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シン・現代詩レッスン31

今日は川本皓嗣『アメリカの詩を読む 』から「第一講 ロマン派の名手たちエドガー・アラン・ポーヘレンに』」。ポーの詩は、古典の英語詩のセオリーに則って理論的に作られている。抒情詩であるのだが、理知的なものがあるとフランスのボードレールなどに評価されている。アメリカではそれほど評価はされていなかった(むしろ三文文士だといわれていた)。

しかし、フランス象徴詩の源流として重要な詩人となる。その詩作の方法論を大学教授である川本皓嗣が解説していくのだが、それらは文学史の詩学の講義なのでここでは簡単に説明することにする。それはこのレッスンが実作としてのレッスンであり英語の文法や韻律分析ということで、日本語でそれを当てはめようととしても無理があるということだった。

英語とフランス語は兄弟言語のようだから、その後マラルメが『構想の哲学』で「大鴉」の技法を解説したりするのだがその方法論が上手く当てはまっていく。それはアクセントと音韻が日本語では詩の決め手にならず(日本語ラップの苦労するところなのだろう)、日本語の韻律は音数で七五調の調べで抒情性を出しているというのは、四拍子という農耕民族のリズムだという。

音韻やアクセントにきわめて厳格なのは漢詩の場合そうであるのだが、その漢詩から日本語の和歌へと流用されていたりするのだ。そのへんの和歌(抒情詩)がヒントになるかもしれない。ポーの英詩が英語の文法や韻律を理解しなくても感じられる共通感覚を見出していきたい。それにはYouTubeで出ている原詩の朗読は映像もあって理解を助ける。

ポーヘレンに』がヨーロッパのロマン派の亜流だというのは、その底流にローマやギリシヤの神話が隠されているからだ。

その底流に繰り出す舟唄の伝統。それはアクセントが「ヘレン」という呼びかけから強弱のリズムが波のように「弱強五歩格」で流れ、三行(章)で舟が運ばれていくように結句の美の永遠性に繋がっていくのだ。そのときにキーワードになる言葉が象徴として、例えば「ヒヤシンス」という花のによって優雅な匂いを伝えるのは、それがホメロスの叙事詩『オデュッセイア』では女性の髪の毛を伝える紋切り型となっているからだという。そういうことに無知であっても「ヒヤシンス」という冷たい言葉の響きから人の感情を見立てるのは和歌では訓練されていると思う。

ヘレンはけっこう熟女からイメージしたポーの詩であるのだが、「アナベル・リー」はロリータのモデルとしてイメージさせられるので、こちらの詩の方が好きになるかもしれない。

舟唄をイメージして。メンデルスゾーンの舟唄。

To Helen

Helen, thy beauty is to me
  Like those Nicéan barks of yore,
That gently, o're a perfumed sea,
  The weary, way-worn wanderer bore
  To his own native shore.

「ヘレンに」という呼びかけからはじまる。

ヘレンは美の象徴ということから、「弱強五歩格」というアクセントらしい。thyはyourの古語だという。古典調これは七五調の調べで応用できる。Nicéan barksはニケーアの船という。barksも古語でNicéanは神話の土地の名前。
way-wornは旅に疲れた、wanderer放浪者で彷徨う「オデュッセイア」をイメージしているという。故郷に帰る船というこっとでヘレンは母性的な存在だという。wの頭韻の連なりが疲労の重さとして響くという。

響子に

響子様、女神を呼ぶや五十鈴にて
雛流しの浮舟を見し

やどかりの詩

五十鈴は天河神社の鈴でアマテラスを呼び出す鈴だが、ここではアマテラスは女神ということにしておく。浮舟は『源氏物語』のイメージから雛流しとしての供養的な。つまり黄泉の国への暗示として。

On desperate seas long wont to roam,
 Thy hyacinth hair, thy classic face,
Thy Naiad airs have brought me home
  To the glory that was Greece,
  And the grandeur that was Rome.

第二連。desperateは絶望的なseasで荒海をroamは徘徊する「私」という倒置法になるのだが、次に来るのはヒヤシンス(彼女)の髪である。髪が荒海を象徴しているのか。冷たい底流に流れる古典的な様子。Naiadはローマの水の精霊(ニンフ)が私の故郷に帰って来る。
ギリシアとローマは韻を踏んでいるという。栄光のギリシヤと壮麗なローマ。

水底にああ無常にも沈みかけ
あじさゐの花手水はきづな

花手水はお釈迦様の祈りの儀式であるが、その水が鎖となって水底へ引きずり込んでいくイメージ

Lo! in yon brilliant window-niche
  How statue-like I see thee stand,
The agate lamp within thy hand!
  Ah, Psyche, from the regions which
Are Holy-Land !

第三連は「聖地」のイメージを浮かび上がせる。agate lamp「瑪瑙のランプ」やPsycheはプシュケー(ヘレナのプシュケーに呼びかける)。

響子に

ああ響子、女神を呼ぶよ五十鈴にて
雛流しの浮舟を見し

水底にああ無常にも沈みかけ
あじさゐの花手水はきづな

月影よ吾をサルベージ浮上させ
君の名をまた呼べ、響子!、響子!

響子は架空の恋人の名前、ヘレンに掛けた。女の子が生まれたら響子にしようと思っていたのだ。


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