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人間を止めた者同士の繋がりの映画

『TITANE/チタン』(フランス/2021)監督ジュリア・デュクルノー 出演ヴァンサン・ランドン/アガト・ルセル

解説/あらすじ
幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来<車>に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。遂に自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴィンセントと出会う。10 年前に息子が行方不明となり、今は独りで生きる彼の保護を受けながら、ふたりは奇妙な共同生活を始める。だが、彼女は自らの体にある重大な秘密を抱えていた──。

これはぶっ飛んでいるというか、今までに観たことがない狂気の映画。クローネンバーグの『クラッシュ』に似ているようで、エロスを推し進めるのではなく人間愛の映画なのか。出産まで行くのが凄いというか女性監督ならではで、男ではあそこまで描けないと思う。サイバーパンクの映画。

最初がモーターショーのシーンなのだが、最近そういうニュースは日本ではほとんどなくなった。バブル期はコンパニオンとかも話題になったものだが。今のモーターショーはあんなに過激になっているのか?ほとんど別世界で驚く。コンパニオンのアレクシアは、セックス・ダンスだった。あとヒロインがキカイダー。

あまりにもぶっ壊れすぎていて笑ってしまうようなシーンも。行方不明の息子の写真を見て、それに似せようと顔を殴ったり洗面所で叩きつけたり。心臓の弱い人は見ないほうがいいと思う。出産に弱い男も見ないほうがいい。音楽とかスタイリッシュな部分もある。

監督のジュリア・デュクルノーは、クローネンバーグ『クラッシュ』が好きで尊敬する監督だという。映画の雰囲気は似ているが、エロスだけではなく出産まで描くのが女性ならではだ。妊娠に対する恐怖心があるのかな。チタンの子供を産むのだから、そりゃあるだろう。芸術を生み出す恐怖につながってくるのかもしれない。これだけの作品ならば賛否両論あるだろうし、いままでの映画とは感覚が違うのだ。麻薬的。

もっともアレクシアはまともな人間に描かれてはいない。短絡的だし、感情を制御できない殺人鬼だった。ただジェイソンではないのは人間の弱さも持っているからだ。体力は女性だし、武器を携帯しているから男を殺せるというパターン。

そんな彼女が妊娠したことで、それがハンデとなるのだ。ただ物語しては、車とセックスして出来た子供だ。どうしてかは突っ込まないで欲しい。映画を観ればわかること。

アレクシアは妊娠して、行方不明の青年を装うのだが、顔を変えるために自分で自分を殴る。洗面所に自分で叩きつける。ほとんどありえない発想である。それで行方不明の子供だと認知されてしまうのも驚きである。

後半は、この父親代わりの男との愛情関係の映画になってくる。ほとんど親子関係を問う。血がつながらないとも、二人共異常さという人間の中で疎外された者同士の繋がりだった。常人には理解しがたい。

アレクシアが妊娠を隠すことによって、さらしで胸や腹を押さえつけるシーンがある。女性性の拒絶、ほとんど中性的な感じでもある。そういえばアレクシアはレズでもあったのだ。

妊娠したことによって、保護者を求めたのかもしれない。それがもう一人の変人の父親代わりの男の登場だ。緊急センターの消防士で、老体に覚醒剤のようなものを打ち続けて仕事をしている。老いを非常に恐れているのだ。

アレクシアの妊娠とヴィンセントの老いに対する恐怖は、人間そのものような恐怖だ。女であることのハンデと老人であることのハンデである。この世界がそのように出来ている。その反逆しなければならない2人の関係性だった。生まれてきた子供が一番怖いのだけど、続編が出来るのではないか?


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