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びわの目が見えるということ

アニメ『平家物語』(2022年/全11話)監督 - 山田尚子 キャラクター原案-高野文子

琵琶法師により語り継がれ、後世の文学や演劇に大きな影響を与えた大古典『平家物語』。
圧倒的語り口による古川日出男訳を底本に、精鋭クリエイターによって初のTVアニメ化。

原作と違うのは語り手のびわの目が見えること。これはアニメの特性で、もともと盲目の琵琶法師の騙りとして描かれていた『平家物語』は耳で聴く文学であったはずなのです。だから、古川日出男訳もその特性を生かして短文でリズミカルなラップ調とでも言えるような戦記物であったわけです。そこがアニメとは大きな違い。

そしてびわの目に二つの世界が見えること。一つは現実界、そして、もう一つが未来の平家滅亡の世界。つまり、彼女は巫女的な霊能者であり語り部だということ。それは、芸能のあるべき姿ですね。

さらにびわが語るのは武家社会よりも貴族社会です。徳子がヒロインとして描かれるのは宮廷物語として、『源氏物語』や中世に描かれた女性文学に近いように思えます。政略結婚とその悲劇は、中世の女性文学そのものです。そして平清盛よりも、その息子たちである重盛の悲劇にスポットを当てている。

耳で聴く『平家物語』は、そのリズミカルな音のつらなりや渾然とした武将たちの名前や合戦での激しさをメインに、戦記物として、語り継がれていました。その奥には仏教的な説話文学もあるのですが、どっちかというと古川日出男訳は新旧交代のダイナミックさ(戦記物語)やその下で蠢くもの(説話文学)たちを描いているのです。

その違いがアニメではある。宮廷文学としての女性の悲劇と一つの時代の終わりの犠牲になる人々。そして、その中に音楽は癒やし(笛の音)と感情の爆発(琵琶の音)がある。そのバランスが見事なアニメだと思います。主題歌には、光あふれる日常を歌っているのですが、それが非日常に激変していく情景は、現代の社会と重なる。

女性監督であるから、武勇伝的な要素は少なく貴族社会の華やかな世界です。それはびわの瞳そのもの世界なのかもしれない。そこにファンタジーがある。そして、もう一つに悲劇もある。何よりも原作との違いは仏教説話的な暗さもないことですかね。そこをファンタジーの明るさに変えている。


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