになりますが、書いてみたいと思います。歴史的事実と異なる可能性があることをご容赦いただきたいですが、一つ言いたいのは「リストラの成功」ということだと思っています。
戦時体制から平時に移るにあたって、必要だったのは、侍の数の削減であり、武器の減少。それが、秀吉の刀狩から始まり、朝鮮出兵、関ヶ原の合戦、大阪の陣と経て、大規模なリストラが成功したということ。新体制で社会がうまくいっているという状況下で、主流派の人々は現状維持を望むようになっていく、そういった社会状況をつくることに成功したというのが江戸幕府の長期政権を実現した理由です。(私の回答した「厭戦気分」とはここのうわずみの部分を捉えている言葉のような気がします。)
リストラにあい職を失った武士たちは、大阪の陣で死んでいき、不満分子は世の中に残ることすらありませんでした。もちろん様々な立場があり、禍福も人それぞれですが、社会全体を安定的で持続可能な形にしたリストラの成功例と私は今は捉えています。