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猫の恋「荒地」に生きて死んでゆく

『荒地の恋』(WOWOWオリジナルTVドラマ/2016年)

原作ねじめ正一の「荒地」の北村太郎が田村隆一の妻と浮気するメロドラマ。通俗的なドラマだけど興味深い。田村隆一は酒好きで女好きの妻を言葉いたぶる最悪な男として描かれている。松重豊が演じているんだけど面白い。北村太郎ファンは見たほうがいいかも。

第2話。北村(北沢)の妻役の富田靖子がいい。『死の棘』の松坂慶子と重なる。北村役のトヨエツは、まあまあ。鈴木京香はいまいちかな。役柄というよりもキャラが悪女だからな。鮎川役の田口トモロヲがいいのだった。吉本隆明はいないのか?へんなじいいがそうなのか?よくわからん。へんなじじいは吉本ではなく、アル中で死んだのは中桐雅夫という詩人だった。詩誌『Le Bal』の主催。

第三話。加山匡夫というのが吉本かな。吉本はやっぱ明らかにしてはまずいんだろうか?よくわからない人になっている。北村太郎の『悪の花』は実際に出版されたんだ。読んでみたくなった。絶版だった。Amazonで八千円。このドラマのせいかな。

見終わった。やっぱノスタルジーのドラマだった。北村太郎の娘が編集者だから、娘の情報を元にねじめ正一が書いたのかと思った。父としての北村太郎ではなく、詩人としての北村太郎。結局みんな死んでいくんだな。田村隆一は最後に残って首を吊るというセリフがあった。

「荒地」に生きて「荒地」に死んでいく。そういうドラマ。戦後詩の「荒地」メンバーが果たした詩の役割が伺われる。そこに恋愛が絡んでくる。で、一番凄かったのがリリィの登場だ。晩年だよね。リリィの役、最所フミは翻訳者で鮎川信夫の妻になっていた。鮎川信夫が一番いい役だったな。まあ看取られて死ぬのほうが幸福なのは間違いない。田村隆一ももう亡くなっていた。

それぞれの代表作が『東京詩集3』に載っていた。代表作の冒頭にすべてが出ているな。

鮎川信夫『白痴』

ひとびとが足を止めている空地には
瓦礫の上に材木が組み立てられ
鐘の音がこだまし
新しい建物がたちかけています
田村隆一『秋』

繃帯をして雨は曲がっていった 不眠の都会をめぐって その秋 僕は小さな音楽会へでかけて行った 乾いたドアに閉ざさえれた演奏室 固い椅子に腰掛ける冷酷なピアニスト そこで眠りから拒絶された黒い夢がだまって諸君に一切の武器を引き渡す 武装がゆるされた 人よ愛せ 強く生を愛せ
中桐雅夫『一九四五年秋Ⅱ』

夕焼けのなかの、
一枚の紙幣のようなくろい富士、
その麓まで、
あかく錆びた草が一面に繁茂し、
たがいに絡みあって、風に身をよじらせている。
(略)
僕は、絶望の天に向って、ゆるやかに投身する。
北村太郎『センチメンタル・ジャーニー』

滅びの群れ、
しずかに流れる鼠のようなもの、
ショウウィンドウにうつる冬の河。
吉本隆明『佃渡しで』    

佃渡しで娘がいつた
〈水がきれいね 夏に行つた海岸のように〉
そんなことはない みてみな
繋がれた河蒸気のとものところに
芥がたまつて揺れてるのがみえるだろう
ずつと昔からそうだつた


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